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464.我儘ぼっちゃん
「私の両親は、雑貨を主に取り扱う商人でした」
クリスさんは唐突にそう切り出した。
「ああ、クリスの実家の話か」
カーディは俺達の方をちらりと見ると、今はご両親は引退しててクリスの弟さんが継いでるんだーと笑って教えてくれた。
「両親は私を大事に育ててくれましたが…どうしても幼い子供連れでは行けない、そんな場所もあるでしょう?」
「ああ、連れていく方が危険だと判断する事は多いだろうな」
大人にとってはなんてことのない距離でも、こどもにとっては過酷すぎるなんて事は良くある事らしい。そもそも体力が無いからただの移動でも体調を崩す可能性もあるし、そこに更に魔物の危険が重なるからねとハルはあっさりと納得している。
ああ、そっか。魔物も出るこの世界ではこどもの長距離移動はハードルが高いんだな。
「ある日、どうしても両親が一緒に行く必要がある仕事が舞い込んだんですよ」
私を置いていくしかないけれど、一人で家に置いていくのも怖すぎる。そう悩んだご両親が頼ったのが、当時はまだトリィさんに出会う前だったマティウスさんだったらしい。近所に住んでいたから、頼りやすかったんだと思うとクリスさんは続けた。
「それでぼっちゃん呼びに繋がるのか?」
不思議そうに首を傾げたカーディの言葉に、クリスさんはうーと小さく呻いた。
「言いたくないんですけど…」
「俺は聞きたいな?」
「う、カーディが上目遣いでおねだりするなら叶えるに決まってるでしょう」
あ、またいちゃついてる。
「大人になってから考えたら、ただの友人のこどもを預かる事がどれだけ大変か分かったんですが…当時まだこどもだった私にはかけらも理解できなかったんですよ」
「それは仕方ないだろう」
「ありがとう、カーディ。むしろ両親から引き離した悪人ぐらいの気持ちでいたんですよね」
「それでどうしたんだ?」
「ううー…当時の私は我儘を言いまくったんですよ」
「我儘?」
「ええ、朝はウカの乳を温めたものが無いと嫌だーとか、夕食にはスープが無いと嫌だーとかですね」
クリスさんは本当に恥ずかしそうにうつむいたままそう続けた。
「それで、マティウスさんの反応は?」
「それが…完璧に私の我儘をこなした上で、我儘ぼっちゃんって呼び出したんですよ」
「「「我儘ぼっちゃん」」」
「三人で口を揃えてそう呼ぶのはやめてください!我儘を言わなくなったらぼっちゃんだけが残ってしまったんですよ!」
「おや、自分で話してしまったんですか?」
嘆くクリスさんの後ろからひょこっと顔を出したマティウスさんの表情は、どことなく残念そうだ。
「ええ、私が自分で話しておかないと!どうせ私の目の前であの頃の話をするつもりだったんでしょう?」
「ああ、バレてましたか」
楽し気に笑ったマティウスさんは、両手に持っていた料理をずらりとテーブルの上に並べ始めた。その後ろではトリィさんも料理を持って待機中みたいだ。
「おまかせと言われましたので、まずは日替わりのウカの乳を使用した冷製スープと葉物野菜と豆のサラダです」
「メインはもう少しおまちくださいね」
「トリィさん、おかわりお願いしまーす!」
「はーい!」
トリィさんはすぐに注文を受けて去ってしまったけれど、マティウスさんはその場に残ってまっすぐにカーディを見つめた。
「カーディさん。当時のクリスぼっちゃんの話、聞きたいですか?」
「聞きたいです!」
「ちょっ…」
「あの頃のクリスぼっちゃんは、見た目も中身もとっても可愛かったんですよ」
「は?か、可愛い!?あんなにいっぱい我儘ばかり言ってたのに?」
動揺してか珍しく敬語を忘れたクリスさんに、マティウスさんは柔らかい笑みを返した。
「でも、ぼっちゃんは絶対に叶えられないような我儘は一つも言わなかったですよね。しかも我儘を口にする度に、それはもう申し訳なさそうな顔をしていたんですよ」
「あー想像はつきますね」
「カーディ!」
「何より私の出した料理をあんなに美味しそうに食べられたら…あれで料理人になろうって決めたようなものですから」
ふふと笑ったマティウスさんを、クリスさんは呆然と見つめていた。
「…そんなの初めて聞きました」
「初めて言いましたからね、でも本当の話ですよ。ではごゆっくりどうぞ」
マティウスさんは言いたい事だけ言うと、すぐに厨房の方へと戻っていってしまった。
「可愛い…?」
「クリス、良かったな。我儘言ったの実は気にしてたんだろ?」
