生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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561.【ハル視点】六つのテント

 小走りで後を追えばすぐに追いつく事はできたが、何故かアキトは無造作に積み上げられているテントをじっと見つめて戸惑っていた。ゆるりと不思議そうに首を傾げたアキトに、俺は後ろから声をかける。

「ん?アキト、どうかした?」
「ハル、この四つあるのってルセフさん達のパーティーの分のテントだよね?」

 ん?一体何が聞きたいんだろう。アキトの言いたい事は結構分かるようになったと思ってたんだが、俺もまだまだのようだ。

「うん、そうだろうね。先に俺達のテントも出しちゃおうか」
「あ、うん」

 考えを巡らせながらもとりあえず自分たちのテントを出そうと提案すれば、アキトは素直に自分の鞄に手を入れた。自分のテントを取り出したアキトは、困った顔のまま続けた。

「えっと、じゃあ、クリスさんとカーディのテントも、貰いに行かないとだね」

 ああーそういう事か。ここにあるのは四つだけだから、クリスとカーディさんの分が無いと心配しての質問だったのか。すぐに理解ができなかった事を密かに反省しながら、俺はアキトを安心させるべくにっこりと笑って答えた。

「ああなるほどそれを気にしてたのか。アキト、クリスとカーディさんは今日はテントはいらないと思うよ」

 俺の言葉を聞いたアキトはえっと驚いた表情に変わり、次いで不思議そうにまた首を傾げて、最後に眉間にしわを寄せて考えこんでしまった。

 悩ませるつもりは無かったんだけど分かり難かったかな。説明するべく俺が口を開こうとするより前に、アキト口を開いた。

「テントはいらないって……なんでいらないの?」
「一応後で二人に直接確認はするつもりだけど、今日は多分クリスもカーディさんも馬車で寝ると思うからね」

 今回のように馬車で移動をしている時は、基本的に依頼人や地位が高い人が馬車の中で眠るのが定番だと説明すれば、アキトは興味深そうに説明を聞いてくれた。

「昼間俺達が座ってたあの椅子が、外して組み立てると簡易のベッドに早変わりするんだ」
「え、そうなの?」

 どうやって組み立てるんだろうとワクワクした様子のアキトの反応が、たまらなく可愛い。組み立て式の馬車か…いつか購入しても良いかもしれないな。

「馬車の中ならベッドがあるってのも理由ではあるんだけど、もう一つ大きな理由があるんだ。アキトは分かるじゃば?」
「えー…大きな理由?えっと、虫が来ないとか?」
「ああ、虫が苦手な人なら、それも大きな理由になるかもしれないけど…それじゃ無いね」
「うーん…思いつかないや」
「正解は、もし何か不測の事態が起きた時――例えば魔物とか盗賊の襲来なんかがあった時に、守りやすくするためなんだ」
「あーなるほど」

 納得してくれたアキトに、俺は小声で付け加える。

「それに馬車の中にいてくれれば、最悪の事態になったら馬車ごと移動できるからね」

 あの二人ならそういう意味での問題は無いけど、護衛のいう事なんて聞かないような依頼人は、本当に予想外の動きをするから面倒なんだよ。そう呟いた俺に、アキトは慌てた様子で声をあげた。

「ハ、ハル!そろそろテント張り始めようか!」

 ああ、暗い顔をしてたから気を使わせちゃったかな。

「そうだね、始めようか」



 六つのテントを前にして、まずはどう組み立てるかを話し合った。全部のテントを二人がかりで設営していくのも良いかなと提案してみたが、アキトはそれだとハルにほとんでやってもらう事になりそうだからと難色を示した。

「それじゃあ三つずつ担当を決めて、それぞれが設営するってのはどうかな?」
「あ、うん。その方が俺は嬉しい!」

 アキトのためならいくらでも頑張れるから、たかが六つのテントぐらい甘えてくれても良いんだけどな。でも自分でやりたいと断言するのもアキトらしいとは思う。

「どのテントを担当するか、アキトが決めて?」

 これぐらいの配慮は良いだろうとテントの包みをほどいてからそう声をかければ、アキトは悩みながらも組み立てるテントを選んでくれた。

「じゃあこれとこれと…これにしても良い?」

 アキトのと俺の、それにブレイズのか。この中では比較的組み立てやすそうなのを、うまく選んでるな。

「ああ、もちろん」

 ファリーマのは簡易な作りにみせかけて最新型だから組み立ては複雑だし、ルセフとウォルターのは組み立てる部品が多い。その分圧縮できるから、冒険者には人気のものではあるんだがな。

「じゃあ、始めようか」
「うん」

 真剣な表情でテントに向き合うアキトを横目で見ながら、俺は自分の担当するテントを組み立てていく。騎士団で移動の時に使う巨大なテントと比べれば、さほど難しいものでもない。

「アキト、手伝おうか?」

 一応声はかけてみたけれど、アキトがじゃあお願いと言うとは思っていなかった。だってアキトだからな。自分で決めた事は、最後まできちんとやり通すだろう。

「ううん、これは自分でやりたい」
「ん、分かった」



「よし、これで完成ー!」

 ブレイズのテントを完成させてそう声をあげたアキトに、俺は笑って声をかける。

「お疲れ様、アキト」
「ハルもお疲れ様」
「でもアキトもだいぶテントの設営にも慣れてきたね」

 最初に黒鷹亭で練習した時はあんなにぎこちなかったのにとついつい思いだしてしまう。

「そうかな?ハルと比べたらまだまだ時間かかるけど…」
「そこはほら、俺のテント張り経験値が高いから?」

 アキトもこれからどんどん早くなるよと思いながらそう口にしたら、何故かアキトは思いっきり噴き出してしまった。そんなに面白い事を言っただろうか。
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