生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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544.【ハル視点】ウマに好かれる才能

 走り出した馬車の分厚いカーテンをアキトがそっと開けば、馬車を挟むようにして駆ける二頭のウマの姿がよく見えた。

 今日の御者はルセフ、後ろの守りはファリーマ。馬車の左右をウォルターとブレイズが挟む編成だ。後ろが魔法使いなのは、かなり自由度があって良い編成だな。

 ウォルターは慣れた様子で危なげなくウマを走らせているし、ブレイズはニコニコと楽しそうに笑いながらアキトに向かって手を振る余裕まであるようだ。どうやらこのパーティーで一番ウマに慣れているのは、ブレイズみたいだな。

「うわーほんとうにみんな馬に乗れるんだ…」

 ぽつりとこぼれた尊敬のこもったアキトの言葉に、向かいに座っているカーディさんが笑いながら尋ねた。

「さっきも言ってたけど、アキトは全く乗れないのか?」
「うん、多分全く乗れないと思う…挑戦した事も無いんだけどね。ちなみにカーディは乗れるの?」
「いや、俺もそれなりに乗れなくはないが、戦闘しながらウマを操れるほどの腕前は無いな。騎乗しながらの戦闘はかなりの腕が無いと難しいからな」

 カーディさんは、アキトに向かって説明を始めた。

 馬を操る事だけに意識が行き過ぎても駄目だし、かといって馬の操縦を諦めて馬に丸投げするわけにもいかない事。しかも不規則に揺れる馬の上から、狙いを定めて攻撃をするんだから難易度は一気にあがる事。

 へーそうなのかと感心しているアキトに、俺は横から声をかけた。

「ちなみに、武器の種類によっても難易度が変わるんだよ」

 これはけっしてカーディさんばかり感心されていて羨ましいから俺にも説明させて欲しいなんて気持ちからではない筈だ――たぶん。

「短刀や片手剣は比較的簡単なんだけど、両手を使う武器が特に大変なんだ」
「両手を使う武器って言うと…大剣とか?」
「うん、そうだね。ウォルターの使ってる盾も風の抵抗を受けるからかなり難しいよ」
「そうなんだ」
「まあ、一番難しいのは弓なんだけどね」

 弓と言うなりアキトはちらりと窓の外のブレイズに視線を向けた。こちらの会話は全く聞こえていないだろうに目敏く気づいたブレイズは、何か用事?と言いたげにじっとアキトを見つめている。こちらを見つめながらでもウマの走りは全くぶれないのか、騎士にならないかと誘いたくなるぐらいのすごい腕前だな。

「弓は狙いを付けるまで時間がかかるからね。両手を離してる時間も長くなるし、不規則な揺れを計算しながら適切な力で弓を引かないと駄目だから」
「へーブレイズはそんな事ができるって事?すごいな…」

 俺にもできるかなと呟いたアキトに、カーディさんは明るく笑って答える。

「アキトもやってみたら良いさ。ハルはウマは得意だって言ってたし、指導はしてくれるだろ。挑戦してみて駄目だったら諦めれば良いだけだしな」

 できない事をできると言い張って失敗する冒険者よりも、できない事はできないって言いきれる冒険者の方がよほど信頼できるとカーディさんは断言した。まあ、確かにそうだな。

「まあ俺の見立てだと、アキトは案外あっさり乗れそうな気がするんだけどね」
「あれ、そうなんですか?」

 俺がポロッとこぼした言葉に、クリスが食いついた。アキトは困った顔で笑ってるから、これは乗れるかどうか分からないのにって思ってるんだろうな。

「あー…でもまあ確かに、そんな感じはするな」
「カーディまで!?え…何を根拠に?」
「さっきのアキトの反応を見てたから…だな?」

 やっぱりそう思うよな。俺と同じ答えに辿り着いたらしいカーディさんに笑いかけてから、俺は首を傾げているアキトに声をかけた。

「アキト、ウマに乗れない理由で一番多いのって何か分かる?」
「え…平衡感覚が無い…とか?」
「ああ、確かにそれも大事ですね」

 クリスは笑顔で頷いているけど、俺は答えを待っているアキトにゆっくりと首を振ってから口を開く。

「答えはウマが怖いから――なんだよ」
「え、馬が怖い?あんなに綺麗で格好良いのに!?」

 思わずそう叫んだアキトに、アキト以外の俺達三人は思いっきり笑い出した。

「はー本当にウマが大好きなんですね」
「ああ、さすがにウマ相手に嫉妬はしないが…アキトは数回出会っただけのウマにも、やけに気に入られていたんだ」
「これは確かに、乗れるかもしれないな」

 どういう事?と言いたげなアキトに、俺は魔物であるこの世界のウマたちは乗り手の感情にかなり敏感なんだと伝えた。

 恐怖心が捨てきれていなければそもそも乗せてすらもらえないし、内心で馬鹿にしてたりしたら思いっきり振り落とされる。

 その上、もしウマに敵意を抱いていたりしたら、後ろ脚で蹴られるか踏みつぶされそうになるんだとは伝えなかった。どうせアキトはウマの前でそんな事を考えたりしないから、知っておく必要も無いだろうしな。

 代わりにウマに対して好意を抱いているひとには、比較的甘いんだよと付け加える。

「へーそうなんだ、賢いんだね、馬って」
「うん、この話を聞いた感想がそれな辺り、アキトは絶対乗れると思うぞ」

 カーディさんはそう言うと楽しそうに笑いだした。

 ああ、俺もそう思うよ。何ならアキト専属になりたいってウマまで現れそうで少しだけ心配になるぐらいだ。アキトにはウマに好かれる才能があるからな。

「しかもアキトは無詠唱で魔法が使えるからね」
「あ、そっか手を離さなくて良い?」
「うん、正解」

 褒められたと笑うアキトの頭を、俺はそっと優しく撫でた。
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