454 / 1,561
453.【ハル視点】お勧めの道順
「クリス、明日からの予定ってもう決まってるのか?」
「そうですね、だいたいの所は。でもカーディが行きたい場所があるなら予定に追加しますよ?」
「えー特に思いつかないけど…クリスの親戚の家にも行くって言ってたよな?」
「ええ、でもそれは明日の朝にでもちょっと顔を出せば良いだけですよ」
「そうなのか?」
「それが終わったら素材の仕入れに行きましょうか?」
階段に腰を下ろしたクリスとカーディさんは、仲良く顔を寄せ合って明日からの予定を相談し始めた。
明日からの数日間は、イーシャル領都からは一切出ない予定らしい。領都内では護衛も必要無いと言われているから俺たちは休日になる。つまりアキトと二人っきりで出かけられるって事だ。
折角だから俺もアキトが行きたい場所を聞いたり、俺のお勧めの場所について話したりしたいんだけどな。会話が弾んでいる二人の姿をちらりと見てから、俺は黙り込んだままのアキトの方へと視線を向けた。
黙り込んでいるといっても、別に体調が悪かったりするわけじゃない。むしろその逆だな。
アキトはワクワクした様子で、元気いっぱいに視線を巡らせている。楽し気に周りを見回したと思ったら、不意に目をつむって何かを考えこんだりと忙しそうだ。
少しぐらいは俺にも構って欲しいとは思ってしまうけれど、キラキラと目を輝かせて周りを観察しているアキトも可愛いんだよなぁ。
まあ会話は後でも出来るから、今はくるくると変わっていくアキトの表情の変化を楽しむとするか。
「皆さん、そろそろ移動しましょうか?」
クリスがそう提案したら、カーディさんは目をこすりながら立ち上がった。
「あー、うん。そうだな、居心地良くて眠くなってた」
会話が途切れたなとは思っていたが、その理由が眠くなっていたからだとは思わなかったな。アキトは声に驚いたのかハッと二人の方を見ると、慌てて答えた。
「俺も賛成です」
「ああ、そうしよう」
アキトの気が済んだなら、ここに長居する理由は無い。俺はアキトに続いてさっと立ち上がった。
じゃあ階段を上ろうかと提案しようとしたその瞬間、アキトが不意に声を上げた。
「あ、ハル!あっちにも道があるんだね?」
そう言ってアキトが指差したのは、階段の向こう側にひっそりとある小道だった。初めて来たのにあの道に気づくなんて、アキトもすっかり冒険者らしくなったなと感心してしまった。
「ああ、あっちは階段じゃなくて、ゆるやかに上っていけるように作ってある坂道だよ」
辿り着く先は一緒だけど、体力に自信が無い人はあっちの方が楽なんだと俺はそうアキトに伝えた。
「あっちの道はそういえば通った事がありませんね」
「俺も無いな…ただ小さな雑貨店とかパン屋なんかがあったりしてなかなか楽しいって…話は聞いた事があるぞ」
口にしてから、やってしまったと思った。アキトの成長っぷりに感動していたせいで、深く考えずに興味をそそる言い方をしてしまった。アキトとカーディさんの目が、好奇心でキラキラと輝いている。
「そうなんだ?」
「お、それは楽しそうだな、行ってみないか?」
ワクワク顔のカーディさんがそう尋ねてくるけれど、俺とクリスは困った顔をしてそっと顔を見合わせた。ごめん、クリス。今のは間違いなく俺が悪い。
「あれ?駄目なのか?」
「駄目って訳じゃないんですが…」
ここの階段でもがっかりしなかった二人だから、多分どの道順で移動しても感動はしてくれると思う。それでも、折角なら一番美しいと言われる景色を最初に見てもらいたいんだよな。
「どうしても行きたいなら後日にすれば良いんじゃないか?」
誤魔化すようにそう口にすれば、カーディさんは真剣な顔でクリスを見つめた。
「クリス、理由は?どうせ何かあるんだろう?」
「今日だけはこっちの階段から上って欲しいなと…そう思ったんですよ」
詳しい理由はまだ言えませんと続けたクリスをじっと見つめてから、カーディさんはアキトと俺の方をちらりと見た。
「ハルも同じ意見か?」
「ああ、今日だけは階段を勧めたい」
「だってさ、アキト。今日はこっちに付き合ってくれるか?」
「あ、うん。もちろん!」
何か理由があると理解した上で、カーディさんは俺とクリスの勧めに従ってくれるみたいだ。ありがとう。
階段を上りきった所で、アキトとカーディさんは目の前の景色に視線を奪われてハッと息を飲んだ。
やっぱり何度見ても、トリクの花で彩られた街並みは見事の一言だった。この白と水色の小さな花が、不思議と視線を惹きつけるんだよな。
しかも数が多い。ぱっと周りを見渡しただけでも、水路脇の地面に、道の脇にある花壇に、建物ちかくの植木鉢にと本当に至る所で咲いている。
「うわー綺麗だ!」
嬉しそうなアキトの声に、自然と笑みが浮かんでしまう。素直な反応がたまらなく愛おしい。
「ああ、これは綺麗だな…。なあクリス、これが見せたかったから階段を勧めたかったのか?」
「ええ、まあ。あっちの道からだと、ここほど景色が良くないんですよ」
「そっか、ありがとな」
幸せそうに笑い合っている二人を見つめてから、アキトは俺をそっと見上げてきた。
「ハルも、同じ意見?」
「ああ。かと言ってこっちの方が景色が良いからなんて言ったら、感動が薄れるかと思ってな」
気に入った?と尋ねてみれば、アキトは満面の笑みで思いっきり頷いてくれた。
うん、この笑顔が見たかったんだよな。
