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470.【ハル視点】賑やかな店内
「でも、やっぱりここでその話をする必要は無いと思うんですが…?」
「おや、むしろ今ここで言わないで、いつ言うんです?」
楽し気に言い合う二人の会話を見守っていると、不意に後ろのドアが開いた。ゆっくりと開いたドアの隙間からは、整った顔立ちの一人の男性がひょこっと顔を出している。
「あのーお話中ごめんなさい。マティウス、いい加減戻ってきて?」
「ああ、ごめんね、トリィ」
柔らかい声でそう答えたマティウスさんは、蕩けるような満面の笑顔だった。うん、まず間違いなく、この人がマティウスさんの伴侶なんだろうな。
「予想外のお客様が来たから、つい話し込んでしまって」
「予想外のお客様?」
トリィさんと呼ばれたその男性は、不思議そうにそう繰り返した。
「私の事ですよ、トリィさん」
「え、クリスぼっちゃん!?」
「トリィさん…ぼっちゃん呼びはやめてください…」
「あ、ごめんね。その、マティウスがいつもそう呼んでるのを聞いてるから…うつっちゃってて」
本当に心の底から申し訳なさそうな顔をしたトリィさんには、さすがにクリスもそれ以上文句は言えなかったみたいだ。
「…いえ、全ての元凶はマティウスさんなので、お気になさらず」
「ごめん、ありがとう」
「トリィ、今日はクリスの伴侶も一緒らしいよ?」
トリィさん相手にだけ砕けた口調になるんだな。マティウスさんは明るく笑うと、ちらりとカーディさんの方へと視線を向けた。
「え、あの!?ついに口説き落とせたの!?」
悪気も悪意も無く素直にそう言い放ったトリィさんに、クリスはがくりと肩を落とし、カーディさんは遠慮なく噴き出した。俺とアキトは必死でこらえて何とか噴き出さずには済んだけれど、二人とも顔がひきつっていたと思う。
マティウスさんとトリィさんも、なかなかの似た者同士なんだな。
「もう謝ってくれなくて大丈夫ですから!」
自分の失言を必死になって謝るトリィさんを何とか宥めて、クリスは俺達の方を振り返った。カーディさんはまだ笑ってるし、マティウスさんは幸せそうにただトリィさんを見つめている。
「お待たせしてすみません」
「あ、気にしなくて大丈夫ですよ」
「ああ、面白いやりとりが聞けたしな?」
揶揄うようにそう言えば、クリスは心底嫌そうな顔で俺を睨んできた。
「初めてのお客様なのに、失礼いたしました。店内へどうぞ」
マティウスさんに促されてようやく足を踏み入れた店内は、活気に満ちていた。外に漏れていた声なんてほんの一部だったんだなと思う程度には賑やかだ。音に関する魔道具でも使ってるんだろうな。
ぐるりと店内を見渡してみれば、明るくて温かみのある空間が広がっている。
「お、やーっと店主が帰ってきたぞー!」
「見送りだけで何でこんなに時間かかってるんだよ」
「まあいつもの事だよな」
「違いない」
わっはっはと笑い合う集団に、マティウスさんはもうちょっと待ってて下さいとすぐに厨房へと足を向けた。
「マティウスー腹減ってんだから、頼むから早く俺の注文した料理を作ってくれ!」
「すぐ作りますから」
常連の多い店なんだなと感心しながら店内を観察していると、入口近くに座っていた男性が不意に声を張り上げた。
「あ、トリィちゃん、こっちおかわりー」
既にかなり飲んでいるのか真っ赤な顔をしたその男性は、手に持っている木のコップを掲げている。ただの注文かと視線を反らした瞬間、店内の空気が一気に変わった。無意識のうちに身体が身構えそうになってしまう程の、すさまじい威圧感だった。
「おや、一体誰の許可を得て、トリィにちゃん付けしてるんですか…?」
低い音でぽつりとそう尋ねたのはマティウスさんだ。この威圧感をあの優し気で穏やかそうだった男性が出している事には、素直に驚いてしまった。
