604 / 1,561
603.お土産と誘い
「アキト、受け取ってくれるみたいだよ?」
にっこりと笑って促してくるハルに笑顔でお礼を言ってから、俺は急いで魔導収納鞄に手を入れた。気が変わる前に受け取ってもらおうと思って。
「あの、これなんですけど」
そう言いながら俺が鞄から取り出したのは、ずんぐりとした不思議な形の瓶に入った北国のお酒と、布で出来た袋に入ったおつまみだ。
袋の中身は、数種類のチーズとナッツの詰め合わせだ。お酒にチーズとナッツって、もはや定番って感じのおつまみセットだと思うよね。
でもこの辺りではあまり馴染みのない、結構珍しいおつまみにあたるらしい。料理に使わずにそのままチーズやナッツを食べる事が、そもそも滅多に無いんだって。
北国では当たり前の組み合わせなんだがってお店の人の説明に、ハルもびっくりしてたみたい。ちなみにちょっと味見させてもらったチーズやナッツは、変なクセも無く濃厚な旨味があって美味しかった。
「へぇ、すごいな、これは北ノールの酒じゃねぇか」
確かに特徴的な瓶ではあるけど、ぱっと見ただけでどこのお酒かまで分かっちゃうのか。さすがレーブンさん、料理関係の知識も多いんだな。
「はい、北ノールのお酒です。美味しいけどけっこうきついって聞いたのでちょっと悩んだんですけど…レーブンさんはお酒に強いってハルに教えてもらったので」
「ああ、確かにこれはきつい酒だから贈る相手は選ぶよな」
そう言いながら瓶を受け取ってくれたレーブンさんは、まじまじと手の中の瓶を見つめている。口の端が少しだけ上がってるから、かなり喜んでもらえてるみたいだ。
「こっちはおつまみです」
「北国ではチーズやナッツを料理に使わずに、つまみにするらしいよ?レーブン、知ってた?」
ハルがそう尋ねれば、知識として知ってはいるが食べた事は無いと答えが返ってきた。
「アキト、ありがとうな」
「いえ、ゆっくり楽しんでください」
「いや…しかし、この酒は俺が一人で飲むのはもったいないな…アキトは酒は強かったよな?」
前に飲んで帰ってきてたもんなと続けたレーブンさんの視線は、俺では無くまっすぐハルに向いていた。ハルは、うん、アキトはかなり強い方だよと笑って答えている。
「え?えっと…それはお土産なので…レーブンさんが飲んでください」
「まあそう言うなって、あのなアキト、俺の弟の事は知ってるよな?」
「弟って言うと、白狼亭のローガンさんですよね?」
ハルの一番お気に入りの、ステーキを出しているお店。その白狼亭の店主が、レーブンさんの双子の弟さんだ。
レーブンさんと顔立ちはあまり似てなかったけど、筋肉質で強面で、でも笑うと柔らかい雰囲気になる所がよく似ていたのが印象に残っている。しかも俺の事を、レーブンの息子なら俺の甥っ子みたいなものだと笑ってくれた優しい人だ。
「ああ、そうだ」
ローガンさんとレーブンさんは、二人とも人気の宿とお店をやってるせいで、同じ街に住んでいるのになかなかゆっくりと会う機会は無いらしい。
「まあたまに街中ですれ違っても、元気か?程度しか話さないんだがな」
そう言ってほのかに笑ったレーブンさんに、ハルはその様子は想像できるよと面白そうに答えている。うん、確かに俺にも想像できたよ。元気か?元気だ。そっちは?元気だ。そうかじゃあまたな。ああ。ってあっさり別れてしまう気がする。
「だからたまには予定を合わせて休みを作って、二人で持ち寄った料理を食べる事にしてるんだ。そうでもしないとろくに会話もしないからなぁ…唯一の家族なのに」
その食事会でのレーブンさんとローガンさんの話題は、基本的には料理の事なんだそうだ。
あそこの肉屋の肉は質が良くなったとか、最近冒険者に人気の香草の美味しい使い方とか、持ち寄った料理の改良点についてとかを話すんだって。二人ともあんなに美味しい料理が作れるのに、まだ改良しようとしてるんだと感心してしまった。
「料理の事でも、喋らないよりは良いだろうって事でな」
少し考えてから、ハルはもしかしてと口を開いた。
「ローガンがアキトの事を聞いた事があるって言ってたのは、その食事会での話なのか」
「ああ、そんな事もあったな」
さらりと流したレーブンさんは、嬉しそうに俺に向かって口を開いた。
「それが、次はちょうど明日の夜なんだ」
「え、明日ですか?」
「そう、明日だ。今回はここの食堂で、二人で飯を食う予定だったんだが…一緒にどうだ、ハル、アキト」
「え…でも、家族で食事をするための時間なんですよね?」
楽しそうだとは思うけれど、誘われてわーいって参加できる集まりじゃないと思う。
「そうだな」
滅多に会えない二人の、邪魔になるのは嫌だ。
「それなのに、俺達がいても良いんですか?」
「アキトも家族みたいなもんだし、ハルもアキトの伴侶候補なら身内みたいなもんだ」
そうだろうと笑うレーブンさんの笑顔を見て、思わず言葉に詰まってしまった。ハルは俺の背中をぽんっと軽くたたいてから、優しく見つめてくる。
「アキト、ここまで言ってくれてるなら、参加させてもらっても良いんじゃない?」
「アキト、来てくれるか?」
「っ!はいっ!…楽しみにしてますっ!」
