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558.【ハル視点】もう一台の馬車の護衛
こいつらなら大丈夫だろうと思ってはいたが、アキトの幽霊が見えるという体質が無事に皆に受け入れられたのには正直に言うとホッとした。もし拒絶されていたら、アキトがどれだけ傷付くか想像もつかなかったからな。
まさかカーディさんが幽霊恐怖症だとは思わなかったが、俺とルセフの話を聞いて思う所があったのか少しだけ幽霊への恐怖心が減ったらしい。クリスからもう良いからと言いたくなるぐらいの感謝の言葉を延々聞かされたのにはまいったけどな。
ああ、それに俺が精霊だというとんでもない誤解も、無事に解けて良かったな。笑顔の無いブレイズに恐れられるのは、思った以上につらかった。純真な子犬や子ども相手に、はからずも意地悪をしてしまったような気分というか…。
ちらりと視線を向ければ、今はいつも通りの明るい笑みを浮かべているブレイズと、アキトが嬉しそうに笑い合っていた。
うん、やっぱり二人には笑顔が似合うな。
実りの多い休憩時間を終えた後は、またトライプールに向けての移動を再開した。
クリスの提案で少しずつ休憩を挟みながらの移動なんだが、ルセフ達のおかげで想定よりもかなり早く進んでいるらしい。やっぱり有能だな、こいつらは。
「それにしても…彼らは良いチームですね。人柄もですが腕前も」
四人だけの馬車の中で、クリスはしみじみとそう呟いた。
「ああ、アキトの友人だというひいき目抜きで見ても、本当に良いチームだと思うよ」
俺がすぐにそう答えれば、カーディさんも笑って付け加えた。
「役割分担がしっかりしてるから、安心して見てられるよな。それに仲が良いんだなーって分かる休憩時間のやりとりも楽しい」
「あー、うん、分かる。切り替えがすごいんだよね」
俺も頑張らないとなと呟くアキトに、俺達は三人揃って思わず微笑んでしまった。
「そういえば、クリス、今日の夜はどうするんだ?」
「うーん、どこかの村か街に立ち寄って泊まっても良いかなと思っていたんですが…この速度だと想定してた宿は通り過ぎそうですね」
嬉しそうな、でも少し困ったような表情で、クリスはそう答えた。確かにこの速度ならめぼしい街は通り過ぎてしまうだろうな。村ならいくつかあるが、事前の約束なしにこの人数で押しかけても宿が確保できるとは思えない。
「多分ルセフのチームは野営でも文句は言わないと思うぞ」
というかこれ、ルセフはおそらくそのつもりで進んでるだろうし――とはさすがに言わなかった。まあ、ただの憶測だしな。
「あ、俺もそう思います!」
アキトは笑顔で一緒に野営した時、楽しそうだったし慣れた様子でしたと元気に宣言した。ああ、俺の伴侶候補が可愛い。
「そうなんですか…じゃあ、聞いてみましょうか」
「ああ、そうだな」
クリスが御者席に繋がる小窓をコンコンとノックしてルセフに直接聞いてみた所、慣れない村や街で宿を確保するべく彷徨うより、むしろ野営の方が嬉しいという答えが返ってきた。うん、そうだろうな。
「では、そうしましょうか」
その一言で、アキトの顔がバァッと笑顔になった。ルセフ達のパーティーと一緒に野営ができるのが、本当に嬉しいみたいだ。可愛いなぁとしみじみ考えながら、俺は笑顔のアキトに笑いかけた。
俺とクリス、ルセフの三人で相談して決めた今夜の野営地の停留場には、先客の馬車が一台停まっていた。今まさに馬車の横にテントを張っているのは、おそらく護衛の冒険者達だろう。音でこちらに気づいて、しっかりと自分たちの馬車を守る位置に移動しているあたりなかなかの腕前と見た。
「俺はちょっと挨拶に行ってきますね」
ルセフは馬車を停車させるなり、そう言いおいてから御者台から飛び降りた。
「俺も行ってくる」
すぐに後を追えば、ルセフは来ると思っていたと言いたそうな笑顔で俺を振り返った。
「ハルは、どう思う?」
「うーん、気配からして怪しい感じはしないな」
明らかにこちらを警戒はしているが、護衛中の冒険者ならむしろしない方がおかしいからな。武器に手はかかっているが、視線には敵意や悪意は感じない。
「俺も同じ意見だよ…想像より強そうだな」
「ああ、それは俺も思った」
「挨拶はハルがするか?」
「いや、まかせるよ」
「了解」
小さな声で話しながら歩く俺達は、あえて武器には一切手を触れずに少しずつ近づいていった。
