生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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453.【ハル視点】お勧めの道順

「クリス、明日からの予定ってもう決まってるのか?」
「そうですね、だいたいの所は。でもカーディが行きたい場所があるなら予定に追加しますよ?」
「えー特に思いつかないけど…クリスの親戚の家にも行くって言ってたよな?」
「ええ、でもそれは明日の朝にでもちょっと顔を出せば良いだけですよ」
「そうなのか?」
「それが終わったら素材の仕入れに行きましょうか?」

 階段に腰を下ろしたクリスとカーディさんは、仲良く顔を寄せ合って明日からの予定を相談し始めた。

 明日からの数日間は、イーシャル領都からは一切出ない予定らしい。領都内では護衛も必要無いと言われているから俺たちは休日になる。つまりアキトと二人っきりで出かけられるって事だ。

 折角だから俺もアキトが行きたい場所を聞いたり、俺のお勧めの場所について話したりしたいんだけどな。会話が弾んでいる二人の姿をちらりと見てから、俺は黙り込んだままのアキトの方へと視線を向けた。

 黙り込んでいるといっても、別に体調が悪かったりするわけじゃない。むしろその逆だな。

 アキトはワクワクした様子で、元気いっぱいに視線を巡らせている。楽し気に周りを見回したと思ったら、不意に目をつむって何かを考えこんだりと忙しそうだ。

 少しぐらいは俺にも構って欲しいとは思ってしまうけれど、キラキラと目を輝かせて周りを観察しているアキトも可愛いんだよなぁ。

 まあ会話は後でも出来るから、今はくるくると変わっていくアキトの表情の変化を楽しむとするか。



「皆さん、そろそろ移動しましょうか?」

 クリスがそう提案したら、カーディさんは目をこすりながら立ち上がった。

「あー、うん。そうだな、居心地良くて眠くなってた」

 会話が途切れたなとは思っていたが、その理由が眠くなっていたからだとは思わなかったな。アキトは声に驚いたのかハッと二人の方を見ると、慌てて答えた。

「俺も賛成です」
「ああ、そうしよう」

 アキトの気が済んだなら、ここに長居する理由は無い。俺はアキトに続いてさっと立ち上がった。

 じゃあ階段を上ろうかと提案しようとしたその瞬間、アキトが不意に声を上げた。

「あ、ハル!あっちにも道があるんだね?」

 そう言ってアキトが指差したのは、階段の向こう側にひっそりとある小道だった。初めて来たのにあの道に気づくなんて、アキトもすっかり冒険者らしくなったなと感心してしまった。

「ああ、あっちは階段じゃなくて、ゆるやかに上っていけるように作ってある坂道だよ」

 辿り着く先は一緒だけど、体力に自信が無い人はあっちの方が楽なんだと俺はそうアキトに伝えた。

「あっちの道はそういえば通った事がありませんね」
「俺も無いな…ただ小さな雑貨店とかパン屋なんかがあったりしてなかなか楽しいって…話は聞いた事があるぞ」

 口にしてから、やってしまったと思った。アキトの成長っぷりに感動していたせいで、深く考えずに興味をそそる言い方をしてしまった。アキトとカーディさんの目が、好奇心でキラキラと輝いている。

「そうなんだ?」
「お、それは楽しそうだな、行ってみないか?」

 ワクワク顔のカーディさんがそう尋ねてくるけれど、俺とクリスは困った顔をしてそっと顔を見合わせた。ごめん、クリス。今のは間違いなく俺が悪い。

「あれ?駄目なのか?」
「駄目って訳じゃないんですが…」

 ここの階段でもがっかりしなかった二人だから、多分どの道順で移動しても感動はしてくれると思う。それでも、折角なら一番美しいと言われる景色を最初に見てもらいたいんだよな。

「どうしても行きたいなら後日にすれば良いんじゃないか?」

 誤魔化すようにそう口にすれば、カーディさんは真剣な顔でクリスを見つめた。

「クリス、理由は?どうせ何かあるんだろう?」
「今日だけはこっちの階段から上って欲しいなと…そう思ったんですよ」

 詳しい理由はまだ言えませんと続けたクリスをじっと見つめてから、カーディさんはアキトと俺の方をちらりと見た。

「ハルも同じ意見か?」
「ああ、今日だけは階段を勧めたい」
「だってさ、アキト。今日はこっちに付き合ってくれるか?」
「あ、うん。もちろん!」

 何か理由があると理解した上で、カーディさんは俺とクリスの勧めに従ってくれるみたいだ。ありがとう。



 階段を上りきった所で、アキトとカーディさんは目の前の景色に視線を奪われてハッと息を飲んだ。

 やっぱり何度見ても、トリクの花で彩られた街並みは見事の一言だった。この白と水色の小さな花が、不思議と視線を惹きつけるんだよな。

 しかも数が多い。ぱっと周りを見渡しただけでも、水路脇の地面に、道の脇にある花壇に、建物ちかくの植木鉢にと本当に至る所で咲いている。

「うわー綺麗だ!」

 嬉しそうなアキトの声に、自然と笑みが浮かんでしまう。素直な反応がたまらなく愛おしい。

「ああ、これは綺麗だな…。なあクリス、これが見せたかったから階段を勧めたかったのか?」
「ええ、まあ。あっちの道からだと、ここほど景色が良くないんですよ」
「そっか、ありがとな」

 幸せそうに笑い合っている二人を見つめてから、アキトは俺をそっと見上げてきた。

「ハルも、同じ意見?」
「ああ。かと言ってこっちの方が景色が良いからなんて言ったら、感動が薄れるかと思ってな」

 気に入った?と尋ねてみれば、アキトは満面の笑みで思いっきり頷いてくれた。

 うん、この笑顔が見たかったんだよな。
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