生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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604.得意魔法は

 ただお土産を渡したかっただけの筈が、明日の食事会の予定まで決まってしまった。いや相手が相手だしすっごく楽しみではあるんだけどね。なんだか海老で鯛を釣った気分だ。本当に良いのかな?

「アキト、行こう?」

 控え目な呼びかけにハッと我に返ると、すでに鍵を手に受け取っていたハルが俺を振り返っていた。食事会について色々考えてたせいで、ハルの動きに全く気づいてなかったみたいだ。いくら街中といってもちょっと警戒心が無さすぎかもしれない。

「うん」
「アキト、ハル、おやすみ」
「おやすみなさい、レーブンさん」
「ああ、おやすみ」
「ゆっくり休んでくれ」

 カウンターから見送ってくれているレーブンさんに、俺は小さく手を振った。苦笑しつつも手を振り返してくれるレーブンさんに嬉しくなりながら、俺達は階段を上って部屋へと向かった。



 客室に入って鍵を閉めると、俺達はまず初めに揃って荷物を下ろした。魔導収納鞄はそんなに重くは無い。中に入っている物の重量は感じないからね。でも荷物を下ろすだけでふうと自然に息が漏れる。

 やっと鞄を下ろせる場所に帰ってきたって感じるからなのかな。

「おかえり、アキト」

 にっこりと笑ってそう声をかけてくれるハルに、俺も笑顔で答える。

「ただいまハル。ハルもおかえり」
「ああ、ただいま」

 すっかり定番になった挨拶を交わしてから、俺もハルも手早く装備を解除していく。マントを脱いで防具を外し、武器も置いてしまえば一気に身軽になる。

 よし、次は浄化魔法だな。俺はすぐに魔力を練り上げると、自分とハルに向けて浄化魔法を放った。ハルが待ってと声をあげた時には、もう浄化魔法を発動した後だった。

「ハル、どうかした?」
「あー、いや…まずはありがとう。止めようとしたのはね、アキトの魔力量はまだ大丈夫なのかなって心配になったからだよ」

 ハルは心配そうに俺の様子を観察しながらそう尋ねてきた。今朝のあの実験で、張り切って魔力を使いすぎたからよね。

「どう?大丈夫そうかな?」
「うん、大丈夫だよ。特に浄化魔法は魔力消費が少ないし」

 得意魔法は?って聞かれたら一応土魔法って答えてるけど、もしかしたら俺の一番得意な魔法は浄化魔法かもしれないって最近思う。

 少なくとも一番よく使ってる魔法は、間違いなく浄化魔法だからね。洗顔、歯磨き、お風呂に洗濯、掃除にまでかなり便利に使ってるからなぁ。

 最初はさすがに別々にしてたのに、気づいたら全部まとめてできるようになってたし。お風呂と歯磨きと洗顔が、一瞬で同時に済むんだからすごい事だよね。いつでもすぐに寝れてしまう特技だ。誰にも自慢できないんだけど。

「それなら良かった」
「ねぇ、ハル?」
「んー?」
「…明日の食事会って、本当に俺達も行って良いのかな?」
「さっき行くって言ったのに、行かない方が怒られると思うよ」
「そう…かな?」

 ハルはにっこりと笑って、そうだよと断言してくれた。

「明日は食事会に差し入れする物でも、買いに行こうか?」
「そうだね!」

 手ぶらって訳にもいかないし、じゃあ何にしようかなと考えた俺はピタリと動きを止めた。だってさ、レーブンさんは色々な食材を上手に使いこなす立派な料理人だ。一方でローガンさんは特に肉料理が得意なこれまた立派な料理人。

「レーブンさんとローガンさんに差し入れできるものって…何…?」

 もし料理関係の何かを差し入れるなら、二人のお眼鏡に敵うようなよっぽど美味しいものを選ばないと駄目だろう。

「あー…うん、アキトになら良いか」
「ん?」
「二人の秘密を教えてあげようか?」
「え…秘密?」
「二人とも見た目にそぐわないって、あまり知られないようにしてるんだけど…」

 え、何の話?二人の秘密って、レーブンさんとローガンさんの話?

 俺が慌てている間に、ハルは止める間もなく口を開いた。

「甘いお菓子が大好きなんだよ」
「甘いお菓子」
「そう、しっかり甘いお菓子だよ」
「しっかり甘いお菓子」

 予想外の言葉すぎて、思わずリピートしてしまった。別に見た目に関係なく、好きな物を食べたら良いと思うんだけどな。

 とりあえず、明日の差し入れは甘いお菓子にする事が決定しました。
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