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502.【ハル視点】二人のお勧め
「あ、あそこはどうだ?いや、でもな…」
先に声を上げたのはティーだった。だがそこまで口にしておきながら、どうやらまた悩みだしてしまったみたいだ。俺とアキトのためにと色々考えてくれているんだろうなと思いながらも、俺は笑みを浮かべてティーに話しかけた。
「文句なんて言わないから店名を言ってくれ」
「えーっと、飯も酒も間違いなく美味いけど、あんまりお上品な店じゃないんだよ」
それでも本当に良いのか?とティーは心配そうな顔をして尋ねてきたが、アキトの好みは俺の好みと似てるんだよな。高級でないととか上品でないととか、そんな理由で店を選ぶ人ではない。
「ああ、俺もアキトもそういう店の方が好きだから大丈夫だぞ?」
「そっか!料理店マティウスって店なんだが」
ティーは嬉しそうにニカッと笑うと、大きな声でお勧めの店を教えてくれた。
あー…よりによってマティウスさんの店か。確かにあの店は飯も酒も文句なしに美味かった。美味かったが折角なら他の店に行きたいよな。驚いた顔で固まっているアキトをちらりと見てから、俺はそっと口を開いた。
「あー悪いけど昨日行ったから、そこ以外で頼む」
「ええー!?イーシャルに詳しくないって言いながらあの料理店マティウスに辿り着いたのかよ?」
「ああ、依頼人が行き着けの店だったらしくてな」
「あーあの一緒に街に入った二人か…」
あの美味しさを知ってくれてるのは嬉しいような…いやでもやっぱり俺が伝えたかったようなとブツブツ言いながら、ティーはがっくりと肩を落とした。すまないな。
「あのー俺からも提案したいと思った店があるんですけど、ハルさん、その前にいくつかアキトさんに質問しても良いですか?」
どうやらアッシュは、先に条件をはっきりさせてから店を絞り込むつもりのようだ。性格が出てるなと思いながら、俺はすぐにアキトに視線を向けた。
「ああ、アキトが良いなら良いぞ?」
「はい、どうぞ?」
「えーではひとつめ。アキトさんって嫌いな食べ物あります?肉が無理ーとか魚が無理ーとかそういうのがあれば知りたいんですが」
「えーと、特に無いです」
アキトの答えにアッシュは一つコクリと頷くと、二本目の指を立てながら続けた。
「では次、量はよく食べる方ですか?それとも小食ですか?」
「あ、結構食べます」
確かにアキトは、この華奢な体格からは想像がつかないぐらいによく食べる。そう思いながら聞いていた俺の方に、アキトはちらりと視線を向けてきた。俺、結構食べる方だよね?と言いたげな探るような視線に、俺はすぐに笑って頷きを返す。
「最後にもうひとつだけ。さっきハルさんが言ってましたけど、お洒落なお店じゃなくても良いんですよね?」
「はい、お洒落さよりも…そうだなー温かい雰囲気の店が好き…だと思います」
アキトのその答えを聞いて、アッシュは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うん、それなら俺のお勧めのお店は良いかもしれません」
「自信ありそうだな。何ていう店だ?」
「ピシェっていう串焼き屋です。普通の串焼きよりも大き目の串に、塊の肉とかを刺して焼くんですよ」
「え、塊で…?」
思わず聞き返したアキトに、アッシュはすぐに頷いて説明を始めた。その店では肉に野菜、果物、チーズ、川魚まで全てを大きいままで焼いてから切り分けるらしい。
「それは楽しそうだな」
「豪快な料理ですけど、味付けは繊細なんですよ」
「アキト?」
「そこ行ってみたいです!」
どうやら決まりみたいだな。
「アッシュ、行き方教えてくれるか?」
「はい、えっとまずはこの階段から出て左側の…」
「なあ、その店、俺知らないんだけど…?」
アッシュの道案内の説明を遮ったのは、ティーの寂しそうな呟きだった。
「は?聞かれてもないのにいきなりお勧めの店を教えるっておかしいだろ?」
「えー…でも俺はこないだお勧めの店に連れていったのに?」
がっくりと分かりやすく肩を落としているティーに、アッシュは呆れ顔で答える。
「…あーもう、今度の休みにちゃんと連れて行ってやるから、今は黙ってろ」
「そうか!分かった!」
アッシュは別にティーを嫌っているわけじゃない。本人は絶対に認めないだろうが、むしろ気に入ってる筈だ。そうでなければ他にも選択肢がたくさんあったアッシュが、わざわざ同じ領の衛兵として働いていないだろう。
だからわざわざ約束なんて取り付けなくても、多分いつかはその店に連れていってもらえたと思うんだが。俺は苦笑しながら二人のやりとりを見守っていた。
アッシュはお勧めの店までの行き方を、丁寧に説明してくれた。元々説明が上手な奴ではあったが、いっそう説明が分かりやすくなったな。衛兵の仕事には道案内も含まれるからだろうか。
そんな事を考えていると、アッシュは手に持ったままだった時計の魔道具をちらりと見ると残念そうに口を開いた。
「ハルさん、アキトさん、そろそろ時間切れみたいです」
「うわっ、本当だ、やばい!」
