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529.馬に乗れない理由
走り出した馬車の分厚いカーテンをそっと開けば、馬車を挟むようにして駆ける馬の姿がよく見える。
今日の御者はルセフさんで、後ろの守りはファリーマさん、左右をウォルターさんとブレイズが挟んでくれている編成だ。
ウォルターさんは慣れた様子で危なげなく馬を走らせているし、ブレイズはニコニコと楽しそうに笑いながら俺に向かって手を振る余裕まであるみたいだ。二人ともすごいな。
「うわーほんとうにみんな馬に乗れるんだ…」
ぽつりとこぼれた俺の言葉に、向かいに座っていたカーディが笑いながら口を開いた。
「さっきも言ってたけど、アキトは全く乗れないのか?」
「うん、多分全く乗れないと思う…挑戦した事も無いんだけどね。ちなみにカーディは乗れるの?」
「いや、俺もそれなりに乗れなくはないが、戦闘しながらウマを操れるほどの腕前は無いな」
カーディによると、騎乗しながらの戦闘はかなりの腕が無いと難しいらしい。
馬を操る事だけに意識が行き過ぎても駄目だし、かといって馬の操縦を諦めて馬に丸投げするわけにもいかない。しかも不規則に揺れる馬の上から、狙いを定めて攻撃をするんだからそりゃあ難しいに決まってるよね。
「ちなみに、武器の種類によっても難易度が変わるんだよ」
隣に座っていたハルが、そう教えてくれた。
「短刀や片手剣は比較的簡単なんだけど、両手を使う武器が特に大変なんだ」
「両手を使う武器って言うと…大剣とか?」
「うん、そうだね。ウォルターの使ってる盾も風の抵抗を受けるからかなり難しいよ」
「そうなんだ」
「まあ、一番難しいのは弓なんだけどね」
弓と言われて俺はちらりと窓の外のブレイズに視線を向けた。こちらの会話は全く聞こえていないだろうブレイズは、何か用事?と言いたげにじっとこちらを見つめている。
前見て、前。俺は慌ててなんでも無いと手を振って伝えた。
「弓は狙いを付けるまで時間がかかるからね。両手を離してる時間も長くなるし、不規則な揺れを計算しながら適切な力で弓を引かないと駄目だから」
「へーブレイズはそんな事ができるって事?すごいな…」
「アキトもやってみたら良いさ。ハルはウマは得意だって言ってたし、指導はしてくれるだろ」
挑戦してみて駄目だったら諦めれば良いだけだしなと、カーディは明るく笑って言いきった。できない事をできると言い張って失敗する冒険者よりも、できない事はできないって言いきれる冒険者の方がよほど信頼できるんだって。確かにそれもそうだな。
「まあ俺の見立てだと、アキトは案外あっさり乗れそうな気がするんだけどね」
「あれ、そうなんですか?」
ハルがポロッとこぼした言葉に食いついたクリスさんに、俺は心の中で話かける。それはただの買いかぶりだと思うので、それ以上突っ込まないでください。絶対、ハルの中での俺の評価が高すぎるせいだと思うんだ。
「あー…でもまあ確かに、そんな感じはするな」
「カーディまで!?え…何を根拠に?」
「さっきのアキトの反応を見てたから…だな?」
さっきの俺の反応?とゆるりと首を傾げた俺に、ハルは一つの質問を投げかけてきた。
「アキト、ウマに乗れない理由で一番多いのって何か分かる?」
「え…平衡感覚が無い…とか?」
もしくは運動神経?筋肉が必要とかだったら泣くしかないけど、でもハルとカーディは俺が乗れそうって思ってるんだよね?
