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537.【ハル視点】爽やかな目覚め
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朝、自然と目が覚めて最初にすることは、アキトがまだ寝ているかどうかを確認する事だ。
起こしてしまわないように気を付けてそーっと寝返りを打てば、誰よりも愛おしい存在の寝顔が目に飛び込んできた。すうすうと寝息を立てながら眠るアキトの姿に、しみじみと幸せを噛み締めるうのも既に日課となった。
アキトと一緒に眠るようになってからは、本当によく眠れている。以前は近くに人がいるだけでも熟睡できなかったなんて、自分でも信じられないぐらいの熟睡っぷりだ。
さて、これからどうしようかと俺は一人考え始める。
このままアキトの寝顔を堪能していても良いが、昨日クリスから聞いた話はトライプールに戻る前にちゃんと伝えておきたいな。この部屋なら防音結界もあるし、秘密の会話をするには最適だ。
そう判断した俺はまずは朝食の手配でもしてこようかなと、細心の注意を払ってベッドから抜け出した。
受付はこれからトリク祭りに行くのだろう宿泊客で賑わっていたが、意外にも食堂は比較的空いていた。
お客さんが来たと嬉しそうに注文を受けてくれた料理人いわく、祭りの日は屋台で済ませる人が多いからどうしても暇になるらしい。
「うちの料理は華美じゃないけど質が良い素材を使ってるからね、味には自信があるよ。張り切って腕を振るうからね」
そう言いきった料理人は、流れるような手つきで美味しそうな料理を作り上げていく。確かに派手では無いが、どれも美味しそうだ。
うん、これはアキトが喜ぶだろうなと思いながら、俺は受け取った料理を手に部屋へと戻った。
部屋に戻っても、アキトはまだ眠ったままだった。俺がいないと慌てさせないようにと一応用意していた小さなメモを片づけてから、俺はアキトにそっと近づいた。
「アキト、起きられる?」
柔らかく肩に触れるながら声をかければ、アキトはそっと目を開いた。
「おはよう、ハル」
「ああ。おはよう、アキト」
「ごめん。二度寝したら寝すぎちゃったな、起こしてくれてありがとう」
「いや、気にしないで」
アキトの手を取ってベッドから立たせると、俺はそのままテーブルの方へと歩き出した。されるがままについてくるアキトが可愛くて自然と笑みがこぼれてしまう。
「朝食が届いてるから、食べよう?」
まあ届いてるというか、自分で取りにいったんだけどな。しかも部屋まで運びましょうかという料理人の声かけに、大事な人の寝顔を見せたくないからなんて恥ずかしい惚気までしてしまったんだが…うん、これはアキトには言えないな。
「わ、本当だ!」
テーブルの上に並ぶ色んな種類のこぶりなパンにジャム、サラダに果物、卵料理を見てアキトの目がキラキラと輝いた。
「朝の飲み物は…花茶かな?」
「うん、花茶が良い!」
笑顔でそう答えたアキトに、俺はすぐにお茶を淹れて手渡した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
いただきますと声を重ねて二人揃って朝食に手を伸ばす。見た目はどこにでもありそうな朝食なのに、どれもこれも驚くほどに美味しかった。本当にあの料理人は凄腕なんだな。
「美味しい」
「うん、美味しいね。料理長のこだわりで、朝食は華美じゃないが質が良い物を出すって決まってるらしいよ?」
「へーそれは嬉しいこだわりだな」
「これだけ美味しいならすごい事だよね」
のんびりと会話を楽しみながらの食事を終えた後、俺はアキトに向かってそっと声をかけた。どうしても早く伝えておきたくなったからだ。
「アキト、ひとつ話したい事があるんだ」
「うん、何?」
「昨夜ね、クリスにアキトが異世界人かって聞かれて…」
「えっ…!?」
アキトは驚きすぎたのか固まったまま、呆然と俺を見つめている。
「さすがに誤魔化せなかったから、そうだって教えた。勝手に決めてごめんね」