「まだ予定時刻には遅れてないんだから、慌てるな」
また上司に怒られると騒ぎだしたティーを、アッシュは慣れた様子で宥めると俺達の方に向き直った。
先に声を上げたのはティーだった。だがそこまで口にしておきながら、どうやらまた悩みだしてしまったみたいだ。俺とアキトのためにと色々考えてくれているんだろうなと思いながらも、俺は笑みを浮かべてティーに話しかけた。
「文句なんて言わないから店名を言ってくれ」
「えーっと、飯も酒も間違いなく美味いけど、あんまりお上品な店じゃないんだよ」
それでも本当に良いのか?とティーは心配そうな顔をして尋ねてきたが、アキトの好みは俺の好みと似てるんだよな。高級でないととか上品でないととか、そんな理由で店を選ぶ人ではない。
「ああ、俺もアキトもそういう店の方が好きだから大丈夫だぞ?」
「そっか!料理店マティウスって店なんだが」
ティーは嬉しそうにニカッと笑うと、大きな声でお勧めの店を教えてくれた。
あー…よりによってマティウスさんの店か。確かにあの店は飯も酒も文句なしに美味かった。美味かったが折角なら他の店に行きたいよな。驚いた顔で固まっているアキトをちらりと見てから、俺はそっと口を開いた。
「あー悪いけど昨日行ったから、そこ以外で頼む」
「ええー!?イーシャルに詳しくないって言いながらあの料理店マティウスに辿り着いたのかよ?」
「ああ、依頼人が行き着けの店だったらしくてな」
「あーあの一緒に街に入った二人か…」
あの美味しさを知ってくれてるのは嬉しいような…いやでもやっぱり俺が伝えたかったようなとブツブツ言いながら、ティーはがっくりと肩を落とした。すまないな。
「あのー俺からも提案したいと思った店があるんですけど、ハルさん、その前にいくつかアキトさんに質問しても良いですか?」
どうやらアッシュは、先に条件をはっきりさせてから店を絞り込むつもりのようだ。性格が出てるなと思いながら、俺はすぐにアキトに視線を向けた。
「ああ、アキトが良いなら良いぞ?」
「はい、どうぞ?」
「えーではひとつめ。アキトさんって嫌いな食べ物あります?肉が無理ーとか魚が無理ーとかそういうのがあれば知りたいんですが」
「えーと、特に無いです」
アキトの答えにアッシュは一つコクリと頷くと、二本目の指を立てながら続けた。
「では次、量はよく食べる方ですか?それとも小食ですか?」
「あ、結構食べます」
確かにアキトは、この華奢な体格からは想像がつかないぐらいによく食べる。そう思いながら聞いていた俺の方に、アキトはちらりと視線を向けてきた。俺、結構食べる方だよね?と言いたげな探るような視線に、俺はすぐに笑って頷きを返す。
「最後にもうひとつだけ。さっきハルさんが言ってましたけど、お洒落なお店じゃなくても良いんですよね?」
「はい、お洒落さよりも…そうだなー温かい雰囲気の店が好き…だと思います」
アキトのその答えを聞いて、アッシュは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うん、それなら俺のお勧めのお店は良いかもしれません」
「自信ありそうだな。何ていう店だ?」
「ピシェっていう串焼き屋です。普通の串焼きよりも大き目の串に、塊の肉とかを刺して焼くんですよ」
「え、塊で…?」
思わず聞き返したアキトに、アッシュはすぐに頷いて説明を始めた。その店では肉に野菜、果物、チーズ、川魚まで全てを大きいままで焼いてから切り分けるらしい。
「それは楽しそうだな」
「豪快な料理ですけど、味付けは繊細なんですよ」
「アキト?」
「そこ行ってみたいです!」
どうやら決まりみたいだな。
「アッシュ、行き方教えてくれるか?」
「はい、えっとまずはこの階段から出て左側の…」
「なあ、その店、俺知らないんだけど…?」
アッシュの道案内の説明を遮ったのは、ティーの寂しそうな呟きだった。
「は?聞かれてもないのにいきなりお勧めの店を教えるっておかしいだろ?」
「えー…でも俺はこないだお勧めの店に連れていったのに?」
がっくりと分かりやすく肩を落としているティーに、アッシュは呆れ顔で答える。
「…あーもう、今度の休みにちゃんと連れて行ってやるから、今は黙ってろ」
「そうか!分かった!」
アッシュは別にティーを嫌っているわけじゃない。本人は絶対に認めないだろうが、むしろ気に入ってる筈だ。そうでなければ他にも選択肢がたくさんあったアッシュが、わざわざ同じ領の衛兵として働いていないだろう。
だからわざわざ約束なんて取り付けなくても、多分いつかはその店に連れていってもらえたと思うんだが。俺は苦笑しながら二人のやりとりを見守っていた。
アッシュはお勧めの店までの行き方を、丁寧に説明してくれた。元々説明が上手な奴ではあったが、いっそう説明が分かりやすくなったな。衛兵の仕事には道案内も含まれるからだろうか。
そんな事を考えていると、アッシュは手に持ったままだった時計の魔道具をちらりと見ると残念そうに口を開いた。
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