生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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472.【ハル視点】マティウスさんの料理

 よっぽどマティウスさんの言葉が予想外だったのか、クリスはぼんやりとしたまま厨房のある方をじっと見つめていた。

 そんなクリスを、カーディさんは何も言わずにただ優しく見つめている。最愛の伴侶の視線にも気づかないなんて、本当に気が抜けているんだな。

 カーディさんはそっと手を伸ばすと、クリスの頭を優しく撫でた。

「クリス」
「カーディ?」
「な、せっかくの料理だし早く食べよ?」
「あっ…!そ、そうですね!お二人も、お待たせしてすみません!」

 我に返るなりバッとこちらを向いて謝罪してきたクリスに、アキトと俺は慌てて首を振った。俺達の事は気にしなくて良いからと二人して言いつのれば、クリスはやっと肩の力を抜いた。

「サラダもスープも、どっちもすっごく美味そうだよなー」

 カーディさんの明るい声につられるように、俺達は揃って笑みを浮かべた。

「ええ、どちらも美味しいですよ。特に私は、この冷製スープがお気に入りですね」
「へーそれは楽しみだな」

 二人の会話を聞きながら、アキトと俺はいただきますと声を揃えた。この挨拶にもすっかり慣れたな。今では俺にとっても食事前には言って当然の言葉になっているのが、感慨深い。

 こっちの皿は、たしか葉物野菜と豆のサラダだったか。

 見た感じ使われているのはどれも普通に食べた事のある食材ばかりだが、だからこそ料理人の腕が分かりそうだな。

 フォークで口に放り込んだサラダを咀嚼すると、ぶわりと旨味が口内に広がった。塩分と甘みのバランスが良くて美味しい上に、特に食感が際立っていた。新鮮なのだろう野菜のシャキシャキ食感と、ホロっと崩れる柔らかく煮た豆の食感が面白い。

「っ…んー!美味しい!」

 アキトの嬉しそうな声に視線を向ければ、どうやらアキトはスープの方から手をつけたみたいだ。

「わーこれすごいよ、ハル。野菜の旨味をウカの乳がまろやかにまとめてる!」

 興奮した様子のアキトに、俺も笑顔で自分の食べていたサラダをお勧めする。この味はきっとアキトも好きだと思う。

「これも美味しいよ、アキト。シャキシャキ食感の野菜とホロっと崩れる豆の食感が面白いし、味もすごく美味しい」
「そうなんだ?じゃあサラダも食べてみるね」
「うん、そうして?俺もアキトのお勧めのスープ食べてみるから」

 じゃれ合うようにそんなやりとりをしてから口に運んだ冷製スープは、したごしらえからどれだけの手間がかかっているのかと思ってしまうほどの美味しさだった。

 うん、マティウスさんの腕前は本物だな。

「このサラダ、美味しいね!」
「このスープも…美味いな」
「お二人も気に入ってくれたみたいで良かったです」

 俺達が料理を口に運ぶのをじっと見つめていたクリスは、安心した様子でようやく自身のスープに口をつけた。

「ああーまた腕を上げてますね…前に食べたのよりも更に美味しくなってます」
「ありがとう。クリスぼっちゃんがそう言ってたって伝えたらマティウスもきっと喜ぶよ」

 タイミングよく料理を運んできたトリィさんは、クリスの感想を聞くなりふふと嬉しそうに頬を緩めた。

「トリィさん、わざわざマティウスさんに伝えなくて良いですからね?」
「うーん、それは約束できないなー」
「なんでですか?」

 不服そうに尋ねたクリスに、トリィさんは声を潜めてそっと尋ねた。

「逆に聞くけど…カーディさんが絶対に喜ぶだろう話をたまたまどこかで聞いたとして、クリスぼっちゃんはそれをカーディさんに黙ってられる?」
「…あー…うん、なるほど。それは無理ですね」
「それが答えだよ」

 そんな軽口を叩きながらも、トリィさんは流れるような動きでテーブルへと皿を並べていく。何種類もの魚料理に肉料理の乗った大皿の横には、山盛りになったパンのカゴ。更にその隣にはお酒や果実水までがずらりと並んだ。ここまで大量にあると、なかなかに壮観な景色だ。

 テーブルの上に綺麗に料理を並べ終えたトリィさんは、ざっと料理の説明をしてくれた。出された料理に統一性は無い。他国の料理や、地域色の豊かな料理も色々と混ざっているみたいだ。説明を聞いているだけでも、ワクワクしてくる。

「…で、最後にこっちは川魚ススーのグリル!味は付けてあるけどこのソースはお好みでどうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞ」

 トリィさんが去っていくと、クリスは飲み物の入ったグラスを手に持った俺達をゆっくりと見回してから口を開いた。

「無事にイーシャルに到着できた事を祝して、乾杯」
「ああ、無事の到着に乾杯」
「かんぱーい」
「乾杯!」

 グラスを空中に掲げて乾杯をすれば、後はもう目の前のご馳走を楽しむだけだ。俺達は賑やかな店内に負けじと、楽しい会話を楽しみながらご馳走を堪能した。
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