「よう、護衛中か?」
ルセフは軽い調子でそう尋ねた。一番体格の良い男がすくりと立ち上がると、ルセフに向かって答えた。
「ああ、そうだ。そっちもか?」
「おう、俺はルセフ。トライプール拠点の冒険者だ」
所属を明らかにしたルセフに、男はニヤリと笑って答える。
「俺はサテール。拠点は王都だ」
「王都からわざわざか、大変だな」
「まとまな依頼人だから、楽な仕事だぞ?」
「それは良かったな、こっちもまともな依頼人だったよ」
世間話をしながらお互いに腹を探り合っていた二人に、不意に声がかかった。
「おや、お客様ですかな?」
ニコニコと優しい笑みを浮かべた初老の男性に気づいて、ルセフは一気に態度を改めた。
「ああ、すみません。あちらの馬車の護衛なんですが、一晩近くで過ごすのでご挨拶をと思いまして…」
「それはそれは、ご丁寧に。私たちは王都で革製品を作ってるんです」
男性は唐突にそう切り出すと、近くに置いてあった革の鞄を指差した。
「ああいうのを家族総出で作る、いわば職人一家ですな」
俺達が危険が無いか探りに来たのを承知の上で、どんな仕事をしているかをすぐに明らかにしてくれた男性の反応にルセフはかなり驚いたようだ。うん、確かにこういう反応をしてくれる人はそう多くは無いよな。
それにしても良い鞄だ。これは後でクリスが挨拶に行きたいと言うかもな。予感に似たものを感じながら、俺はそっと口を開いた。
「こちらの護衛対象は、魔道具技師なんですよ。素晴らしい物を作ろうとする職人同士気が合うかもしれませんね」
「おや、魔道具技師さんですか」
「ええ。申し訳ないですが…許可を得ていないので、名前は言えませんが」
「いやいや、それは当然でしょう」
ご挨拶できると良いのですがと返してくれた男性は、もしクリスが会いに行ってもちゃんと対応してくれそうだな。
「ありがとうございます」
にっこりと笑顔を浮かべて礼を述べてから、俺は周りの冒険者に視線を走らせた。
「じゃあ、一晩だけよろしく頼むな」
丁寧な口調はあくまで依頼人にだけだ。冒険者には冒険者らしい会話ってものがあるからな。俺が粗野な口調に切り替えて声をかければ、ルセフと会話をしていたこっちのリーダーらしき男は楽しそうに笑って、よろしくなと答えてくれた。
よし、とりあえず問題は無さそうだな。
まさかカーディさんが幽霊恐怖症だとは思わなかったが、俺とルセフの話を聞いて思う所があったのか少しだけ幽霊への恐怖心が減ったらしい。クリスからもう良いからと言いたくなるぐらいの感謝の言葉を延々聞かされたのにはまいったけどな。
ああ、それに俺が精霊だというとんでもない誤解も、無事に解けて良かったな。笑顔の無いブレイズに恐れられるのは、思った以上につらかった。純真な子犬や子ども相手に、はからずも意地悪をしてしまったような気分というか…。
ちらりと視線を向ければ、今はいつも通りの明るい笑みを浮かべているブレイズと、アキトが嬉しそうに笑い合っていた。
うん、やっぱり二人には笑顔が似合うな。
実りの多い休憩時間を終えた後は、またトライプールに向けての移動を再開した。
クリスの提案で少しずつ休憩を挟みながらの移動なんだが、ルセフ達のおかげで想定よりもかなり早く進んでいるらしい。やっぱり有能だな、こいつらは。
「それにしても…彼らは良いチームですね。人柄もですが腕前も」
四人だけの馬車の中で、クリスはしみじみとそう呟いた。
「ああ、アキトの友人だというひいき目抜きで見ても、本当に良いチームだと思うよ」
俺がすぐにそう答えれば、カーディさんも笑って付け加えた。
「役割分担がしっかりしてるから、安心して見てられるよな。それに仲が良いんだなーって分かる休憩時間のやりとりも楽しい」
「あー、うん、分かる。切り替えがすごいんだよね」
俺も頑張らないとなと呟くアキトに、俺達は三人揃って思わず微笑んでしまった。
「そういえば、クリス、今日の夜はどうするんだ?」
「うーん、どこかの村か街に立ち寄って泊まっても良いかなと思っていたんですが…この速度だと想定してた宿は通り過ぎそうですね」
嬉しそうな、でも少し困ったような表情で、クリスはそう答えた。確かにこの速度ならめぼしい街は通り過ぎてしまうだろうな。村ならいくつかあるが、事前の約束なしにこの人数で押しかけても宿が確保できるとは思えない。
