生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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578.【ハル視点】目が覚めて

 見張りの順番が決まってしまえば、そう長居はできない。

 任務中の睡眠時間の確保は翌日の護衛の質にも関わってくるからな。ちゃんとした冒険者ほど時間を無駄にはしないものだ。

 アキトにそう説明した時の、キラキラした目の破壊力はすごかった。あの尊敬に満ちた目で見つめられてしまったら、どう考えても長居できる筈が無い。

「それじゃあ先に見張りよろしくね」
「後は頼んだー」
「先に休ませてもらうよ、見張りよろしく」

 俺とルセフ、ウォルターはそれぞれ自分のテントへと足を向けた。

 ふと視線を感じてテントの入口で立ち止まって振り返れば、アキトはおやすみと口だけを動かしてから小さく手を振ってくれた。

 あーもう、可愛いなぁ。こういう時にもきちんと挨拶の言葉をくれるんだよな。俺はにっこりと笑い返してから、声に出さずにおやすみと口を動かした。

 アキトの友人達との時間が、楽しいものになると良い。そんな事を考えながら、俺はテントの中へと足を踏み入れた。



 ふいに目を覚ました俺は、寝る前に用意しておいた魔道具を手探りで手に取った。ぼんやりと光る魔導具を覗き込めば、もう起きる予定の時刻に近かった。

 ああ、もうこんな時間なのか。どうやらかなり深く眠れたみたいだな。軽く伸びをしてみたが、移動の疲れは全く残っていなかった。

 自分の体調を冷静に分析してから、ゆっくりと立ち上る。ささっと手早く畳んだ寝袋を魔導収納鞄にしまいこんでから、俺はテントの入口にある布をめくって外へと足を踏み出した。

「あれ、ハルさん?」
「あ、本当だ…ハル、寝れなかったの?それとも起こしちゃった…?」

 ブレイズの言葉で俺を振り返ったアキトは、心配そうに眉間にしわを寄せて尋ねてくる。ああ、アキトの見張りの時間は、時間を忘れるぐらいには楽しい時間だったみたいだ。

「いや、ぐっすり寝たよ?そろそろ時間だから起きただけだよ」
「「え…」」

 アキトとブレイズは大きく目を見開いたまま、ぴたりと動きを止めてしまった。その隣で、ファリーマはそっと取り出した自分の魔道具を確認している。

「うわ、本当に交代時間までもうちょっとだ…」
「え、もう終わり?」
「そんなに時間過ぎた感じしなかったけど…?」
「まあそうだな。でも、俺はかーなーりー満足したぞ。明日の実験も約束できたしな!」

 ああ、ファリーマは、アキトに何か魔法の実験をお願いしたみたいだな。アキトの魔力は感じなかったから、朝になったらと約束でもしたんだろう。

 ファリーマは確かに魔法馬鹿だとは思うが、さすがに危険な実験をアキトに依頼したりはしないだろう。そのぐらいにはファリーマの事も信頼している。それに危険な実験だとしたら、俺に内緒のままでアキトが引き受ける筈は無い。

 あーでも、一応後でどんな実験かは聞いておこうかな。

「あ…ハル!」
「ん?どうしたの?」
「おはよう!」

 うん、朝の挨拶って大切だよな。

 俺がゆっくり深く眠れたのは、もしかしたらアキトのおやすみの挨拶のおかげかもしれない。そんな事を心の中だけで考えながら、俺はふわりと笑顔を浮かべるとアキトに答えた。

「ああ、おはよう、アキト」
「―――ハルさんって、アキト相手だと笑顔が違うよね?」
「そうか?意識はしてないんだが…?」

 ブレイズの質問にはとぼけてそう返したけれど、まあ全然違うんだろうなと自分でも何となく想像はついている。なんといっても実の兄ですら驚いた、変わりっぷりらしいからな。

「あ、ここどうぞ」

 近づいてくる俺のためにと、ファリーマはささっと横にずれて場所を作ってくれた。さすがにアキトの隣に座りたいと主張するつもりは無かったんだが、わざわざ場所を開けてくれたなら話は変わってくるよな。

 お礼を言ってから腰を下ろせば、ブレイズはニコニコと笑って続けた。

「アキト以外への笑顔は、ちょっと作った感があるんだけど、アキト相手だと自然だし蕩けてるんだよ」
「そうか?」

 自分の笑顔を客観的に見た事は無いから、そこまではよく分からないんだが。

「作った感は俺には分からないけど…アキト相手だと全然違うよ」

 ファリーマまでそう言うなら、そうなんだろうな。それにしても作った感…か。ブレイズの観察眼ってなかなかすごいんじゃないか。
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