生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
519 / 1,561

518.【ハル視点】のんびりと流れる時間

「ごちそうさまでした」

 ダンゴを食べ終えてそう口にしたアキトは、満足そうな笑みを浮かべていた。

 アキトは元々菓子類が好きだけど、ここまで幸せそうな笑みを浮かべたのは初めて見たかもしれないな。もしかして、この菓子が特に思い出深いものだったりするんだろうか。

 気にはなるけれど二人の前で聞くわけにはいかない。俺はアキトに尋ねたい気持ちをぐっと飲み込んだ。

「なあ、アキト」

 不意にカーディさんがそう声をあげた。

「ん?カーディどうしたの?」
「もし答えたくなければ答えなくて良いんだけどさ」
「え…うん?」

 一体何を聞くつもりだろうと思わず俺まで身構えてしまったが、カーディさんの質問は予想外のものだった。

 ゆっくりと上がっていったカーディさんの指は、アキトの胸元に刺さっているトリクの造花の前でピタリと止まった。

「この花、どこで手に入れたんだ?」
「あ、この花!?」
「造花を売ってる屋台は今日回った時にもいくつかあったけど、ここまで綺麗なのは初めて見たから…さっきから気になってたんだよ」

 ああ、確かにこれはかなり質が良いからなと納得しながら、俺はこっそりと息を吐いた。アキトのさっきの発言を追及されるのかと思っていたから、無意識のうちに肩に力が入っていたらしい。

「そっか。これは道端で声を掛けられた少年から買ったんだ」
「そうなのか!どのあたりだったか覚えてるか?」

 カーディさんにそう尋ねられたアキトは、少し困った表情を浮かべたままじっと俺を見上げてきた。説明に悩んだんだろうな。

 アキトに頼られるのはいつだって嬉しい。俺は張り切って答えた。

「噴水広場までもう少しって所だったから、二番街の辺りだな」
「カゴで売ってたって事だよな?」

 アキトが少年から買ったと言った事で、カーディさんはすぐにカゴ売りだと気づいたようだ。

「ああ、そうだな」
「噴水広場に続く二番街の道って二つあったよな?」
「俺達が通ったのは西の方から入った道だな」
「じゃあ…」

 俺とカーディさんが細かい情報交換をしている間、クリスはまじまじと俺の胸元のトリクの花を見つめていた。そこでアキトの花を見つめない辺り、配慮が行き届いてるよな。主に俺の嫉妬心への配慮が。

「これは本当に細かい作りですね」
「魔道具技師になれるかもしれないレベルの器用さだよな」

 二人はそう言い合いながら、俺とアキトの付けているトリクの造花を褒めてくれた。

「売ってた少年のお姉さんが、伴侶や恋人同士、伴侶候補の幸せを祈って作ったんだって言ってました」

 クリスはアキトの説明を聞くなり、伴侶用の特別な造花ですかとぼそりと呟いた。

「へぇ、そうなのか」
「うん、リボンが付いてるのと付いてないのって感じだったけど、こっちの方が綺麗だったんだよ」
「俺達が伴侶候補だって気づく前は、普通の造花を売ろうとしてたんだ」

 俺も横からそう付け加えれば、二人はへぇと感心の声をあげた。

「この腕輪に気づいてから、特別なのがあるんだって教えてくれたんだよね」

 そう口にしたアキトの指先が、自分の伴侶候補の腕輪を確かめるようにそっと撫でた。何気ないその仕草に胸が熱くなる。

「この腕輪に気づいてから、特別なのがあるんだって教えてくれたんだよね」
「ああ、あれは嬉しかったよな」

 あの元気な少年を思いだしながらアキトと二人で話していると、不意にカーディさんが口を開いた。

「二番街の辺りか。明日探してみようかな」
「カーディも、欲しかったの?」

 アキトが優しく笑って尋ねれば、カーディさんはああとすぐに頷いた。

「ああ、せっかくトリク祭りに参加できたんだから俺もトリクの花飾りを買いたかったんだけど、良いのが無くてな」
「え、カーディ!そんな事を思ってたなら言ってくださいよ!言ってくれたらすぐに探しに行って見つかるまで付き合ったのに!」

 いや言われなくても気づくべきでしたよねと何故か反省しだしたクリスに、カーディさんは呆れ顔で答えた。

「言ったらそうなるから、わざと言わなかったんだよ」
「え…わざとですか…?」
「そう、わざと。予定が上手くいったとは言えクリスも疲れてるだろう?クリスなら見つかるまで探すって言うって分かってたからな」
「カーディ…私の事を気づかってくれたんですね!」

 一転してキラキラと目を輝かせ始めたクリスに、カーディさんは照れくさそうに笑った。

「カーディ、明日の午前中はその少年を探しに行きましょう!」
「ああ、そうだな」

 どうやら二人は明日は朝からあの少年探しをするようだ。

「場所は覚えてるが、案内するか?」

 そこにいるとは限らないがと続けた俺に、クリスはすぐに首を振って答えた。

「いえ、二人で探す事に意味がある気がするので、別行動で大丈夫ですよ」
「そうそう、見つからなかったら、また次の機会にするさ」
「そうか」
「ですが、お気持ちだけはありがとうございます」
「ありがとうな」
「どういたしまして」
「今日は他にどこに行ったんだ?」
「今日はねぇ…」



 のんびりとお茶を飲みながら四人での会話を楽しんでいたが、ふと気付けばアキトとカーディさんは大きなあくびを連発していた。

「あー…眠い」
「おれもねむい…」
「カーディ、部屋に戻って良いんですよ?」
「アキトも無理はしないで」
「二人はどうするんだ?」

 もちろんアキトと一緒に部屋に帰るよと答えようとしたが、それよりも先にクリスと視線が合った。もの言いたげな瞳が俺を見つめてくる。

「うーん…ハル、もう眠いですか?」

 その質問の意味は、二人だけで話せる時間をとってくれって事だよな。 

「いや、俺はまだ眠くないな」
「それならちょっとお酒でもどうです?」

 それは良いなと口では答えながらも、俺は静かに考えを巡らせていた。

 やっぱりさっきのアキトの言葉は、しっかり聞かれていたんだな。

 たったあれだけの発言から一体どうやって異世界人だという事実に辿り着いたのかまでは分からないが、おそらくバレていると考えた方が良いだろう。

 さてこれはどう対処するのが最善だろうか。

 友情を盾に説得する?珍しい素材を握らせて買収する?それとも持てる全ての権力を使って圧力をかける?できれば実力行使はしたくないんだが、その辺りはクリスの出方次第だな。

「アキトを部屋まで送ってからここに戻ってくるで良いか?」
「もちろんです。私も大事な伴侶を部屋まで送りたいので」

 クリスの答えに、カーディさんは苦笑を浮かべて答える。

「送らなくても大丈夫だぞ?」
「駄目です」
「はる、おれもひとりでかえれるよ?」

 例え宿の中の廊下をほんの少し歩くだけだとしても、こんなに眠たそうなアキトを一人で帰らせるなんてできるわけがない。

「一人で帰れるとしても送らせて欲しいんだ」

 お願いだからと続ければ、アキトは頬を赤く染めながらもちいさく頷いてくれた。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。