486 / 1,561
485.【ハル視点】ジャムの露店
人混みに流されるようにして辿り着いたのは、昨日も通った一本道だった。
昨夜までは何の変哲もない民家が並ぶ道だったのに、今はすっかり祭りの会場らしい姿に変貌を遂げている。
たった一晩でここまで印象が変わるのかと、驚いてしまうほどの変わりようだ。
そこかしこにトリクの花束が飾られている道には、たくさんの露店がずらりと並んでいた。狭い道を有効に使うためか片側に寄せるようにして露店が並んでいるのが、あまり見ない形式で少し面白いな。
「あ、アキト、あそこ見て」
「ん?どこ?」
「あそこの店」
そう言いながら俺が指差したのは、ジャムらしきものが入った瓶がびっしりと並んだ露店だった。瓶の大きさも様々で、小さなおもちゃのような瓶から、誰が買うんだろうと思うほど巨大な瓶までがずらりと並んでいる。
トリクの花のジャムはぜひ手に入れたい。
「わー種類多いっ!」
「見にいこうか?」
「うんっ!」
元気なアキトの返事に笑いながら店の方へと近づいていくと、ちょうど客足が途絶えていたのか店員が俺達の方へと視線を向けた。
「いらっしゃい!」
「どうも」
「こんにちは」
「ああ、こんにちはーゆっくり見て行ってくれ」
明るい笑みを浮かべた店員の言葉に、アキトは安心したように笑ってから頷いた。目の前に並ぶ瓶を遠慮なくまじまじと見つめてから、アキトはちらりと俺を見上げてくる。
「種類も大きさもいっぱいあるね」
「ああ、ここまで品揃えがいいのは、さすがイーシャルだな」
収穫の祭りでもあるトリク祭りならではだと口にすれば、店員の男性は嬉しそうにへらりと笑みを浮かべた。
「兄さん、嬉しい事言ってくれるねぇ。折角のトリク祭りだからってうちの家族が張り切って用意したんだよ」
そう告げる笑顔の男性からは、家族への愛情が感じられた。
なんでもあの一番小さな瓶はこどものおやつに、一番大きな瓶は飲食店経営者などが買っていく大きさだそうだ。誰でも買えるようにと大きさを色々取り揃えてあるんだな。
「わーこれだけあったら、何買おうか悩むなー」
「アキト。俺達が食べる用も、もちろん買ったら良いんだけどさ」
「うん?」
「これって、土産にしても良さそうじゃない?」
そう提案すれば、アキトはキラキラと目を輝かせた。
「しっかり付与魔法もかけてあるから、うちのはかなり日持ちするよ。他の街では珍しい果物を使ったのもあるし、しかも何より味が美味いんだ!」
自慢げに笑った店員は、薄く切ったパンにジャムを乗せてアキトと俺に差し出してくれた。
「まあ、まずは食べてみて」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
揃って口に放り込んだ俺達は、顔を見合わせた。
ふわりと口内に広がったのは濃厚な甘みで、でもくどさは一切無い。これはパンにはもちろん、チーズにも合いそうな味だな。多分レーブンなら料理に使おうとするだろう。
うん、美味い。
「これ買います」
「これをくれ」
アキトと俺、二人の言葉が綺麗に重なったのを聞いて、店員はフハッと笑い出した。
「待って待って、他の味も色々あるから!決断が早すぎるから!」
説明も味見もいっぱいしてから考えてよと続けた店員は、お兄さんたち息の合った伴侶候補だねぇとさらりと褒めてくれた。
まあなと言いたい所をぐっと堪えて、俺はアキトと一緒に気になるジャムを選び始めた。
「いやーいっぱい買ってくれてありがとうなぁ」
ホクホク顔の店員に声をかけられながら、俺は無造作に魔導収納鞄の中に買い込んだ瓶をしまい込んで行く。自分たち用とお土産用にと結構な量を買い込んでしまった。
「いや、どれも美味かったからな」
お世辞抜きに、これは買っておいた方が良いと思える味だった。
「うん、本当にどれも美味しかったです!」
「そりゃあ良かった」
俺の手がトリクの花のジャム瓶に触れるのを見ていた店員は、すこし心配そうに尋ねてきた。
「なあ、トリクの花は好みは分かれるけど、本当に味見しなくて良かったのか?」
ジャムなのに花の香りがするのが苦手だという人も、結構いるんだよな。まあ多分、アキトは大丈夫だと思うんだけど。
味見を断った理由はただ一つだ。
「ああ、最初はやっぱりお茶に入れて飲ませたいからな」
「あーそれは分かる」
大事な人にこそ自分の手からってなるよなと同意した店員を、アキトは不思議そうに見つめていた。
視線に気づいた店員は、笑いながらトリクのジャム入りのお茶は特別なものだから、大事な人との時間に飲むものなんだよと優しく教えている。
「そうなんだ。じゃあハルの分のお茶は俺が淹れるね」
「ああ、ありがとう。アキトの分は俺が淹れて良いんだな?」
「うん、お願いしたいな……折角ならハルの淹れてくれたのを飲んでみたい」
そんな可愛いお願いをされたら、全力で入れるしかないな。そんな俺達のやりとりを見守っていた店員は、頭をかきながらぽつりと呟いた。
「あー何故か急に俺も伴侶候補に会いたくなってきたわー」
店員の心底羨ましそうな声に、俺は思わず笑ってしまった。