カーディの言葉に、クリスさんはこくりと小さく頷いた。
クリスさんは唐突にそう切り出した。
「ああ、クリスの実家の話か」
カーディは俺達の方をちらりと見ると、今はご両親は引退しててクリスの弟さんが継いでるんだーと笑って教えてくれた。
「両親は私を大事に育ててくれましたが…どうしても幼い子供連れでは行けない、そんな場所もあるでしょう?」
「ああ、連れていく方が危険だと判断する事は多いだろうな」
大人にとってはなんてことのない距離でも、こどもにとっては過酷すぎるなんて事は良くある事らしい。そもそも体力が無いからただの移動でも体調を崩す可能性もあるし、そこに更に魔物の危険が重なるからねとハルはあっさりと納得している。
ああ、そっか。魔物も出るこの世界ではこどもの長距離移動はハードルが高いんだな。
「ある日、どうしても両親が一緒に行く必要がある仕事が舞い込んだんですよ」
私を置いていくしかないけれど、一人で家に置いていくのも怖すぎる。そう悩んだご両親が頼ったのが、当時はまだトリィさんに出会う前だったマティウスさんだったらしい。近所に住んでいたから、頼りやすかったんだと思うとクリスさんは続けた。
「それでぼっちゃん呼びに繋がるのか?」
不思議そうに首を傾げたカーディの言葉に、クリスさんはうーと小さく呻いた。
「言いたくないんですけど…」
「俺は聞きたいな?」
「う、カーディが上目遣いでおねだりするなら叶えるに決まってるでしょう」
あ、またいちゃついてる。
「大人になってから考えたら、ただの友人のこどもを預かる事がどれだけ大変か分かったんですが…当時まだこどもだった私にはかけらも理解できなかったんですよ」
「それは仕方ないだろう」
「ありがとう、カーディ。むしろ両親から引き離した悪人ぐらいの気持ちでいたんですよね」
「それでどうしたんだ?」
「ううー…当時の私は我儘を言いまくったんですよ」
「我儘?」
「ええ、朝はウカの乳を温めたものが無いと嫌だーとか、夕食にはスープが無いと嫌だーとかですね」
クリスさんは本当に恥ずかしそうにうつむいたままそう続けた。
「それで、マティウスさんの反応は?」
「それが…完璧に私の我儘をこなした上で、我儘ぼっちゃんって呼び出したんですよ」
「「「我儘ぼっちゃん」」」
「三人で口を揃えてそう呼ぶのはやめてください!我儘を言わなくなったらぼっちゃんだけが残ってしまったんですよ!」
「おや、自分で話してしまったんですか?」
嘆くクリスさんの後ろからひょこっと顔を出したマティウスさんの表情は、どことなく残念そうだ。
「ええ、私が自分で話しておかないと!どうせ私の目の前であの頃の話をするつもりだったんでしょう?」
「ああ、バレてましたか」
楽し気に笑ったマティウスさんは、両手に持っていた料理をずらりとテーブルの上に並べ始めた。その後ろではトリィさんも料理を持って待機中みたいだ。
「おまかせと言われましたので、まずは日替わりのウカの乳を使用した冷製スープと葉物野菜と豆のサラダです」
「メインはもう少しおまちくださいね」
「トリィさん、おかわりお願いしまーす!」
「はーい!」
トリィさんはすぐに注文を受けて去ってしまったけれど、マティウスさんはその場に残ってまっすぐにカーディを見つめた。
「カーディさん。当時のクリスぼっちゃんの話、聞きたいですか?」
「聞きたいです!」
「ちょっ…」
「あの頃のクリスぼっちゃんは、見た目も中身もとっても可愛かったんですよ」
「は?か、可愛い!?あんなにいっぱい我儘ばかり言ってたのに?」
動揺してか珍しく敬語を忘れたクリスさんに、マティウスさんは柔らかい笑みを返した。
「でも、ぼっちゃんは絶対に叶えられないような我儘は一つも言わなかったですよね。しかも我儘を口にする度に、それはもう申し訳なさそうな顔をしていたんですよ」
「あー想像はつきますね」
「カーディ!」
「何より私の出した料理をあんなに美味しそうに食べられたら…あれで料理人になろうって決めたようなものですから」
ふふと笑ったマティウスさんを、クリスさんは呆然と見つめていた。
「…そんなの初めて聞きました」
「初めて言いましたからね、でも本当の話ですよ。ではごゆっくりどうぞ」
マティウスさんは言いたい事だけ言うと、すぐに厨房の方へと戻っていってしまった。
「可愛い…?」
「クリス、良かったな。我儘言ったの実は気にしてたんだろ?」
カーディの言葉に、クリスさんはこくりと小さく頷いた。
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