生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
522 / 1,561

521.【ハル視点】噂話

「どういたしまして。あ、もし完全に呼び名が広まる前に誰かに聞かれてしまったら、私の護衛をした時に知ったんだと言ってくださいね」

 その辺りの言い訳はたぶんハルなら得意でしょう?とクリスは明るく笑ってみせた。

 親身になってアキトの事を気にかけてくれている事に感謝しながらも、俺はクリスの行動に違和感を覚えていた。

「なあ、クリス」
「なんですか?」
「アキトが異世界人がどうかを聞いてきたのは、アキトの知識を利用するためじゃないと言ったよな」
「ええ、そうですよ」
「じゃあなぜわざわざ、その情報の真偽を確かめたんだ?」

 アキトのミタラシ呼びに気づいたとしても、そのまま気づかない振りをして流す事もできた筈だ。アキトの秘密が他の人にバレる可能性を考えたからかとも思ったが、それならただ親戚にミタラシ呼びを広めて欲しいとだけ言っておけば良い。それなら俺に気づかれる事も殺気を向けられる事も無かっただろう。

 クリスにとって、アキトが異世界人だと確認する事に何らかの意味があった。そう考えるしかない。

「一体何が目的で俺に睨まれてまで確認をしたんだ?」
「さすがハルですね、そこまで理解してくれるとは感心しました」

 クリスは自然な笑みを浮かべて俺を見つめてくる。

「こんな高度な防音結界のある部屋で、わざと二人きりの状況を作ったんだからな。それぐらいは分かる。―――何か、言い難い事か?」
「いいえ、私がわざわざ確認をした理由は一つだけです。もしアキトさんが異世界人ならあなたたち二人が知っておくべきじゃないかと思う情報を私が握っているからですね」

 異世界人なら知っておくべきじゃないかと思う情報か。クリスがそこまで言うなら、それはかなり重大な情報なんだろう。

「俺達二人に教えたい情報?」
「ええ、部外者には絶対に聞こえないこんな状況でないと、そうそう話せないような情報ですね」

 実は俺も密かに異世界人に関しての情報は集めていた。異世界に戻る方法や、実際に渡ってきた人の話なども探しては見たが、正直に言えばその成果はあまり無かった。

 貴重な情報だけに、そうそうやり取りされていないのが実情だからだ。

「仕事柄色々な人に会いますからね。こっそりと噂話や情報を回してくれる方も多いんですよ」
「そう…だろうな」

 魔道具の依頼ついでに話し込んでいく客も多いだろうし、興味のある話ならクリスが上手く聞き出すんだろう。そう思って頷いた俺に、クリスは少し困った顔で続けた。

「その噂話の内容についてなんですが、まずはハルが聞いてから判断してもらいたんです」
「判断?」
「ええ、アキトさんに言うかどうかは…ハルが決めて下さい」
「…分かった。聞こう」

 言うかどうかを俺に決めろというような内容なのかと咄嗟に身構えた俺に、クリスはそっと口を開いた。 

「数か月前、他国で異世界人を召喚した貴族がいるという噂を聞きました」
「異世界人を…召喚した?」
「ええ。とは言っても国を上げて行った行事では無く、とある貴族の独断で行った召喚だったらしいんですが」

 国名と貴族の名前まではさすがに聞き出せなかったですと、クリスは申し訳なさそうな表情を浮かべている。いや、むしろそこをあまり追及しすぎると、必要な情報を聞き出す前に逃げられるかもしれないからな。

「いや、良い判断だと思う」
「ありがとうございます。その時は本当にただの噂話なんだと思っていたんですが…最近になってその国の貴族が今も異世界人を探していると知ったんです」
「は…?」

 召喚を行った貴族が今も異世界人を探している?

 俺とアキトが出会った時、アキトはたった一人でナルクアの森にいた。もしそれが召喚に何らかの不具合があって召喚位置がずれたせいだとしたら――探されている異世界人は、もしかしたらアキトかもしれない。

「ハル、あなたにこの情報を伝えるかどうか…これでも悩んだんですよ」
「…そうなのか?」
「ええ、でも、もし今ここで知らせなかった事でアキトさんの身に危険が及んだらと思うと…せめて警戒して欲しいと伝える事に決めたんです」

 もしカーディを探している人がいるなんて情報があったら、たとえそれがただの噂話程度の信憑性だとしても、知っておきたいと思いますからとクリスは続けた。

「……うん、そうだな。知っておきたいと俺も思う。伝えてくれてありがとう」
「どういたしまして。一応言っておきますけど…私は愛しい伴侶の名前に誓って、誰にもアキトさんが異世界人だとは言いませんからね」

 真面目な顔で誓いの言葉を口にしたクリスに、俺は苦笑しながら答えた。

「そんな事、わざわざ言わなくても信じてるよ」
「それは良かったです」
「アキトには、俺から伝えるよ」
「その方が警戒はできるでしょうね」

 そう言ってくれたクリスに、それでも俺に判断を委ねてくれてありがとうともう一度礼の言葉を口にした。

「どういたしまして…ふう、この話はここで終わりにして、今度こそ飲みませんか?」

 そう言って魔導収納鞄から取り出したのは、濃厚な赤色の酒が入ったガラス細工の瓶だった。

「良い赤だな。セアーロの酒か?」
「正解です」

 クリスは手早くグラスを二つ取り出すと、すこしとろみを帯びたその酒を注いでいく。手渡されたセアーロの酒は、驚くほどに旨味のある酒だった。

「うまいな」
「ええ、本当に」
「アキトも好きそうな味だ」
「カーディも好きそうな味ですね」

 じっくり味わってから口にした言葉がぴたりと重なった事に、俺達は二人揃って声を上げて笑った。

「一本差し上げますから、今度二人で飲んだら良いですよ」
「良いのか?」
「本当に私たちは伴侶馬鹿ですね」

 伴侶自慢と伴侶候補自慢を繰り返しながら、俺達はのんびりと酒を酌み交わした。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。