生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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490.【ハル視点】枯れない花

「はい、じゃあこれ!」

 にっこりと笑った少年は大事にしてねと言いながら、カゴの中からリボン付きのトリクの造花を取り出した。

「ありがとう」

 めいっぱい伸ばされた小さな手から二つの花を受け取った俺は、そのうちの一つをアキトの胸元のポケットに差し込んだ。

 うん、やっぱりアキトにはトリクの花がよく似合うな。

 アキトも嬉しそうに笑いながら、じっと自分の胸元の花を見つめている。可愛いなぁとその様子を眺めていると、アキトの視線が不意に俺の持つもうひとつの造花に向いた。俺はニコリと笑いかけてから、自分の胸ポケットにすっと差し込んだ。

 アキトの胸元を彩るトリクの造花をちらりと見た俺は、自然と湧き出てくる笑みを抑えられなかった。お揃いのこの花は、決して枯れない。いつまでも思い出の品として残す事ができる。じわりじわりと嬉しさが湧き上がってくる。

「アキト、すごく似合ってるよ」
「ありがと、ハルもすっごく似合ってる!」
「そうかな?」
「うん、似合ってる」

 そんな俺達のやりとりを満足気に見守っていた少年は、控えめにじゃあと声を上げた。

「ぼくいくね。かってくれてありがとー、おにーさんたち!」
「あ、ちょっと待って」

 俺がそう声をかけると、少年は不思議そうな表情を浮かべたまま、それでもそこに立ち止まってくれた。

 このまま返すのは嫌だと思うけれど、お金を多く渡すのも駄目。それならと一つだけ考えついた案を、俺はそっとアキトの耳元で囁いた。

「ごめん、アキト。さっき買った果物飴の袋一つ使っても良い?」
「あ、うん!もちろん」

 快諾してくれたアキトは、すぐに魔道収納鞄から果物飴の袋を取り出してくれた。色んな種類の入った色とりどりの袋を受け取った俺は、その袋をそっと少年の目の前に差し出した。

「これ、受け取ってくれるかな?」
「え、いや、こんなのもらえないよ?」

 少年は眉を下げた表情のまま続けた。

「おかねはもうもらったし、これってたかいやつでしょ?」

 食べた事は無いけど知ってると言った少年は、パッと手を後ろに隠してしまった。確かに安くは無い。この袋一つでも2000グルはするからな。警戒心を露わにした少年を宥めるように、俺はそっとしゃがみ込むと少年の目をしっかりと覗き込んだ。

 すぐに一緒になってしゃがんでくれたアキトの気配に、自然と笑みがこぼれてしまう。 

「いや、これはこの素敵な花へのお礼の品なんだ。だからぜひ受け取って欲しい」
「おれい?」
「ああ、この特別なトリクの花を売って貰ったからね」
「でも…おかねはもらったし」

 どうしようと言いたげにぽつりと呟いた少年に、俺は相手を威圧しないようにできるだけ優しい声で語りかける。

「実は俺達はついこのまえ、伴侶候補になったばかりなんだ」
「え、そうなの?」
「だから少年に特別な花をお勧めしてもらえて…すごく嬉しかった」
「そっか、おにーさんも嬉しかった?」

 ちらりとアキトを見つめて尋ねた少年に、アキトは慌てて頷きを返す。

「うん、すごく嬉しかったよ」
「だから、これはお姉さんと一緒に食べて」

 お姉さんの名前を出したら、躊躇していた少年はようやく手を開いてくれた。すかさずその小さな手の上に果物飴の袋を乗せる。

「っ!ありがとー!」

 キラキラした目で手の上の果物飴を見つめる少年に、俺もアキトも自然と微笑んだ。

「こちらこそありがとう」
「うん、綺麗なお花ありがとう。お姉さんにもお礼言っておいてくれる?」

 アキトと俺のお礼の言葉に、少年は照れくさそうな笑みをこぼした。

「うん、ちゃんというね!」
「よろしくね」
「頼んだ」
「うん、じゃあまたねーきれーなおにーさんたち!」

 アキトはともかく、俺はきれーなおにーさんでは無いと思うんだが。正直納得はいかないが、こどもの言う事だから仕方ないかとしぶしぶ受け入れる。

 少年はカゴを抱えたまま、元気に駆け出した。そんな少年を、アキトは心配そうにじっと見守っている。

 アキトは優しいなと一緒になって眺めていると、少年はたくさんの人の隙間を上手くすり抜けてそのまま人混みの中へと消えていった。

「…人混みに慣れてる…」

 不意打ちで耳に飛び込んできたのはあまりに羨ましそうなアキトの言葉で、俺はこらえる間もなく思いっきり噴き出してしまった。
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