生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
471 / 1,561

470.【ハル視点】賑やかな店内

「でも、やっぱりここでその話をする必要は無いと思うんですが…?」
「おや、むしろ今ここで言わないで、いつ言うんです?」

 楽し気に言い合う二人の会話を見守っていると、不意に後ろのドアが開いた。ゆっくりと開いたドアの隙間からは、整った顔立ちの一人の男性がひょこっと顔を出している。

「あのーお話中ごめんなさい。マティウス、いい加減戻ってきて?」
「ああ、ごめんね、トリィ」

 柔らかい声でそう答えたマティウスさんは、蕩けるような満面の笑顔だった。うん、まず間違いなく、この人がマティウスさんの伴侶なんだろうな。

「予想外のお客様が来たから、つい話し込んでしまって」
「予想外のお客様?」

 トリィさんと呼ばれたその男性は、不思議そうにそう繰り返した。

「私の事ですよ、トリィさん」
「え、クリスぼっちゃん!?」
「トリィさん…ぼっちゃん呼びはやめてください…」
「あ、ごめんね。その、マティウスがいつもそう呼んでるのを聞いてるから…うつっちゃってて」

 本当に心の底から申し訳なさそうな顔をしたトリィさんには、さすがにクリスもそれ以上文句は言えなかったみたいだ。

「…いえ、全ての元凶はマティウスさんなので、お気になさらず」
「ごめん、ありがとう」
「トリィ、今日はクリスの伴侶も一緒らしいよ?」

 トリィさん相手にだけ砕けた口調になるんだな。マティウスさんは明るく笑うと、ちらりとカーディさんの方へと視線を向けた。

「え、あの!?ついに口説き落とせたの!?」

 悪気も悪意も無く素直にそう言い放ったトリィさんに、クリスはがくりと肩を落とし、カーディさんは遠慮なく噴き出した。俺とアキトは必死でこらえて何とか噴き出さずには済んだけれど、二人とも顔がひきつっていたと思う。

 マティウスさんとトリィさんも、なかなかの似た者同士なんだな。



「もう謝ってくれなくて大丈夫ですから!」

 自分の失言を必死になって謝るトリィさんを何とか宥めて、クリスは俺達の方を振り返った。カーディさんはまだ笑ってるし、マティウスさんは幸せそうにただトリィさんを見つめている。

「お待たせしてすみません」
「あ、気にしなくて大丈夫ですよ」
「ああ、面白いやりとりが聞けたしな?」

 揶揄うようにそう言えば、クリスは心底嫌そうな顔で俺を睨んできた。

「初めてのお客様なのに、失礼いたしました。店内へどうぞ」

 マティウスさんに促されてようやく足を踏み入れた店内は、活気に満ちていた。外に漏れていた声なんてほんの一部だったんだなと思う程度には賑やかだ。音に関する魔道具でも使ってるんだろうな。

 ぐるりと店内を見渡してみれば、明るくて温かみのある空間が広がっている。

「お、やーっと店主が帰ってきたぞー!」
「見送りだけで何でこんなに時間かかってるんだよ」
「まあいつもの事だよな」
「違いない」

 わっはっはと笑い合う集団に、マティウスさんはもうちょっと待ってて下さいとすぐに厨房へと足を向けた。

「マティウスー腹減ってんだから、頼むから早く俺の注文した料理を作ってくれ!」
「すぐ作りますから」

 常連の多い店なんだなと感心しながら店内を観察していると、入口近くに座っていた男性が不意に声を張り上げた。

「あ、トリィちゃん、こっちおかわりー」

 既にかなり飲んでいるのか真っ赤な顔をしたその男性は、手に持っている木のコップを掲げている。ただの注文かと視線を反らした瞬間、店内の空気が一気に変わった。無意識のうちに身体が身構えそうになってしまう程の、すさまじい威圧感だった。

「おや、一体誰の許可を得て、トリィにちゃん付けしてるんですか…?」

 低い音でぽつりとそう尋ねたのはマティウスさんだ。この威圧感をあの優し気で穏やかそうだった男性が出している事には、素直に驚いてしまった。

 まあ気持ちは分かる。勝手にアキトにちゃん付けして呼びかけられたら、俺もきっと威圧してしまうからな。

「あ、すみませんすみません。トリィさん、おかわりお願いします」
「はーい」

 何事も無かったようにてきぱきと動き出したトリィさんに、店内の空気もゆっくりと流れ始める。

「お前!気をつけろよ!」
「ごめん…ちょっと飲みすぎたかもしれん」
「マティウスさん、こっわ…」
「いやいや、名前だけだしすぐに謝ったから!」
「この程度で済んでよかったよー」
「前にトリィさん口説いたやつの話聞いた?」
「いや、その話は聞きたくない。絶対怖い!」

 酔っ払いたちがわいわいと騒ぐ反応からして、多分これはよくある事なんだろうな。

「こっちに座りましょうか」

 慣れた様子で勝手に席に着いたクリスは、驚きましたかと俺達を見回して尋ねた。

「これがこの店の普通なので、まあ気にしないで下さい」
「これで普通なのか…」

 カーディさんは苦笑しながらそう呟いた。

「トリィさんにちょっかいさえ出さなければ、料理も美味しいし良い店なんですよ。知り合いのひいき目無しで美味しいので」
「いや、そこは疑ってないんだが…長い付き合いなのか?」

 俺の質問に、クリスは笑って答えた。

「マティウスさんもトリィさんも、私の両親の友人なんですよ」
「へーご両親の友人なんですか」
「両親の友人…?」
「意外ですか?」

 本当の事ですよと答えたクリスに、俺はわざとらしく笑みを浮かべた。

「いや意外と言うか…どうすれば両親の友人からぼっちゃんと呼ばれるようになるのかって興味があるなと思っただけだ」
「ちょっと、ハル!揶揄わないで下さい!」
「あ、俺もそれ気になってた」
「カーディまで…アキトさんもですか?」
「えーと、はい。気にはなってます」

 全員が気になってるみたいだぞ?と視線を向ければ、クリスは苦笑しながらも口を開いた。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。