生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
503 / 1,447

502.【ハル視点】二人のお勧め

しおりを挟む
「あ、あそこはどうだ?いや、でもな…」

 先に声を上げたのはティーだった。だがそこまで口にしておきながら、どうやらまた悩みだしてしまったみたいだ。俺とアキトのためにと色々考えてくれているんだろうなと思いながらも、俺は笑みを浮かべてティーに話しかけた。

「文句なんて言わないから店名を言ってくれ」
「えーっと、飯も酒も間違いなく美味いけど、あんまりお上品な店じゃないんだよ」

 それでも本当に良いのか?とティーは心配そうな顔をして尋ねてきたが、アキトの好みは俺の好みと似てるんだよな。高級でないととか上品でないととか、そんな理由で店を選ぶ人ではない。

「ああ、俺もアキトもそういう店の方が好きだから大丈夫だぞ?」
「そっか!料理店マティウスって店なんだが」

 ティーは嬉しそうにニカッと笑うと、大きな声でお勧めの店を教えてくれた。

 あー…よりによってマティウスさんの店か。確かにあの店は飯も酒も文句なしに美味かった。美味かったが折角なら他の店に行きたいよな。驚いた顔で固まっているアキトをちらりと見てから、俺はそっと口を開いた。

「あー悪いけど昨日行ったから、そこ以外で頼む」
「ええー!?イーシャルに詳しくないって言いながらあの料理店マティウスに辿り着いたのかよ?」
「ああ、依頼人が行き着けの店だったらしくてな」
「あーあの一緒に街に入った二人か…」

 あの美味しさを知ってくれてるのは嬉しいような…いやでもやっぱり俺が伝えたかったようなとブツブツ言いながら、ティーはがっくりと肩を落とした。すまないな。

「あのー俺からも提案したいと思った店があるんですけど、ハルさん、その前にいくつかアキトさんに質問しても良いですか?」

 どうやらアッシュは、先に条件をはっきりさせてから店を絞り込むつもりのようだ。性格が出てるなと思いながら、俺はすぐにアキトに視線を向けた。

「ああ、アキトが良いなら良いぞ?」
「はい、どうぞ?」
「えーではひとつめ。アキトさんって嫌いな食べ物あります?肉が無理ーとか魚が無理ーとかそういうのがあれば知りたいんですが」
「えーと、特に無いです」

 アキトの答えにアッシュは一つコクリと頷くと、二本目の指を立てながら続けた。

「では次、量はよく食べる方ですか?それとも小食ですか?」
「あ、結構食べます」

 確かにアキトは、この華奢な体格からは想像がつかないぐらいによく食べる。そう思いながら聞いていた俺の方に、アキトはちらりと視線を向けてきた。俺、結構食べる方だよね?と言いたげな探るような視線に、俺はすぐに笑って頷きを返す。

「最後にもうひとつだけ。さっきハルさんが言ってましたけど、お洒落なお店じゃなくても良いんですよね?」
「はい、お洒落さよりも…そうだなー温かい雰囲気の店が好き…だと思います」

 アキトのその答えを聞いて、アッシュは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「うん、それなら俺のお勧めのお店は良いかもしれません」
「自信ありそうだな。何ていう店だ?」
「ピシェっていう串焼き屋です。普通の串焼きよりも大き目の串に、塊の肉とかを刺して焼くんですよ」
「え、塊で…?」

 思わず聞き返したアキトに、アッシュはすぐに頷いて説明を始めた。その店では肉に野菜、果物、チーズ、川魚まで全てを大きいままで焼いてから切り分けるらしい。

「それは楽しそうだな」
「豪快な料理ですけど、味付けは繊細なんですよ」
「アキト?」
「そこ行ってみたいです!」

 どうやら決まりみたいだな。

「アッシュ、行き方教えてくれるか?」
「はい、えっとまずはこの階段から出て左側の…」
「なあ、その店、俺知らないんだけど…?」

 アッシュの道案内の説明を遮ったのは、ティーの寂しそうな呟きだった。

「は?聞かれてもないのにいきなりお勧めの店を教えるっておかしいだろ?」
「えー…でも俺はこないだお勧めの店に連れていったのに?」

 がっくりと分かりやすく肩を落としているティーに、アッシュは呆れ顔で答える。

「…あーもう、今度の休みにちゃんと連れて行ってやるから、今は黙ってろ」
「そうか!分かった!」

 アッシュは別にティーを嫌っているわけじゃない。本人は絶対に認めないだろうが、むしろ気に入ってる筈だ。そうでなければ他にも選択肢がたくさんあったアッシュが、わざわざ同じ領の衛兵として働いていないだろう。

 だからわざわざ約束なんて取り付けなくても、多分いつかはその店に連れていってもらえたと思うんだが。俺は苦笑しながら二人のやりとりを見守っていた。



 アッシュはお勧めの店までの行き方を、丁寧に説明してくれた。元々説明が上手な奴ではあったが、いっそう説明が分かりやすくなったな。衛兵の仕事には道案内も含まれるからだろうか。

 そんな事を考えていると、アッシュは手に持ったままだった時計の魔道具をちらりと見ると残念そうに口を開いた。

「ハルさん、アキトさん、そろそろ時間切れみたいです」
「うわっ、本当だ、やばい!」
「まだ予定時刻には遅れてないんだから、慌てるな」

 また上司に怒られると騒ぎだしたティーを、アッシュは慣れた様子で宥めると俺達の方に向き直った。
しおりを挟む
感想 375

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...