生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
605 / 1,447

604.得意魔法は

しおりを挟む
 ただお土産を渡したかっただけの筈が、明日の食事会の予定まで決まってしまった。いや相手が相手だしすっごく楽しみではあるんだけどね。なんだか海老で鯛を釣った気分だ。本当に良いのかな?

「アキト、行こう?」

 控え目な呼びかけにハッと我に返ると、すでに鍵を手に受け取っていたハルが俺を振り返っていた。食事会について色々考えてたせいで、ハルの動きに全く気づいてなかったみたいだ。いくら街中といってもちょっと警戒心が無さすぎかもしれない。

「うん」
「アキト、ハル、おやすみ」
「おやすみなさい、レーブンさん」
「ああ、おやすみ」
「ゆっくり休んでくれ」

 カウンターから見送ってくれているレーブンさんに、俺は小さく手を振った。苦笑しつつも手を振り返してくれるレーブンさんに嬉しくなりながら、俺達は階段を上って部屋へと向かった。



 客室に入って鍵を閉めると、俺達はまず初めに揃って荷物を下ろした。魔導収納鞄はそんなに重くは無い。中に入っている物の重量は感じないからね。でも荷物を下ろすだけでふうと自然に息が漏れる。

 やっと鞄を下ろせる場所に帰ってきたって感じるからなのかな。

「おかえり、アキト」

 にっこりと笑ってそう声をかけてくれるハルに、俺も笑顔で答える。

「ただいまハル。ハルもおかえり」
「ああ、ただいま」

 すっかり定番になった挨拶を交わしてから、俺もハルも手早く装備を解除していく。マントを脱いで防具を外し、武器も置いてしまえば一気に身軽になる。

 よし、次は浄化魔法だな。俺はすぐに魔力を練り上げると、自分とハルに向けて浄化魔法を放った。ハルが待ってと声をあげた時には、もう浄化魔法を発動した後だった。

「ハル、どうかした?」
「あー、いや…まずはありがとう。止めようとしたのはね、アキトの魔力量はまだ大丈夫なのかなって心配になったからだよ」

 ハルは心配そうに俺の様子を観察しながらそう尋ねてきた。今朝のあの実験で、張り切って魔力を使いすぎたからよね。

「どう?大丈夫そうかな?」
「うん、大丈夫だよ。特に浄化魔法は魔力消費が少ないし」

 得意魔法は?って聞かれたら一応土魔法って答えてるけど、もしかしたら俺の一番得意な魔法は浄化魔法かもしれないって最近思う。

 少なくとも一番よく使ってる魔法は、間違いなく浄化魔法だからね。洗顔、歯磨き、お風呂に洗濯、掃除にまでかなり便利に使ってるからなぁ。

 最初はさすがに別々にしてたのに、気づいたら全部まとめてできるようになってたし。お風呂と歯磨きと洗顔が、一瞬で同時に済むんだからすごい事だよね。いつでもすぐに寝れてしまう特技だ。誰にも自慢できないんだけど。

「それなら良かった」
「ねぇ、ハル?」
「んー?」
「…明日の食事会って、本当に俺達も行って良いのかな?」
「さっき行くって言ったのに、行かない方が怒られると思うよ」
「そう…かな?」

 ハルはにっこりと笑って、そうだよと断言してくれた。

「明日は食事会に差し入れする物でも、買いに行こうか?」
「そうだね!」

 手ぶらって訳にもいかないし、じゃあ何にしようかなと考えた俺はピタリと動きを止めた。だってさ、レーブンさんは色々な食材を上手に使いこなす立派な料理人だ。一方でローガンさんは特に肉料理が得意なこれまた立派な料理人。

「レーブンさんとローガンさんに差し入れできるものって…何…?」

 もし料理関係の何かを差し入れるなら、二人のお眼鏡に敵うようなよっぽど美味しいものを選ばないと駄目だろう。

「あー…うん、アキトになら良いか」
「ん?」
「二人の秘密を教えてあげようか?」
「え…秘密?」
「二人とも見た目にそぐわないって、あまり知られないようにしてるんだけど…」

 え、何の話?二人の秘密って、レーブンさんとローガンさんの話?

 俺が慌てている間に、ハルは止める間もなく口を開いた。

「甘いお菓子が大好きなんだよ」
「甘いお菓子」
「そう、しっかり甘いお菓子だよ」
「しっかり甘いお菓子」

 予想外の言葉すぎて、思わずリピートしてしまった。別に見た目に関係なく、好きな物を食べたら良いと思うんだけどな。

 とりあえず、明日の差し入れは甘いお菓子にする事が決定しました。
しおりを挟む
感想 375

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...