生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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480.特別なトリクの花

「次は噴水広場にでも行ってみようか?」
「あ、歌ったり踊ったりする人が公演してるって言ってたね!」

 黄昏の館のお兄さんが、噴水広場にも行ってみたらって教えてくれたやつだ。

「ああ、こういう祭りには歌も踊りも欠かせない物だからな」
「へー見てみたいな!」
「じゃあ行こうか」

 小袋から取り出した飴をそれぞれもう一つ口に放り込んでから、俺とハルは噴水広場を目指して歩き出した。

 噴水広場に近づくにつれて、祭りの賑わいは更に増していく。遠くから聞こえてくる楽し気な音楽に耳を澄ましながら歩いていると、不意に後ろからこどもの声が聞こえてきた。

「きれーなおにーさん!」

 まだ少しおぼつかない喋り方が可愛いなと思いながら歩いていると、不意に俺の前にこどもが飛び出してきた。

「ねぇ、きれーなおにーさんってば!」

 まさかそのきれーなおにーさんという呼びかけが自分に向けてのものだなんて、想像もしていなかった俺は慌てて立ち止まった。

 まあ俺が立ち止まる前からこどもの接近に気づいていたのか、ハルは動揺した様子もなくこどもを見つめて口を開いた。

「急に前に飛び出してきたら危ないだろう?」
「う…ごめんなさい」

 真剣な表情を浮かべて優しく叱るハルの声に、まだ幼い少年は素直に謝った。

「君も相手も怪我をするかもしれないんだからな、次から気をつけてくれ」
「わかったー」
「それで?アキトに何の用だったんだ?」
「あ、そーだ!ね、きれーなおにーさん、おはないらない?」
「おはな?」
「うん、おはな。みてみて、きれーなおはななんだよ」

 少年はそう言うなり、俺とハルの目に入るようにと頭の上にカゴを持ち上げてみせた。 二人揃ってそうっと覗き込んだカゴに入っていたのは、白と水色の布で作られたトリクの花を模した造花だった。

「わ、綺麗だね」
「ああ、見事なつくりだな」
「でしょー?これはねーぼくのねーちゃんがつくったの!」

 えっへんと自慢げに胸を張った少年の姿に、自然と笑みがこぼれた。お姉さんの事が大好きなんだなと分かる行動だ。

「へーそうなんだ?これを売ってるの?」
「うん、そうだよー」

 邪気の無いにこにこ笑顔でひとついらない?と尋ねられると、ほいほい買いたくなってしまうな。ちらりとハルに視線を向けてみれば、ハルはにっこりと笑って頷いてくれた。

「少年、それは俺が買うよ。ひとついくらだ?」
「んとね、ひとつ500グルだよ」
「じゃあ二つ貰うよ」
「ふたつも!ありがとう!」

 嬉しそうに笑ってくれた少年は、カゴの中から取り出した造花を渡そうとした所でぴたりと動きを止めてしまった。

「あれ、どうしたの?」

 固まったままの少年は、じーっと穴が開きそうなぐらいに俺とハルの腕輪を見つめている。

「あのさ、おにーさんたち、もしかしてはんりょこうほなの?」
「ああ、そうだよ。俺の愛しい伴侶候補なんだ」

 さらりと子ども相手に愛しい伴侶候補なんて惚気てみせたハルに、俺は頬を赤く染めながらも頷いた。

「じゃあ!じゃあさ!これじゃなくて、こっちは?こっちのおはなはどうかな?」

 そう言って少年がカゴの奥から取り出したのは、鮮やかな水色のリボン飾りがついたトリクの造花だった。さっき見た造花も綺麗だったけれど、こっちは更に手が込んでるように見える。遠目でみたら本物だと思うぐらいに精巧な造りだ。

「これは…?」
「あのね、こっちははんりょこうほか、はんりょのひとにしかうらない、とくべつなやつなんだー」
「へーそんなのがあるのか?」

 興味深そうにリボン飾りを見つめながら、ハルは少年にそう尋ねた。

「あのね、りぼんにはぼくのねーちゃんのしあわせになってほしいっておいのりつきなんだよ」

 だからすっごく特別なものなんだと一生懸命教えてくれる少年に、ハルは俺の方をちらりと見た。アキトはどっちが良い?って聞かれてるんだろうなと理解した俺は、そっと少年が差し出しているリボン付きの方に視線を向けた。

 こんな話を聞いてリボン無しなんて選べないだろう。

「少年、じゃあそっちを二つ貰うよ。それはいくらだ?」
「ん?これもこっちとおなじねだんだよ?」

 不思議そうに答えられた俺は驚いてしまった。え、という事はそれは本当にただのサービスって事になっちゃわない?良いの?

「そうなのか、じゃあそっちにさせて貰おうかな」
「うんっ!ねーちゃんもよろこぶよ!」

 にっこりと笑う少年の手に銀貨1枚を渡したハルは、小さな声ですぐにしまってと声をかけた。これだけ人がいるんだから、こどもが素手でお金を持ってるのは危ないよね。声をかけられた少年も、慣れた様子でささっと鞄の中にお金をしまいこんだ。
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