まあ気持ちは分かる。勝手にアキトにちゃん付けして呼びかけられたら、俺もきっと威圧してしまうからな。
「あ、すみませんすみません。トリィさん、おかわりお願いします」
「はーい」
何事も無かったようにてきぱきと動き出したトリィさんに、店内の空気もゆっくりと流れ始める。
「お前!気をつけろよ!」
「ごめん…ちょっと飲みすぎたかもしれん」
「マティウスさん、こっわ…」
「いやいや、名前だけだしすぐに謝ったから!」
「この程度で済んでよかったよー」
「前にトリィさん口説いたやつの話聞いた?」
「いや、その話は聞きたくない。絶対怖い!」
酔っ払いたちがわいわいと騒ぐ反応からして、多分これはよくある事なんだろうな。
「こっちに座りましょうか」
慣れた様子で勝手に席に着いたクリスは、驚きましたかと俺達を見回して尋ねた。
「これがこの店の普通なので、まあ気にしないで下さい」
「これで普通なのか…」
カーディさんは苦笑しながらそう呟いた。
「トリィさんにちょっかいさえ出さなければ、料理も美味しいし良い店なんですよ。知り合いのひいき目無しで美味しいので」
「いや、そこは疑ってないんだが…長い付き合いなのか?」
俺の質問に、クリスは笑って答えた。
「マティウスさんもトリィさんも、私の両親の友人なんですよ」
「へーご両親の友人なんですか」
「両親の友人…?」
「意外ですか?」
本当の事ですよと答えたクリスに、俺はわざとらしく笑みを浮かべた。
「いや意外と言うか…どうすれば両親の友人からぼっちゃんと呼ばれるようになるのかって興味があるなと思っただけだ」
「ちょっと、ハル!揶揄わないで下さい!」
「あ、俺もそれ気になってた」
「カーディまで…アキトさんもですか?」
「えーと、はい。気にはなってます」
全員が気になってるみたいだぞ?と視線を向ければ、クリスは苦笑しながらも口を開いた。
「おや、むしろ今ここで言わないで、いつ言うんです?」
楽し気に言い合う二人の会話を見守っていると、不意に後ろのドアが開いた。ゆっくりと開いたドアの隙間からは、整った顔立ちの一人の男性がひょこっと顔を出している。
「あのーお話中ごめんなさい。マティウス、いい加減戻ってきて?」
「ああ、ごめんね、トリィ」
柔らかい声でそう答えたマティウスさんは、蕩けるような満面の笑顔だった。うん、まず間違いなく、この人がマティウスさんの伴侶なんだろうな。
「予想外のお客様が来たから、つい話し込んでしまって」
「予想外のお客様?」
トリィさんと呼ばれたその男性は、不思議そうにそう繰り返した。
「私の事ですよ、トリィさん」
「え、クリスぼっちゃん!?」
「トリィさん…ぼっちゃん呼びはやめてください…」
「あ、ごめんね。その、マティウスがいつもそう呼んでるのを聞いてるから…うつっちゃってて」
本当に心の底から申し訳なさそうな顔をしたトリィさんには、さすがにクリスもそれ以上文句は言えなかったみたいだ。
「…いえ、全ての元凶はマティウスさんなので、お気になさらず」
「ごめん、ありがとう」
「トリィ、今日はクリスの伴侶も一緒らしいよ?」
トリィさん相手にだけ砕けた口調になるんだな。マティウスさんは明るく笑うと、ちらりとカーディさんの方へと視線を向けた。
「え、あの!?ついに口説き落とせたの!?」
悪気も悪意も無く素直にそう言い放ったトリィさんに、クリスはがくりと肩を落とし、カーディさんは遠慮なく噴き出した。俺とアキトは必死でこらえて何とか噴き出さずには済んだけれど、二人とも顔がひきつっていたと思う。
マティウスさんとトリィさんも、なかなかの似た者同士なんだな。
「もう謝ってくれなくて大丈夫ですから!」