にっこりと笑って促してくるハルに笑顔でお礼を言ってから、俺は急いで魔導収納鞄に手を入れた。気が変わる前に受け取ってもらおうと思って。
「あの、これなんですけど」
そう言いながら俺が鞄から取り出したのは、ずんぐりとした不思議な形の瓶に入った北国のお酒と、布で出来た袋に入ったおつまみだ。
袋の中身は、数種類のチーズとナッツの詰め合わせだ。お酒にチーズとナッツって、もはや定番って感じのおつまみセットだと思うよね。
でもこの辺りではあまり馴染みのない、結構珍しいおつまみにあたるらしい。料理に使わずにそのままチーズやナッツを食べる事が、そもそも滅多に無いんだって。
北国では当たり前の組み合わせなんだがってお店の人の説明に、ハルもびっくりしてたみたい。ちなみにちょっと味見させてもらったチーズやナッツは、変なクセも無く濃厚な旨味があって美味しかった。
「へぇ、すごいな、これは北ノールの酒じゃねぇか」
確かに特徴的な瓶ではあるけど、ぱっと見ただけでどこのお酒かまで分かっちゃうのか。さすがレーブンさん、料理関係の知識も多いんだな。
「はい、北ノールのお酒です。美味しいけどけっこうきついって聞いたのでちょっと悩んだんですけど…レーブンさんはお酒に強いってハルに教えてもらったので」
「ああ、確かにこれはきつい酒だから贈る相手は選ぶよな」
そう言いながら瓶を受け取ってくれたレーブンさんは、まじまじと手の中の瓶を見つめている。口の端が少しだけ上がってるから、かなり喜んでもらえてるみたいだ。
「こっちはおつまみです」
「北国ではチーズやナッツを料理に使わずに、つまみにするらしいよ?レーブン、知ってた?」
ハルがそう尋ねれば、知識として知ってはいるが食べた事は無いと答えが返ってきた。
「アキト、ありがとうな」
「いえ、ゆっくり楽しんでください」
「いや…しかし、この酒は俺が一人で飲むのはもったいないな…アキトは酒は強かったよな?」
前に飲んで帰ってきてたもんなと続けたレーブンさんの視線は、俺では無くまっすぐハルに向いていた。ハルは、うん、アキトはかなり強い方だよと笑って答えている。
「え?えっと…それはお土産なので…レーブンさんが飲んでください」
「まあそう言うなって、あのなアキト、俺の弟の事は知ってるよな?」
「弟って言うと、白狼亭のローガンさんですよね?」
ハルの一番お気に入りの、ステーキを出しているお店。その白狼亭の店主が、レーブンさんの双子の弟さんだ。
レーブンさんと顔立ちはあまり似てなかったけど、筋肉質で強面で、でも笑うと柔らかい雰囲気になる所がよく似ていたのが印象に残っている。しかも俺の事を、レーブンの息子なら俺の甥っ子みたいなものだと笑ってくれた優しい人だ。
「ああ、そうだ」
ローガンさんとレーブンさんは、二人とも人気の宿とお店をやってるせいで、同じ街に住んでいるのになかなかゆっくりと会う機会は無いらしい。
「まあたまに街中ですれ違っても、元気か?程度しか話さないんだがな」
そう言ってほのかに笑ったレーブンさんに、ハルはその様子は想像できるよと面白そうに答えている。うん、確かに俺にも想像できたよ。元気か?元気だ。そっちは?元気だ。そうかじゃあまたな。ああ。ってあっさり別れてしまう気がする。
「だからたまには予定を合わせて休みを作って、二人で持ち寄った料理を食べる事にしてるんだ。そうでもしないとろくに会話もしないからなぁ…唯一の家族なのに」
その食事会でのレーブンさんとローガンさんの話題は、基本的には料理の事なんだそうだ。
あそこの肉屋の肉は質が良くなったとか、最近冒険者に人気の香草の美味しい使い方とか、持ち寄った料理の改良点についてとかを話すんだって。二人ともあんなに美味しい料理が作れるのに、まだ改良しようとしてるんだと感心してしまった。
「料理の事でも、喋らないよりは良いだろうって事でな」
少し考えてから、ハルはもしかしてと口を開いた。
「ローガンがアキトの事を聞いた事があるって言ってたのは、その食事会での話なのか」
「ああ、そんな事もあったな」
さらりと流したレーブンさんは、嬉しそうに俺に向かって口を開いた。
「それが、次はちょうど明日の夜なんだ」
「え、明日ですか?」
「そう、明日だ。今回はここの食堂で、二人で飯を食う予定だったんだが…一緒にどうだ、ハル、アキト」
「え…でも、家族で食事をするための時間なんですよね?」
楽しそうだとは思うけれど、誘われてわーいって参加できる集まりじゃないと思う。
「そうだな」
滅多に会えない二人の、邪魔になるのは嫌だ。
「それなのに、俺達がいても良いんですか?」
「アキトも家族みたいなもんだし、ハルもアキトの伴侶候補なら身内みたいなもんだ」
そうだろうと笑うレーブンさんの笑顔を見て、思わず言葉に詰まってしまった。ハルは俺の背中をぽんっと軽くたたいてから、優しく見つめてくる。
「アキト、ここまで言ってくれてるなら、参加させてもらっても良いんじゃない?」
「アキト、来てくれるか?」
「っ!はいっ!…楽しみにしてますっ!」
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。