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505.【ハル視点】珍しい提供方法
愛想良く笑った青年は、手にもっていたトレイをポケットに押し込むと代わりに小さな紙を取り出した。
「これ一応うちのメニューだよー」
そう言いながら机の上にのせられた紙には、肉の種類、魚の種類、貝の種類、野菜の種類、そして果物の種類がずらりと並んでいた。一番上に串焼きと書いてあるが、これは料理というよりも全て素材の名前じゃないのか?
少しだけ気になったけれど、それより気になっているのは、さっきの一応という言葉だった。
「一応というのはどういう意味だ?」
率直に聞き返せば、店員はすぐに笑って答えた。
「うちのお客さんはメニューあんまり使わないんだよねー」
せっかく作ったんだけどねーと笑った青年いわく、この店の串焼きはとにかく大きいから一種類だけをたくさん食べたいって人以外には向かないらしい。
店員さんがそんな事をはっきり言って良いのかとアキトは心配そうにしていたけれど、本当の事だからねーと明るく笑い飛ばされている。
なんでも最初は大きな串焼きだけをメニューに載せていたが、常連の客から懇願されたんだそうだ。
「他の味も食べたいのに、なかなか他のに手がだせないーってねー」
美味しいだけにもどかしいから何とかしてくれと頼み込まれたらしい。
「俺も俺の伴侶も大食いだから、普通の人があの大きさの串焼きをいくつも食べるのは無理だって知らなかったんだー」
なるほど、自分たちを基準にしたらって事か。
「それでねーみんなの意見を聞いて回った結果、色んな味を試せるようにしようって決めたんだー」
最初はただ切り分けたものを出していただけだったけど、それではちょっと味気ないと店員達は悩んだらしい。
最終的には色んな種類の大きな串焼きを持った店員が個室を回って、それぞれの目の前で切り分けてくれるという今のやり方に落ち着いたらしい。
聞いた事のない提供方法だが、なかなか楽しそうだ。
「なるほど、それは良いな」
店員は褒められたと嬉しそうに笑うとすぐに値段を教えてくれたが、想像していたよりもかなり安いな。その倍ほどはするかと思ったんだが。本当にそんな値段で良いのかと聞きたくなるような値段だった。
「あ、気に入ったのがあればそれだけ追加もできるしーもっと気に入ったのがあれば別料金になるけど大きな串で丸ごと追加なんて事もできるよー」
それ以外にも苦手な物は食べないと断って良いとか、いっぱい食べたいのはもっと大きく切ってとお願いしても良いとか、青年は色々な決まり事を教えてくれた。
「俺はそれにしようかな。アキトはどうする?」
「うん、俺もそれが良い!」
「はーい、じゃあ二人ともまずはお試しだねー」
青年はしばらくおまちくださーいと明るく笑って、部屋から出ていった。
「どれにするか悩むかと思ったら、試せるのは嬉しいな」
「うん、でもハルはウカのステーキ串選ぶつもりだったでしょ?」
「バレてたか…そういうアキトはマルックスのグリル串と果物串だろう?」
「うん、当たりー」
お互いの食べたいものを言い当てながら、俺達はシャルの果実水に口をつけた。よく冷えたシャルの果実水が、乾いた喉に染みわたっていく。
「ここのシャルの果実水も美味しいね」
「ああ、何か他の果物が入ってるのかもしれないな」
「色は普通だけど、特別って言ってたもんね」
そう顔を寄せて言い合っていると、カーテンの向こうから声がかかった。
「待たせた」
ぼそりと響いた重低音の声に、アキトは慌ててカーテンの方へと視線を向けた。薄いカーテンの布地の向こうに立っているのは、レーブンやギルマスにもひけを取らない巨体の男だった。体格はかなり良い方だが、おそらくこれは戦うための身体付きではないな。ちらりと視線を向けた俺は、ついそんな事を考えてしまった。
「入って良いか?」
続けて極めて低音でそう尋ねた男の手には、野菜が刺さった巨大な串と料理用らしきこれまた巨大なナイフを持っているのが見えた。
許可を得ずに個室の中には入らないと決めているのか。そう理解した俺はそっと口を開いた。
「ああ、どうぞ」
答えを聞くなり、男はカーテンをかき分けて部屋の中へと入ってきた。
「これは今日の日替わり野菜串だ、いるか?」
そう尋ねられた俺とアキトは、何も考えずに反射的にすぐに頷いた。男の持つ串からあまりにも良い香りがしているせいで、我慢なんてできそうにない。この野菜はニリーだろうか。
男は巨大なナイフを繊細に使いこなして、野菜を切り落とした。
「ゆっくり食ってくれ」
「じゃあ折角だし、同時に食べようか」
「ああ、そうだな」
「「いただきます」」
声を揃えてから口に放り込んだニリーは、野菜本来の甘みとスパイスの配合が絶妙だった。じっくりと加熱されたせいなのかトロリと中がとろけているのに、皮のあたりはパリッと焼けている。食感の違いまで計算されているんだろうか。たぶんされているんだろうな。
「あっつい!でも美味しいっ!」
「っ!ああ、これは美味いな!」
「ところでハル、この野菜って何か知ってる?」
「ああニリーだな」
「二リーっていうんだ」
ニリーの説明をしていると、また男がカーテンの前に立ち止まった。
「入って良いか」
「「どうぞ」」
今度は俺とアキト二人の声がばっちりと重なった。
「次はマルックスのグリル串だ、いるか?」
「ああ、欲しい」
「あの、大き目にお願いします」
笑いながら元気にそう言ったアキトに、店員は微笑まし気に目を細めるとすぐにマルックスを切り分けてくれた。
「これ一応うちのメニューだよー」
そう言いながら机の上にのせられた紙には、肉の種類、魚の種類、貝の種類、野菜の種類、そして果物の種類がずらりと並んでいた。一番上に串焼きと書いてあるが、これは料理というよりも全て素材の名前じゃないのか?