自分の失言を必死になって謝るトリィさんを何とか宥めて、クリスは俺達の方を振り返った。カーディさんはまだ笑ってるし、マティウスさんは幸せそうにただトリィさんを見つめている。
「お待たせしてすみません」
「あ、気にしなくて大丈夫ですよ」
「ああ、面白いやりとりが聞けたしな?」
揶揄うようにそう言えば、クリスは心底嫌そうな顔で俺を睨んできた。
「初めてのお客様なのに、失礼いたしました。店内へどうぞ」
マティウスさんに促されてようやく足を踏み入れた店内は、活気に満ちていた。外に漏れていた声なんてほんの一部だったんだなと思う程度には賑やかだ。音に関する魔道具でも使ってるんだろうな。
ぐるりと店内を見渡してみれば、明るくて温かみのある空間が広がっている。
「お、やーっと店主が帰ってきたぞー!」
「見送りだけで何でこんなに時間かかってるんだよ」
「まあいつもの事だよな」
「違いない」
わっはっはと笑い合う集団に、マティウスさんはもうちょっと待ってて下さいとすぐに厨房へと足を向けた。
「マティウスー腹減ってんだから、頼むから早く俺の注文した料理を作ってくれ!」
「すぐ作りますから」
常連の多い店なんだなと感心しながら店内を観察していると、入口近くに座っていた男性が不意に声を張り上げた。
「あ、トリィちゃん、こっちおかわりー」
既にかなり飲んでいるのか真っ赤な顔をしたその男性は、手に持っている木のコップを掲げている。ただの注文かと視線を反らした瞬間、店内の空気が一気に変わった。無意識のうちに身体が身構えそうになってしまう程の、すさまじい威圧感だった。
「おや、一体誰の許可を得て、トリィにちゃん付けしてるんですか…?」
低い音でぽつりとそう尋ねたのはマティウスさんだ。この威圧感をあの優し気で穏やかそうだった男性が出している事には、素直に驚いてしまった。
まあ気持ちは分かる。勝手にアキトにちゃん付けして呼びかけられたら、俺もきっと威圧してしまうからな。
「あ、すみませんすみません。トリィさん、おかわりお願いします」
「はーい」
何事も無かったようにてきぱきと動き出したトリィさんに、店内の空気もゆっくりと流れ始める。
「お前!気をつけろよ!」
「ごめん…ちょっと飲みすぎたかもしれん」
「マティウスさん、こっわ…」
「いやいや、名前だけだしすぐに謝ったから!」
「この程度で済んでよかったよー」
「前にトリィさん口説いたやつの話聞いた?」
「いや、その話は聞きたくない。絶対怖い!」
酔っ払いたちがわいわいと騒ぐ反応からして、多分これはよくある事なんだろうな。
「こっちに座りましょうか」
慣れた様子で勝手に席に着いたクリスは、驚きましたかと俺達を見回して尋ねた。
「これがこの店の普通なので、まあ気にしないで下さい」
「これで普通なのか…」
カーディさんは苦笑しながらそう呟いた。
「トリィさんにちょっかいさえ出さなければ、料理も美味しいし良い店なんですよ。知り合いのひいき目無しで美味しいので」
「いや、そこは疑ってないんだが…長い付き合いなのか?」
俺の質問に、クリスは笑って答えた。
「マティウスさんもトリィさんも、私の両親の友人なんですよ」
「へーご両親の友人なんですか」
「両親の友人…?」
「意外ですか?」
本当の事ですよと答えたクリスに、俺はわざとらしく笑みを浮かべた。
「いや意外と言うか…どうすれば両親の友人からぼっちゃんと呼ばれるようになるのかって興味があるなと思っただけだ」
「ちょっと、ハル!揶揄わないで下さい!」
「あ、俺もそれ気になってた」
「カーディまで…アキトさんもですか?」
「えーと、はい。気にはなってます」
全員が気になってるみたいだぞ?と視線を向ければ、クリスは苦笑しながらも口を開いた。
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