生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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455.【ハル視点】特別な景色

 トリクの花で彩られたイーシャル領都の街並みは、確かに見るたびに綺麗だなと思う。

 そういつ見ても綺麗だなとは思うんだよ。思うんだけど、何度も来た事があるせいで、俺にとってはすっかり見慣れた景色になってしまってるんだよな。隣で冷静に街並みを見つめていたクリスも、多分最初は俺と同じ気持ちだったんだと思う。

 だけどそんな景色も、アキトとカーディさんの口から語られると特別なものに思えてくるんだから不思議だ。

 あの派手な建築物は何のために作られた建物なんだろうとか、考えた事も無かったな。トリクの花を真剣に観察していたと思ったら遠くに見える山に目を止めたり、はたまた風に乗ってきた料理の香りに騒いでみたりと二人の行動は本当に予想外だ。

 予想外だからこそ見ていて飽きないんだよな。

 もし今アキトが俺と二人きりでここに来ていたら、アキトはきっとここまではしゃいではくれないだろう。気を使ってすぐに移動しようとか言い出すアキトの姿は、簡単に想像がつく。

 俺にももっと色んなアキトの姿を見せて欲しいと少し悔しい気持ちもあるけれど、友人になったからこそできる付き合いってのもあるんだろう。

 そんな事を考えながらぼんやりとアキトを見つめていると、楽し気にはしゃいでいた二人は急にぴたりと動きを止めた。

「はー堪能した!」
「俺も!」

 カーディさんとアキトは顔を見合わせて楽し気に笑っている。

「もう良いの?」
「まだ時間はありますよ?」

 ちょっと見つめすぎたかな。そのせいで遠慮してるんじゃないかとそう尋ねてみたけれど、二人は満足そうに笑って答えてくれた。

「大丈夫だ、二人ともありがとな」
「待っててくれてありがとうございました」
「いや、気にしないで」
「お二人が楽しめたなら何よりですから」

 俺達も二人の反応を楽しんだからなとはさすがに言えなかった。

「それで?クリス、これからどうする予定なんだ?」
「そうですね…そろそろ宿に行こうと思うんですがどうです?」
「あー今日は歩き続けで結構疲れてるし、良いんじゃないか?」

 カーディさんはクリスの提案に即座に賛成すると、ちらりとアキトの方を見た。

「俺も賛成です」
「ああ、俺も妥当だと思うよ。それで、どこに泊まるんだ?」
「黄昏の館に予約を入れてあります」

 黄昏の館といえば、このイーシャル領でも五本の指に入る高級宿じゃないか。見た目だけを高級にしているそこらの宿とは違い、百年以上前の古い建物を補修して経営している。俺は利用した事は無いが、温かみのある宿だと兄から聞いた事があった。

 それにしても護衛依頼中の冒険者のために黄昏の館を選ぶとは、普通ならあり得ない待遇だな。待遇が良すぎるからと俺達は別の宿を取ると言っても、クリスはきっと、いや絶対に譲らないだろうな。

 短い付き合いだが、それぐらいは俺にも分かる。ここはクリスの好意に甘えておくか。 

「それならこっちの道だな」
「あ、でも、その前に…」

 クリスはそこで急に言葉を途切れさせた。

「ん?どうかしたか?」
「えーっと…ハル、こちらの道から行くのはどうですか?」
「ああ、なるほど」

 アキトが見たいと言っていたあの噴水に繋がる道を、クリスはそっと指し示していた。

「うん、それは良い考えだな。そっちにしよう」

 俺はさっとアキトの前に手を差し出した。少しの躊躇も無くすぐにきゅっと握り返される手が、たまらなく幸せだ。

「カーディ…」
「なんだよ、クリス。手、繋ぎたいのか?」

 揶揄うようなカーディさんの声が、後ろから聞こえてくる。

「ええ、私はいつでもどこでもカーディとなら触れ合いたいので」

 さらりと言いきったクリスの声に続いて聞こえてきたのは、ぐうと唸るカーディさんの低い声だった。

 うん、この勝負はクリスの勝ちだな。

「ここの水路はかなり大きいね?」
「ああ。この一際大きな水路は、主街道の真ん中を貫くように流れているんだ」
「もし迷ってしまった時は、この大きな水路を辿れば北と南の門までは辿り着けますからね」

 クリスはそう言うと、しっかりと覚えておいて下さいねと真剣な表情でカーディさんに話しかけた。ここの衛兵は信頼できるから何かがあれば駆けこむんですよと言うクリスは、ちょっと過保護過ぎるんじゃないかな。

「おう、分かった。ちゃんと覚えとくな」

 カーディさん本人は、慣れた様子であっさりとそう答えている。いや違うな。これは俺の事を心配しているクリスは可愛いなとか思ってる顔だ。

 本当にお似合いの伴侶同士だなと内心で呆れつつ、俺はアキトの手をきゅっと握りしめてから口を開いた。

「俺が一緒にいるのに、アキトを一人で迷わせたりしないぞ?」
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