「いや、うん。それは仕方ないと思うから良いんだけど…何でバレたの?」
「うーん…アキト昨日ダンゴ食べたでしょう?」
「うん」
「その時にミタラシって言ってたんだよ」
「え…俺みたらしって言ってた?」
「言ってたよ。それをクリスも聞いてたみたいでね」
あの菓子はクリスの親戚が売り出す予定の物でまだ一般には発売していない事。あの料理法自体はかつて親戚が保護していた異世界人が試行錯誤して作ったものである事。数代前の当主の日記と一緒に最近になって出てきた物だという事。
アキトは俺の説明に静かに耳を傾けてくれた。
「その日記に、正式名称はミタラシダンゴだって言いながらも、なぜかミタラシと呼んでいたって記されていたんだ。聞きなれない言葉だから、その名前は使わないつもりだったらしいんだけどね」
「そっか…うん、俺のうかつな発言のせいなんだね」
「いや、不意打ちで故郷のお菓子が出てきたんだから、それは仕方ないよ」
慰める俺に、アキトはうんと一つ頷いた。
「ありがと。それでクリスさんはなんだって?」
まっすぐに俺を見つめてそう尋ねたアキトは、思っていたよりもかなり落ち着いている。もっと動揺するかと思っていたんだが、大丈夫そうだな。
「アキト、落ち着いてるね?」
「あの二人の事は信頼してるから…かな?」
「そうか…うん、そうだね。俺よりもよっぽど冷静だよ」
俺は笑いながら続けた。
「クリスは、ミタラシって呼び方を広めるように親戚に言っておくから、広まるまでは注意してくれって言ってたよ」
「え、広めてくれるんだ?」
「ああ、その方が咄嗟に出た言葉が問題にならないだろうからって。あと広まる前にもし誰かに聞きとがめられたら、クリスと一緒に食べた時に聞いたんだって言えって忠告まで貰ったよ」
心底アキトの事を心配していないと出てこない忠告だと思う。
「そこまでしてくれるなんて…有難いね」
「ああ、本当に有難いよ」
しみじみとそう呟いた俺は、視線をあげるとまっすぐアキトを見つめた。異世界人だとバレてしまった事ももちろん大事だが、もう一つ伝えておかないといけない事がある。
起こしてしまわないように気を付けてそーっと寝返りを打てば、誰よりも愛おしい存在の寝顔が目に飛び込んできた。すうすうと寝息を立てながら眠るアキトの姿に、しみじみと幸せを噛み締めるうのも既に日課となった。
アキトと一緒に眠るようになってからは、本当によく眠れている。以前は近くに人がいるだけでも熟睡できなかったなんて、自分でも信じられないぐらいの熟睡っぷりだ。
さて、これからどうしようかと俺は一人考え始める。
このままアキトの寝顔を堪能していても良いが、昨日クリスから聞いた話はトライプールに戻る前にちゃんと伝えておきたいな。この部屋なら防音結界もあるし、秘密の会話をするには最適だ。
そう判断した俺はまずは朝食の手配でもしてこようかなと、細心の注意を払ってベッドから抜け出した。
受付はこれからトリク祭りに行くのだろう宿泊客で賑わっていたが、意外にも食堂は比較的空いていた。
お客さんが来たと嬉しそうに注文を受けてくれた料理人いわく、祭りの日は屋台で済ませる人が多いからどうしても暇になるらしい。
「うちの料理は華美じゃないけど質が良い素材を使ってるからね、味には自信があるよ。張り切って腕を振るうからね」
そう言いきった料理人は、流れるような手つきで美味しそうな料理を作り上げていく。確かに派手では無いが、どれも美味しそうだ。
うん、これはアキトが喜ぶだろうなと思いながら、俺は受け取った料理を手に部屋へと戻った。
部屋に戻っても、アキトはまだ眠ったままだった。俺がいないと慌てさせないようにと一応用意していた小さなメモを片づけてから、俺はアキトにそっと近づいた。
「アキト、起きられる?」
柔らかく肩に触れるながら声をかければ、アキトはそっと目を開いた。
「おはよう、ハル」
「ああ。おはよう、アキト」
「ごめん。二度寝したら寝すぎちゃったな、起こしてくれてありがとう」
