生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
497 / 1,561

496.串焼き屋

 トリク祭り真っ最中の街中は、夕方になってもたくさんの人で賑わっていた。こども達の姿はさすがにちょっと減った気がするけど、その分恋人同士や伴侶なのだろう甘い雰囲気の大人が増えてきている気がする。

「ここを左だな」

 祭りの雰囲気を楽しみながらものんびりと歩き続けていた俺達は、アッシュさんの教えてくれた店の前に辿り着いた。

「ここの筈…なんだが…?」
「え、ここ?」

 二人して戸惑ってしまったのは、目の前にあるのが普通の住宅街にしか見えなかったからだ。イーシャルでは一般的な赤レンガの建物に、トリク祭りの花飾りが飾られている家がいくつも並んでいる。

「えーっと…どう見てもお店には見えないね?」
「ああ…だが道は間違えてないんだよな」

 道を曲がって二軒目って言ってたなと呟いたハルと一緒に、そーっと二軒目の建物に近づいてみる。

「あ!あのドアの所、小さい看板がある!」

 思わず指差してハルに声をかければ、ハルもまじまじと看板を見つめた。

「うん、串焼き屋って書いてあるな」
「店名ですら無いんだ」
「面白い店だな」

 でもこういう名前にこだわらないのに人気の店は、絶対に美味いんだよなとハルは笑みをこぼした。そういうものなのか。

「アッシュさんに聞いてなかったら、お店だって気づかなかっただろうな」
「ああ、これはもし前を通ったとしても気づかないよな」
「だよね」
「アキト、とりあえず営業中にはなってるから入ってみようか?」
「うん、せっかく教えてもらったんだし入ってみよ」

 そう決めた俺達は店のドアに近づいていったんだけど、近づけば近づくほど不安になってくる。だってここまで近づいても肉の焼ける香りとかもしないし、お客さんの声も一切聞こえてこないんだよ。もしかして営業中の看板が間違えててお休みしてるんじゃないかなーって思ってたんだ。

 でも膨らみ続けていた不安はハルがドアを開いた瞬間、一瞬で吹き飛んだ。

 うっすらと開いたドアの隙間からうっすらと聞こえてきたのは、楽し気な笑い声と軽やかな音楽だった。定休日じゃないみたいだと思った次の瞬間、今度は何かが焼ける香ばしい香りが辺りいっぱいに広がった。

「うわー良い香り!」
「これは防音結界の魔道具と、消臭結界の魔道具を使ってるのか?」

 ハルがぽつりと呟いた声に、俺はへーと気の抜けた声を返した。防音結界は宿でも使ってるしハルも持ってるからもちろん知ってるんだけど、消臭結界なんてものもあるのか。中の香りを消す結界なんだろうか。

「いらっしゃいませー中へどうぞー!」

 そう声をかけてくれた店員さんに導かれて店内に入ると、俺達の後ろでゆっくりとドアが閉まった。人懐こい笑みを浮かべたお兄さんは、俺達の前に立つと軽やかに歩き出した。

 店に入ってすぐが廊下になってるお店は、この世界に来て初めてかもしれないな。

「俺達はここには初めて来たんだが…防音結界はともかく、消臭結界なんて珍しいものを使ってるんだな」

 長い廊下を進みながらハルがそう尋ねたら、店員さんはくるりと俺達の方を振り返るとあっさりと笑って答えてくれた。

「それはねー深い理由があるんだよー」

 のんびりとした話し方だが、それが目の前にいるこの人にはすごく合ってるように感じる。

「深い理由って差支えなければ教えてくれないか?」
「えっとねー店を開こうって決めた時、俺達はどうしても思い出深いこの場所に店を作りたかったんだー」
「思い出の地なのか」
「そう、だからちゃんと役所と交渉したんだー」
「交渉?」
「そうそう、でもねーお客さんの騒ぐ音とか食材を焼く香りが周りの迷惑になるって理由で断られたんだよー」

 この辺りは昔から住宅街だからまあ仕方ないとは思うんだけどさと、店員さんは苦笑を浮かべた。

「そしたら俺の伴侶がねーただそれだけが理由なら、防音結界と消臭結界の魔道具を設置したら良いって用意してくれたんだー」

 照れくさそうにでも嬉しそうに話す店員さんに、俺とハルも自然と笑顔になってしまった。

「なるほど、それで魔導具を設置するからと交渉したわけか」
「そうそう」

 店員さんは明るく笑って前を向くと、またゆっくりと廊下を歩き出した。俺とハルもその背中を追ってゆっくりと歩き出す。

「うちはねー全部の部屋が個室になってるんだー」
「個室か、それは良いな」
「二人の席はここでお願いしまーす」

 そう言って案内された部屋の中は、外観から想像したものとは全く違う南国風の飾り付けで俺とハルはまたしても戸惑ってしまった。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。