「ああ、確かにそれも大事ですね」
クリスさんは笑顔で頷いてくれたけど、ハルはゆっくりと首を振った。
「答えはウマが怖いから――なんだよ」
「え、馬が怖い?あんなに綺麗で格好良いのに!?」
思わずそう叫んだ俺に、俺以外の三人は笑い出した。
「はー本当にウマが大好きなんですね」
「ああ、さすがにウマ相手に嫉妬はしないが…アキトは数回出会っただけのウマにも、やけに気に入られていたんだ」
「これは確かに、乗れるかもしれないな」
なんでも元魔物であるこの世界の馬たちは、乗り手の感情にかなり敏感らしい。恐怖心が捨てきれていないとそもそも乗せてすらもらえないし、内心で馬鹿にしてたりしたら思いっきり振り落とされたりもするらしい。その代わり馬に対して好意を抱いているひとには、比較的甘かったりもするんだって。
「へーそうなんだ、賢いんだね、馬って」
「うん、この話を聞いた感想がそれな辺り、アキトは絶対乗れると思うぞ」
カーディはそう言うと楽しそうに笑いだした。
「しかもアキトは無詠唱で魔法が使えるからね」
「あ、そっか手を離さなくて良い?」
「うん、正解」
「馬に乗れる場所、ちゃんと考えるから楽しみにしててね」
ハルはそう言うと、俺の頭を優しく撫でた。
今日の御者はルセフさんで、後ろの守りはファリーマさん、左右をウォルターさんとブレイズが挟んでくれている編成だ。
ウォルターさんは慣れた様子で危なげなく馬を走らせているし、ブレイズはニコニコと楽しそうに笑いながら俺に向かって手を振る余裕まであるみたいだ。二人ともすごいな。
「うわーほんとうにみんな馬に乗れるんだ…」
ぽつりとこぼれた俺の言葉に、向かいに座っていたカーディが笑いながら口を開いた。
「さっきも言ってたけど、アキトは全く乗れないのか?」
「うん、多分全く乗れないと思う…挑戦した事も無いんだけどね。ちなみにカーディは乗れるの?」
「いや、俺もそれなりに乗れなくはないが、戦闘しながらウマを操れるほどの腕前は無いな」
カーディによると、騎乗しながらの戦闘はかなりの腕が無いと難しいらしい。
馬を操る事だけに意識が行き過ぎても駄目だし、かといって馬の操縦を諦めて馬に丸投げするわけにもいかない。しかも不規則に揺れる馬の上から、狙いを定めて攻撃をするんだからそりゃあ難しいに決まってるよね。
「ちなみに、武器の種類によっても難易度が変わるんだよ」
隣に座っていたハルが、そう教えてくれた。
「短刀や片手剣は比較的簡単なんだけど、両手を使う武器が特に大変なんだ」
「両手を使う武器って言うと…大剣とか?」
「うん、そうだね。ウォルターの使ってる盾も風の抵抗を受けるからかなり難しいよ」
「そうなんだ」
「まあ、一番難しいのは弓なんだけどね」
弓と言われて俺はちらりと窓の外のブレイズに視線を向けた。こちらの会話は全く聞こえていないだろうブレイズは、何か用事?と言いたげにじっとこちらを見つめている。
前見て、前。俺は慌ててなんでも無いと手を振って伝えた。
「弓は狙いを付けるまで時間がかかるからね。両手を離してる時間も長くなるし、不規則な揺れを計算しながら適切な力で弓を引かないと駄目だから」
「へーブレイズはそんな事ができるって事?すごいな…」
「アキトもやってみたら良いさ。ハルはウマは得意だって言ってたし、指導はしてくれるだろ」
挑戦してみて駄目だったら諦めれば良いだけだしなと、カーディは明るく笑って言いきった。できない事をできると言い張って失敗する冒険者よりも、できない事はできないって言いきれる冒険者の方がよほど信頼できるんだって。確かにそれもそうだな。
「まあ俺の見立てだと、アキトは案外あっさり乗れそうな気がするんだけどね」
「あれ、そうなんですか?」
ハルがポロッとこぼした言葉に食いついたクリスさんに、俺は心の中で話かける。それはただの買いかぶりだと思うので、それ以上突っ込まないでください。絶対、ハルの中での俺の評価が高すぎるせいだと思うんだ。
「あー…でもまあ確かに、そんな感じはするな」
「カーディまで!?え…何を根拠に?」
「さっきのアキトの反応を見てたから…だな?」
さっきの俺の反応?とゆるりと首を傾げた俺に、ハルは一つの質問を投げかけてきた。
「アキト、ウマに乗れない理由で一番多いのって何か分かる?」
「え…平衡感覚が無い…とか?」
もしくは運動神経?筋肉が必要とかだったら泣くしかないけど、でもハルとカーディは俺が乗れそうって思ってるんだよね?
「ああ、確かにそれも大事ですね」
クリスさんは笑顔で頷いてくれたけど、ハルはゆっくりと首を振った。
「答えはウマが怖いから――なんだよ」
「え、馬が怖い?あんなに綺麗で格好良いのに!?」
思わずそう叫んだ俺に、俺以外の三人は笑い出した。
「はー本当にウマが大好きなんですね」
「ああ、さすがにウマ相手に嫉妬はしないが…アキトは数回出会っただけのウマにも、やけに気に入られていたんだ」
「これは確かに、乗れるかもしれないな」
なんでも元魔物であるこの世界の馬たちは、乗り手の感情にかなり敏感らしい。恐怖心が捨てきれていないとそもそも乗せてすらもらえないし、内心で馬鹿にしてたりしたら思いっきり振り落とされたりもするらしい。その代わり馬に対して好意を抱いているひとには、比較的甘かったりもするんだって。
「へーそうなんだ、賢いんだね、馬って」
「うん、この話を聞いた感想がそれな辺り、アキトは絶対乗れると思うぞ」
カーディはそう言うと楽しそうに笑いだした。
「しかもアキトは無詠唱で魔法が使えるからね」
「あ、そっか手を離さなくて良い?」
「うん、正解」
「馬に乗れる場所、ちゃんと考えるから楽しみにしててね」
ハルはそう言うと、俺の頭を優しく撫でた。
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