「多分ルセフのチームは野営でも文句は言わないと思うぞ」
というかこれ、ルセフはおそらくそのつもりで進んでるだろうし――とはさすがに言わなかった。まあ、ただの憶測だしな。
「あ、俺もそう思います!」
アキトは笑顔で一緒に野営した時、楽しそうだったし慣れた様子でしたと元気に宣言した。ああ、俺の伴侶候補が可愛い。
「そうなんですか…じゃあ、聞いてみましょうか」
「ああ、そうだな」
クリスが御者席に繋がる小窓をコンコンとノックしてルセフに直接聞いてみた所、慣れない村や街で宿を確保するべく彷徨うより、むしろ野営の方が嬉しいという答えが返ってきた。うん、そうだろうな。
「では、そうしましょうか」
その一言で、アキトの顔がバァッと笑顔になった。ルセフ達のパーティーと一緒に野営ができるのが、本当に嬉しいみたいだ。可愛いなぁとしみじみ考えながら、俺は笑顔のアキトに笑いかけた。
俺とクリス、ルセフの三人で相談して決めた今夜の野営地の停留場には、先客の馬車が一台停まっていた。今まさに馬車の横にテントを張っているのは、おそらく護衛の冒険者達だろう。音でこちらに気づいて、しっかりと自分たちの馬車を守る位置に移動しているあたりなかなかの腕前と見た。
「俺はちょっと挨拶に行ってきますね」
ルセフは馬車を停車させるなり、そう言いおいてから御者台から飛び降りた。
「俺も行ってくる」
すぐに後を追えば、ルセフは来ると思っていたと言いたそうな笑顔で俺を振り返った。
「ハルは、どう思う?」
「うーん、気配からして怪しい感じはしないな」
明らかにこちらを警戒はしているが、護衛中の冒険者ならむしろしない方がおかしいからな。武器に手はかかっているが、視線には敵意や悪意は感じない。
「俺も同じ意見だよ…想像より強そうだな」
「ああ、それは俺も思った」
「挨拶はハルがするか?」
「いや、まかせるよ」
「了解」
小さな声で話しながら歩く俺達は、あえて武器には一切手を触れずに少しずつ近づいていった。
「よう、護衛中か?」
ルセフは軽い調子でそう尋ねた。一番体格の良い男がすくりと立ち上がると、ルセフに向かって答えた。
「ああ、そうだ。そっちもか?」
「おう、俺はルセフ。トライプール拠点の冒険者だ」
所属を明らかにしたルセフに、男はニヤリと笑って答える。
「俺はサテール。拠点は王都だ」
「王都からわざわざか、大変だな」
「まとまな依頼人だから、楽な仕事だぞ?」
「それは良かったな、こっちもまともな依頼人だったよ」
世間話をしながらお互いに腹を探り合っていた二人に、不意に声がかかった。
「おや、お客様ですかな?」
ニコニコと優しい笑みを浮かべた初老の男性に気づいて、ルセフは一気に態度を改めた。
「ああ、すみません。あちらの馬車の護衛なんですが、一晩近くで過ごすのでご挨拶をと思いまして…」
「それはそれは、ご丁寧に。私たちは王都で革製品を作ってるんです」
男性は唐突にそう切り出すと、近くに置いてあった革の鞄を指差した。
「ああいうのを家族総出で作る、いわば職人一家ですな」
俺達が危険が無いか探りに来たのを承知の上で、どんな仕事をしているかをすぐに明らかにしてくれた男性の反応にルセフはかなり驚いたようだ。うん、確かにこういう反応をしてくれる人はそう多くは無いよな。
それにしても良い鞄だ。これは後でクリスが挨拶に行きたいと言うかもな。予感に似たものを感じながら、俺はそっと口を開いた。
「こちらの護衛対象は、魔道具技師なんですよ。素晴らしい物を作ろうとする職人同士気が合うかもしれませんね」
「おや、魔道具技師さんですか」
「ええ。申し訳ないですが…許可を得ていないので、名前は言えませんが」
「いやいや、それは当然でしょう」
ご挨拶できると良いのですがと返してくれた男性は、もしクリスが会いに行ってもちゃんと対応してくれそうだな。
「ありがとうございます」
にっこりと笑顔を浮かべて礼を述べてから、俺は周りの冒険者に視線を走らせた。
「じゃあ、一晩だけよろしく頼むな」
丁寧な口調はあくまで依頼人にだけだ。冒険者には冒険者らしい会話ってものがあるからな。俺が粗野な口調に切り替えて声をかければ、ルセフと会話をしていたこっちのリーダーらしき男は楽しそうに笑って、よろしくなと答えてくれた。
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