少しだけ気になったけれど、それより気になっているのは、さっきの一応という言葉だった。
「一応というのはどういう意味だ?」
率直に聞き返せば、店員はすぐに笑って答えた。
「うちのお客さんはメニューあんまり使わないんだよねー」
せっかく作ったんだけどねーと笑った青年いわく、この店の串焼きはとにかく大きいから一種類だけをたくさん食べたいって人以外には向かないらしい。
店員さんがそんな事をはっきり言って良いのかとアキトは心配そうにしていたけれど、本当の事だからねーと明るく笑い飛ばされている。
なんでも最初は大きな串焼きだけをメニューに載せていたが、常連の客から懇願されたんだそうだ。
「他の味も食べたいのに、なかなか他のに手がだせないーってねー」
美味しいだけにもどかしいから何とかしてくれと頼み込まれたらしい。
「俺も俺の伴侶も大食いだから、普通の人があの大きさの串焼きをいくつも食べるのは無理だって知らなかったんだー」
なるほど、自分たちを基準にしたらって事か。
「それでねーみんなの意見を聞いて回った結果、色んな味を試せるようにしようって決めたんだー」
最初はただ切り分けたものを出していただけだったけど、それではちょっと味気ないと店員達は悩んだらしい。
最終的には色んな種類の大きな串焼きを持った店員が個室を回って、それぞれの目の前で切り分けてくれるという今のやり方に落ち着いたらしい。
聞いた事のない提供方法だが、なかなか楽しそうだ。
「なるほど、それは良いな」
店員は褒められたと嬉しそうに笑うとすぐに値段を教えてくれたが、想像していたよりもかなり安いな。その倍ほどはするかと思ったんだが。本当にそんな値段で良いのかと聞きたくなるような値段だった。
「あ、気に入ったのがあればそれだけ追加もできるしーもっと気に入ったのがあれば別料金になるけど大きな串で丸ごと追加なんて事もできるよー」
それ以外にも苦手な物は食べないと断って良いとか、いっぱい食べたいのはもっと大きく切ってとお願いしても良いとか、青年は色々な決まり事を教えてくれた。
「俺はそれにしようかな。アキトはどうする?」
「うん、俺もそれが良い!」
「はーい、じゃあ二人ともまずはお試しだねー」
青年はしばらくおまちくださーいと明るく笑って、部屋から出ていった。
「どれにするか悩むかと思ったら、試せるのは嬉しいな」
「うん、でもハルはウカのステーキ串選ぶつもりだったでしょ?」
「バレてたか…そういうアキトはマルックスのグリル串と果物串だろう?」
「うん、当たりー」
お互いの食べたいものを言い当てながら、俺達はシャルの果実水に口をつけた。よく冷えたシャルの果実水が、乾いた喉に染みわたっていく。
「ここのシャルの果実水も美味しいね」
「ああ、何か他の果物が入ってるのかもしれないな」
「色は普通だけど、特別って言ってたもんね」
そう顔を寄せて言い合っていると、カーテンの向こうから声がかかった。
「待たせた」
ぼそりと響いた重低音の声に、アキトは慌ててカーテンの方へと視線を向けた。薄いカーテンの布地の向こうに立っているのは、レーブンやギルマスにもひけを取らない巨体の男だった。体格はかなり良い方だが、おそらくこれは戦うための身体付きではないな。ちらりと視線を向けた俺は、ついそんな事を考えてしまった。
「入って良いか?」
続けて極めて低音でそう尋ねた男の手には、野菜が刺さった巨大な串と料理用らしきこれまた巨大なナイフを持っているのが見えた。
許可を得ずに個室の中には入らないと決めているのか。そう理解した俺はそっと口を開いた。
「ああ、どうぞ」
答えを聞くなり、男はカーテンをかき分けて部屋の中へと入ってきた。
「これは今日の日替わり野菜串だ、いるか?」
そう尋ねられた俺とアキトは、何も考えずに反射的にすぐに頷いた。男の持つ串からあまりにも良い香りがしているせいで、我慢なんてできそうにない。この野菜はニリーだろうか。
男は巨大なナイフを繊細に使いこなして、野菜を切り落とした。
「ゆっくり食ってくれ」
「じゃあ折角だし、同時に食べようか」
「ああ、そうだな」
「「いただきます」」
声を揃えてから口に放り込んだニリーは、野菜本来の甘みとスパイスの配合が絶妙だった。じっくりと加熱されたせいなのかトロリと中がとろけているのに、皮のあたりはパリッと焼けている。食感の違いまで計算されているんだろうか。たぶんされているんだろうな。
「あっつい!でも美味しいっ!」
「っ!ああ、これは美味いな!」
「ところでハル、この野菜って何か知ってる?」
「ああニリーだな」
「二リーっていうんだ」
ニリーの説明をしていると、また男がカーテンの前に立ち止まった。
「入って良いか」
「「どうぞ」」
今度は俺とアキト二人の声がばっちりと重なった。
「次はマルックスのグリル串だ、いるか?」
「ああ、欲しい」
「あの、大き目にお願いします」
笑いながら元気にそう言ったアキトに、店員は微笑まし気に目を細めるとすぐにマルックスを切り分けてくれた。
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