生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
555 / 1,561

554.テント設営

 ルセフさんに教えてもらった場所にいそいそと近づいていったけれど、そこに無造作に積み上げられているテントの数は四つだけだった。あれ?四つだけ?と俺はゆるりと首を傾げる。

「ん?アキト、どうかした?」

 後ろから追いかけてきてくれたハルを振り返って、俺は尋ねる。

「ハル、この四つあるのってルセフさん達のパーティーの分のテントだよね?」
「うん、そうだろうね。先に俺達のテントも出しちゃおうか」
「あ、うん」

 促されるままに自分の鞄に手を入れてテントを取り出しながら、俺はハルを見つめた。

「えっと、じゃあ、クリスさんとカーディのテントも、貰いに行かないとだね」

 今もウマの世話をしてくれてるのに、二人の分だけここになかったから張らなかったなんてひどすぎるよね。そう思って提案したんだけど、ハルはああなるほどそれを気にしてたのかと笑みを浮かべた。

「アキト、クリスとカーディさんは今日はテントはいらないと思うよ」

 テントはいらない…?え、テントはいるよね?寝ないの?一体どんな理由があればテントがいらないんだろうと色々と考えてはみたけれど、答えは一切出てこなかった。

「テントはいらないって……なんでいらないの?」
「一応後で二人に直接確認はするつもりだけど、今日は多分クリスもカーディさんも馬車で寝ると思うからね」

 ハルによると今回みたいに馬車で移動してる時は、基本的に依頼人とか偉い人なんかが馬車の中で寝るっていうのが定番なんだって。

 しかも昼間俺達が座ってたあの椅子が、バラシて組み立てると簡易のベッドに早変わりするらしい。何それ、すっごく面白そうだ。もし二人に許可を貰えたら、後で見せてもらえたりするかな。ワクワクしながら聞いていた俺に、不意にハルが尋ねてきた。

「馬車の中ならベッドがあるってのも理由ではあるんだけど、もう一つ大きな理由があるんだ。アキトは分かるじゃば?」
「えー…大きな理由?えっと、虫が来ないとか?」

 俺は別に平気だから良いんだけど、野営してるとどうしても虫が寄ってくるんだよね。灯りの無い場所で火を起こすんだから仕方ない事なんだけどさ。

「ああ、虫が苦手な人なら、それも大きな理由になるかもしれないけど…それじゃ無いね」

 すぐに否定せずに優しく笑って答えてくれるのが、すごくハルらしい。

「うーん…思いつかないや」
「正解は、もし何か不測の事態が起きた時――例えば魔物とか盗賊の襲来なんかがあった時に、守りやすくするためなんだ」

 あーなるほど。だから依頼人とか偉い人にあえて馬車の中で寝て貰うのか。この世界の人達の危機管理能力って本当にすごいよね。いや、それだけ危険が身近にあるって事か。

「それに馬車の中にいてくれれば、最悪の事態になったら馬車ごと移動できるからね」

 あの二人ならそういう意味での問題は無いけど、護衛のいう事なんて聞かない依頼人は本当に予想外の動きをするから面倒なんだよねとハルは遠い目をして呟いた。あ、駄目だ。ハルが何かを思い出してる。明らかに目がいつもと違う。

「ハ、ハル!そろそろテント張り始めようか!」

 そんなハルの顔を見ていたくなくて慌てて声をあげれば、ハルは苦笑しながらもそうだねと明るく同意してくれた。



 二人一緒になって順番にテントを張っていこうかって案も出たんだけど、最終的には二人別々にテントを張る事に決まった。

「どのテントを担当するか、アキトが決めて?」

 ふふと楽し気に笑ったハルの優しさで、俺は組み立て方がばっちり分かる自分のテントに加えて、作りが単純そうなハルとブレイズのテントを担当する事になった。

 ファリーマさんのはともかく、ルセフさんのとウォルターさんのテントは俺のよりも明らかに部品が多かったんだ。一体どこがどうなるのか、見ててもいまいち分からなかったんだよね。説明書が欲しいと切実に思う作りだった。

「じゃあ、始めようか」
「うん」

 まずは自分のテントを組み立てて、次はハルのテントだ。組み立ててる所を見た事があるから、すこし悩みながらも無事に設営が終わった。

「アキト、手伝おうか?」

 そんな言葉に驚いて振り返れば、ハルの後ろには三つのテントが並んでいるのが見えた。うわーあのややこしそうなテントまでもう終わったのか。

「ううん、これは自分でやりたい」
「ん、分かった」

 ハルはそういうと思ってたと言いたげに、笑って俺の言葉を受け入れてくれた。



「よし、これで完成ー!」

 ブレイズのテントを完成させてそう声をあげれば、ずっと見守ってくれていたハルは優しい笑みを浮かべた。

「お疲れ様、アキト」
「ハルもお疲れ様」
「でもアキトもだいぶテントの設営にも慣れてきたね」
「そうかな?ハルと比べたらまだまだ時間かかるけど…」
「そこはほら、俺のテント張り経験値が高いから?」

 あありに真剣な顔でそう言い放ったハルに、俺は思わず噴き出してしまった。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。