昨夜までは何の変哲もない民家が並ぶ道だったのに、今はすっかり祭りの会場らしい姿に変貌を遂げている。
たった一晩でここまで印象が変わるのかと、驚いてしまうほどの変わりようだ。
そこかしこにトリクの花束が飾られている道には、たくさんの露店がずらりと並んでいた。狭い道を有効に使うためか片側に寄せるようにして露店が並んでいるのが、あまり見ない形式で少し面白いな。
「あ、アキト、あそこ見て」
「ん?どこ?」
「あそこの店」
そう言いながら俺が指差したのは、ジャムらしきものが入った瓶がびっしりと並んだ露店だった。瓶の大きさも様々で、小さなおもちゃのような瓶から、誰が買うんだろうと思うほど巨大な瓶までがずらりと並んでいる。
トリクの花のジャムはぜひ手に入れたい。
「わー種類多いっ!」
「見にいこうか?」
「うんっ!」
元気なアキトの返事に笑いながら店の方へと近づいていくと、ちょうど客足が途絶えていたのか店員が俺達の方へと視線を向けた。
「いらっしゃい!」
「どうも」
「こんにちは」
「ああ、こんにちはーゆっくり見て行ってくれ」
明るい笑みを浮かべた店員の言葉に、アキトは安心したように笑ってから頷いた。目の前に並ぶ瓶を遠慮なくまじまじと見つめてから、アキトはちらりと俺を見上げてくる。
「種類も大きさもいっぱいあるね」
「ああ、ここまで品揃えがいいのは、さすがイーシャルだな」
収穫の祭りでもあるトリク祭りならではだと口にすれば、店員の男性は嬉しそうにへらりと笑みを浮かべた。
「兄さん、嬉しい事言ってくれるねぇ。折角のトリク祭りだからってうちの家族が張り切って用意したんだよ」
そう告げる笑顔の男性からは、家族への愛情が感じられた。
なんでもあの一番小さな瓶はこどものおやつに、一番大きな瓶は飲食店経営者などが買っていく大きさだそうだ。誰でも買えるようにと大きさを色々取り揃えてあるんだな。
「わーこれだけあったら、何買おうか悩むなー」
「アキト。俺達が食べる用も、もちろん買ったら良いんだけどさ」
「うん?」
「これって、土産にしても良さそうじゃない?」
そう提案すれば、アキトはキラキラと目を輝かせた。
「しっかり付与魔法もかけてあるから、うちのはかなり日持ちするよ。他の街では珍しい果物を使ったのもあるし、しかも何より味が美味いんだ!」
自慢げに笑った店員は、薄く切ったパンにジャムを乗せてアキトと俺に差し出してくれた。
「まあ、まずは食べてみて」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
揃って口に放り込んだ俺達は、顔を見合わせた。
ふわりと口内に広がったのは濃厚な甘みで、でもくどさは一切無い。これはパンにはもちろん、チーズにも合いそうな味だな。多分レーブンなら料理に使おうとするだろう。
うん、美味い。
「これ買います」
「これをくれ」
アキトと俺、二人の言葉が綺麗に重なったのを聞いて、店員はフハッと笑い出した。
「待って待って、他の味も色々あるから!決断が早すぎるから!」
説明も味見もいっぱいしてから考えてよと続けた店員は、お兄さんたち息の合った伴侶候補だねぇとさらりと褒めてくれた。
まあなと言いたい所をぐっと堪えて、俺はアキトと一緒に気になるジャムを選び始めた。
「いやーいっぱい買ってくれてありがとうなぁ」
ホクホク顔の店員に声をかけられながら、俺は無造作に魔導収納鞄の中に買い込んだ瓶をしまい込んで行く。自分たち用とお土産用にと結構な量を買い込んでしまった。
「いや、どれも美味かったからな」
お世辞抜きに、これは買っておいた方が良いと思える味だった。
「うん、本当にどれも美味しかったです!」
「そりゃあ良かった」
俺の手がトリクの花のジャム瓶に触れるのを見ていた店員は、すこし心配そうに尋ねてきた。
「なあ、トリクの花は好みは分かれるけど、本当に味見しなくて良かったのか?」
ジャムなのに花の香りがするのが苦手だという人も、結構いるんだよな。まあ多分、アキトは大丈夫だと思うんだけど。
味見を断った理由はただ一つだ。
「ああ、最初はやっぱりお茶に入れて飲ませたいからな」
「あーそれは分かる」
大事な人にこそ自分の手からってなるよなと同意した店員を、アキトは不思議そうに見つめていた。
視線に気づいた店員は、笑いながらトリクのジャム入りのお茶は特別なものだから、大事な人との時間に飲むものなんだよと優しく教えている。
「そうなんだ。じゃあハルの分のお茶は俺が淹れるね」
「ああ、ありがとう。アキトの分は俺が淹れて良いんだな?」
「うん、お願いしたいな……折角ならハルの淹れてくれたのを飲んでみたい」
そんな可愛いお願いをされたら、全力で入れるしかないな。そんな俺達のやりとりを見守っていた店員は、頭をかきながらぽつりと呟いた。
「あー何故か急に俺も伴侶候補に会いたくなってきたわー」
店員の心底羨ましそうな声に、俺は思わず笑ってしまった。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。