生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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594.【ハル視点】実験の続き

 照れくさそうにしていたアキトは、バッとファリーマに視線を向けると明るい声をあげた。

「ファリーマさん、この魔法すごいです!」
「ああ、ありがとう、アキト。でも、成功したのはアキトのおかげだからな?」

 理論上はともかく実行できなかったんだからなと、ファリーマは苦笑しながら続けた。

 むしろ実行できないのに理論だけで感覚派の魔法を組み立てられたのは、十分な偉業だと思うんだがな。自分が実行できなかった事が余程悔しかったんだろう。

 アキトはぶんぶんと首を振ってから口を開いた。

「でも、俺こんな風に組み合わせて魔法を作るって考えた事も無かったから…やっぱりファリーマさんの方がすごいと思います」
「いや、実行できなかったら意味は無いだろう?アキトの方がすごいよ」
「いいえ、ファリーマさんの方が…」

 そう言い合う二人は真剣な表情だが、だからこそ俺は笑ってしまいそうだった。

 アキトもファリーマも一歩も譲らないで言い合っているが、その中身はただお互いの方がすごいという主張だからな。なんとも平和な平行線の言い合いを微笑ましく聞いていると、不意にブレイズが口を開いた。

「どっちもすごいで良いんじゃない?」

 笑いながら口にしたブレイズが、ねえと俺に視線を向けてくる。そうだな。微笑ましい言い合いだが、そろそろ終わりにしても良いだろう。

「ああ、そうだな。ファリーマもアキトもどっちもすごいよ」

 諭すように優しく声をかければ、アキトとファリーマは顔を見合わせると二人揃って笑いだした。

「ああそうだな、せっかく実験が成功したんだからどっちもすごいで良いか」
「そうですね」

 照れくさそうな二人を微笑ましい気分で眺めていると、不意にファリーマが声をあげた。

「なあ、ところでさ、この魔法の使い心地はどうだった?」
「あ、すごく制御しやすかったですよ。魔力も思ったより減りません」
「そうなのか」
「そもそも俺、火魔法だとここまで制御できないんですよ」

 アキトの言葉に、ファリーマもブレイズもえっと大きく目を見開いた。

「そうなのか?焚火に火をつけるのは上手かったけど?」

 そういえばファリーマの前では焚火に火をつけていたな。確かにあんなに手早く火魔法を発動できるのに?と思うのも無理は無いだろう。

「えっと、火をつけるのはできるんですけど、的めがけて飛ばすのが無理なんです」

 本当かと言いたげにブレイズとファリーマの視線が俺に集まってくる。俺はこくりと頷きながら、火魔法の練習をしていたアキトの姿を思い浮かべた。

 あんなに繊細な魔力制御ができるのに、何故かアキトは火魔法は苦手なんだよな。

 火の弾を飛ばすのは火魔法の中でも基本の技なんだが、それが中々うまくいかない。ふわふわと浮き上がらせたりはできるのに、それで的を狙うとなるとふらふらと飛んでいって時間をかけてやっと命中させる事ができるぐらいだ。

「ファリーマさん、これからもこの魔法って使っても良いんですか?」
「ああ、それはもちろん。使ってくれた方が嬉しいよ」
「っ!ありがとうございます!」

 嬉しそうなアキトは、ぽつりと呟いた。

「慣れればもっと素早く発動できるかな。練習しないとな」

 相変わらずの努力家だなとアキトを見つめていると、ファリーマが口を開いた。

「ハル、もう一個だけ実験を追加しても良いかな?」
「ん?内容にもよるね。後アキトの気分次第?」

 ファリーマが、ここでアキトに害をなす実験なんて提案するわけがない。そういう意味では信頼できる相手だからな。

「内容は、今の実験をどこまで短縮して行えるかどうかっていう実験なんだけど…」

 すごく真剣な顔を作って、ファリーマは重々しくそう提案してきた。うん、要はアキトが言った、慣れればもっと素早く発動できるかなって疑問を解消する実験って事だな。

「ああ、そういう検証のための実験なら俺に文句は無いよ」

 わざとらしく真剣な顔を作って答えた俺は、そこでちらりとアキトに視線を向けた。不思議そうなアキトに、悪戯っぽい笑みで笑いかける。

「ちなみに、アキトは?」

 絶対にやりたいって言うだろうけどな。予想通り、アキトはハイッと元気に挙手をしてから答えた。

「やりたいです!」
「よっし、じゃあ次は全部を連続して行ってみようか」
「連続して?」
「そう。最終的には一瞬で発動できるようにならないかな?」

 理論的には無理じゃないと思うんだけどと言うファリーマに、アキトは笑顔でやってみましょうと答えている。楽しそうで何よりだ。



 アキトは、何度も何度も魔法の発動を繰り返した。連続して発動するのにはあっさりと成功したのに、どうやら一瞬で発動するのはかなり難しいらしい。

 それでもアキトは諦める様子もなく、ファリーマとあれこれと相談しながら実験に取り組んでいる。

 もちろん魔力切れになる前には止めに入るつもりで見学していたんだが、そもそもアキトの魔力量が出会った頃と比べるとかなり増えているから止める必要は無さそうだ。

 魔力量は命の危険にさらされると増えると言われているから、おそらくあの時の大怪我のせいで――なんだろうな。そう思うと複雑な気持ちになる。たとえ魔力量が増えるとしても、もうあんな大怪我は絶対にさせないぞ。

 俺はそんな事を考えながら、二人の実験を見つめていた。



 さすがアキトと言うべきか、アキトは最終的には一瞬で火がついたつぶてを出せるようになったし、何個かまとめて発動する事までできるようになってしまった。ファリーマも感心する素晴らしい結果だった。

 ただ、これだけ熱心に練習をしていた理由が、まさかのファーレスウルフだとは思わなかったな。ブレイズとファリーマは、無言のまま困ったような視線をアキトに向けている。あれだけ頑張ったアキトに、言って良いのかと悩んでるんだろうな。

 別にアキトはこんな事で傷付かないぞ。俺は笑って声をかけた。

「アキト、ファーレスウルフはそうそう遭遇しない魔物だからね」
「あ、そうなんだ」

 少し残念そうなアキトに、俺は笑って答える。

「まあ、もう二度と会えないほど珍しい魔物でも無いよ」
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