「そうですね、だいたいの所は。でもカーディが行きたい場所があるなら予定に追加しますよ?」
「えー特に思いつかないけど…クリスの親戚の家にも行くって言ってたよな?」
「ええ、でもそれは明日の朝にでもちょっと顔を出せば良いだけですよ」
「そうなのか?」
「それが終わったら素材の仕入れに行きましょうか?」
階段に腰を下ろしたクリスとカーディさんは、仲良く顔を寄せ合って明日からの予定を相談し始めた。
明日からの数日間は、イーシャル領都からは一切出ない予定らしい。領都内では護衛も必要無いと言われているから俺たちは休日になる。つまりアキトと二人っきりで出かけられるって事だ。
折角だから俺もアキトが行きたい場所を聞いたり、俺のお勧めの場所について話したりしたいんだけどな。会話が弾んでいる二人の姿をちらりと見てから、俺は黙り込んだままのアキトの方へと視線を向けた。
黙り込んでいるといっても、別に体調が悪かったりするわけじゃない。むしろその逆だな。
アキトはワクワクした様子で、元気いっぱいに視線を巡らせている。楽し気に周りを見回したと思ったら、不意に目をつむって何かを考えこんだりと忙しそうだ。
少しぐらいは俺にも構って欲しいとは思ってしまうけれど、キラキラと目を輝かせて周りを観察しているアキトも可愛いんだよなぁ。
まあ会話は後でも出来るから、今はくるくると変わっていくアキトの表情の変化を楽しむとするか。
「皆さん、そろそろ移動しましょうか?」
クリスがそう提案したら、カーディさんは目をこすりながら立ち上がった。
「あー、うん。そうだな、居心地良くて眠くなってた」
会話が途切れたなとは思っていたが、その理由が眠くなっていたからだとは思わなかったな。アキトは声に驚いたのかハッと二人の方を見ると、慌てて答えた。
「俺も賛成です」
「ああ、そうしよう」
アキトの気が済んだなら、ここに長居する理由は無い。俺はアキトに続いてさっと立ち上がった。
じゃあ階段を上ろうかと提案しようとしたその瞬間、アキトが不意に声を上げた。
「あ、ハル!あっちにも道があるんだね?」
そう言ってアキトが指差したのは、階段の向こう側にひっそりとある小道だった。初めて来たのにあの道に気づくなんて、アキトもすっかり冒険者らしくなったなと感心してしまった。
「ああ、あっちは階段じゃなくて、ゆるやかに上っていけるように作ってある坂道だよ」
辿り着く先は一緒だけど、体力に自信が無い人はあっちの方が楽なんだと俺はそうアキトに伝えた。
「あっちの道はそういえば通った事がありませんね」
「俺も無いな…ただ小さな雑貨店とかパン屋なんかがあったりしてなかなか楽しいって…話は聞いた事があるぞ」
口にしてから、やってしまったと思った。アキトの成長っぷりに感動していたせいで、深く考えずに興味をそそる言い方をしてしまった。アキトとカーディさんの目が、好奇心でキラキラと輝いている。
「そうなんだ?」
「お、それは楽しそうだな、行ってみないか?」
ワクワク顔のカーディさんがそう尋ねてくるけれど、俺とクリスは困った顔をしてそっと顔を見合わせた。ごめん、クリス。今のは間違いなく俺が悪い。
「あれ?駄目なのか?」
「駄目って訳じゃないんですが…」
ここの階段でもがっかりしなかった二人だから、多分どの道順で移動しても感動はしてくれると思う。それでも、折角なら一番美しいと言われる景色を最初に見てもらいたいんだよな。
「どうしても行きたいなら後日にすれば良いんじゃないか?」
誤魔化すようにそう口にすれば、カーディさんは真剣な顔でクリスを見つめた。
「クリス、理由は?どうせ何かあるんだろう?」
「今日だけはこっちの階段から上って欲しいなと…そう思ったんですよ」
詳しい理由はまだ言えませんと続けたクリスをじっと見つめてから、カーディさんはアキトと俺の方をちらりと見た。
「ハルも同じ意見か?」
「ああ、今日だけは階段を勧めたい」
「だってさ、アキト。今日はこっちに付き合ってくれるか?」
「あ、うん。もちろん!」
何か理由があると理解した上で、カーディさんは俺とクリスの勧めに従ってくれるみたいだ。ありがとう。
階段を上りきった所で、アキトとカーディさんは目の前の景色に視線を奪われてハッと息を飲んだ。
やっぱり何度見ても、トリクの花で彩られた街並みは見事の一言だった。この白と水色の小さな花が、不思議と視線を惹きつけるんだよな。
しかも数が多い。ぱっと周りを見渡しただけでも、水路脇の地面に、道の脇にある花壇に、建物ちかくの植木鉢にと本当に至る所で咲いている。
「うわー綺麗だ!」
嬉しそうなアキトの声に、自然と笑みが浮かんでしまう。素直な反応がたまらなく愛おしい。
「ああ、これは綺麗だな…。なあクリス、これが見せたかったから階段を勧めたかったのか?」
「ええ、まあ。あっちの道からだと、ここほど景色が良くないんですよ」
「そっか、ありがとな」
幸せそうに笑い合っている二人を見つめてから、アキトは俺をそっと見上げてきた。
「ハルも、同じ意見?」
「ああ。かと言ってこっちの方が景色が良いからなんて言ったら、感動が薄れるかと思ってな」
気に入った?と尋ねてみれば、アキトは満面の笑みで思いっきり頷いてくれた。
うん、この笑顔が見たかったんだよな。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。