「いや、気にしないで」
アキトの手を取ってベッドから立たせると、俺はそのままテーブルの方へと歩き出した。されるがままについてくるアキトが可愛くて自然と笑みがこぼれてしまう。
「朝食が届いてるから、食べよう?」
まあ届いてるというか、自分で取りにいったんだけどな。しかも部屋まで運びましょうかという料理人の声かけに、大事な人の寝顔を見せたくないからなんて恥ずかしい惚気までしてしまったんだが…うん、これはアキトには言えないな。
「わ、本当だ!」
テーブルの上に並ぶ色んな種類のこぶりなパンにジャム、サラダに果物、卵料理を見てアキトの目がキラキラと輝いた。
「朝の飲み物は…花茶かな?」
「うん、花茶が良い!」
笑顔でそう答えたアキトに、俺はすぐにお茶を淹れて手渡した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
いただきますと声を重ねて二人揃って朝食に手を伸ばす。見た目はどこにでもありそうな朝食なのに、どれもこれも驚くほどに美味しかった。本当にあの料理人は凄腕なんだな。
「美味しい」
「うん、美味しいね。料理長のこだわりで、朝食は華美じゃないが質が良い物を出すって決まってるらしいよ?」
「へーそれは嬉しいこだわりだな」
「これだけ美味しいならすごい事だよね」
のんびりと会話を楽しみながらの食事を終えた後、俺はアキトに向かってそっと声をかけた。どうしても早く伝えておきたくなったからだ。
「アキト、ひとつ話したい事があるんだ」
「うん、何?」
「昨夜ね、クリスにアキトが異世界人かって聞かれて…」
「えっ…!?」
アキトは驚きすぎたのか固まったまま、呆然と俺を見つめている。
「さすがに誤魔化せなかったから、そうだって教えた。勝手に決めてごめんね」
「いや、うん。それは仕方ないと思うから良いんだけど…何でバレたの?」
「うーん…アキト昨日ダンゴ食べたでしょう?」
「うん」
「その時にミタラシって言ってたんだよ」
「え…俺みたらしって言ってた?」
「言ってたよ。それをクリスも聞いてたみたいでね」
あの菓子はクリスの親戚が売り出す予定の物でまだ一般には発売していない事。あの料理法自体はかつて親戚が保護していた異世界人が試行錯誤して作ったものである事。数代前の当主の日記と一緒に最近になって出てきた物だという事。
アキトは俺の説明に静かに耳を傾けてくれた。
「その日記に、正式名称はミタラシダンゴだって言いながらも、なぜかミタラシと呼んでいたって記されていたんだ。聞きなれない言葉だから、その名前は使わないつもりだったらしいんだけどね」
「そっか…うん、俺のうかつな発言のせいなんだね」
「いや、不意打ちで故郷のお菓子が出てきたんだから、それは仕方ないよ」
慰める俺に、アキトはうんと一つ頷いた。
「ありがと。それでクリスさんはなんだって?」
まっすぐに俺を見つめてそう尋ねたアキトは、思っていたよりもかなり落ち着いている。もっと動揺するかと思っていたんだが、大丈夫そうだな。
「アキト、落ち着いてるね?」
「あの二人の事は信頼してるから…かな?」
「そうか…うん、そうだね。俺よりもよっぽど冷静だよ」
俺は笑いながら続けた。
「クリスは、ミタラシって呼び方を広めるように親戚に言っておくから、広まるまでは注意してくれって言ってたよ」
「え、広めてくれるんだ?」
「ああ、その方が咄嗟に出た言葉が問題にならないだろうからって。あと広まる前にもし誰かに聞きとがめられたら、クリスと一緒に食べた時に聞いたんだって言えって忠告まで貰ったよ」
心底アキトの事を心配していないと出てこない忠告だと思う。
「そこまでしてくれるなんて…有難いね」
「ああ、本当に有難いよ」
しみじみとそう呟いた俺は、視線をあげるとまっすぐアキトを見つめた。異世界人だとバレてしまった事ももちろん大事だが、もう一つ伝えておかないといけない事がある。
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