生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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605.【ハル視点】ウマの返却

 ぐんぐんと近づいてきたトライプールの城壁を窓越しに眺めながら、俺達はぐるりと街道を迂回する形で北門へと向かう。目指すは北門にあるあの馬車乗り場だ。

 イーシャルで借りてきたウマもあそこに返却すれば良いんだと説明すれば、アキトは興味深そうに感心していた。どうしても行きたくない目的地だったり気に入らない相手なら、ウマに貸出を断られると説明すれば、面白いねと明るく笑っている。

 実際には笑っていられないぐらいに威圧されて、威嚇されて、それでも引かなければ攻撃されるんだけどな。これはウマが好きなアキトには伝えなくて良いだろう。今まで出会ったウマに反応からして、アキトがそうされる心配は無さそうだしな。逆に気に入られ過ぎる心配ならあるが。

 馬車は緩やかに速度を落とすと、振動も無くふわりと停車した。

「こういう停車時に腕が出るんだよな」
「へーそうなんだ?」
「ああ、御者によって全然違うからな」

 そんな事を話し合っていると、もう出てきて良いぞとルセフが外から小窓を叩いた。事前に決めていた停車の合図だな。まだ下りたくないとは、さすがに言えないだろう。

「よし、無事に着いたみたいだな」
「はーやっとここまで帰ってきたなー」
「ええ、トライプールまでもう少し頑張りましょう」

 クリスの言葉を受けて、アキトは真剣な表情で立ち上がった。

「俺、先に降りますね」
「ああ、頼んだよ、アキト」

 いつまでも馬車の中にいるわけにもいかないしなと、俺はぎこちない笑顔で答えた。カーディさんとクリスに次いで馬車から下りれば、目に飛び込んできたのは予想通りたくさんの人達に詰め寄られているルセフ達の姿だった。

 やっぱり、そうなるよな。

「だから、詳しい話を聞かせて欲しいだけなんだって言ってるだろう!」
「そうだそうだ!」
「別室で茶も菓子も出すからぜひって言ってるんだ!」
「何なら詳しい話を聞かせて欲しいって依頼を出すから、名前を教えてくれ、兄ちゃん」

 ぐいぐいと目の色を変えて迫ってくる職員たちに囲まれてしまっては、さすがのルセフも困り顔だ。

「ですから、詳しい話と言われても困るんです。今は依頼中なので…」
「そうそう。というか集まって来すぎだろ、あんたら。普段はウマ以外にはろくに興味ない感じなのにさ…」

 ウォルターはそう言いながらも、慌てるでもなく普通に苦笑している。危害を加えようって気持ちが無いのが分かってるんだろうな。

「ね、トライプールに帰ったら何食べたい?」
「ん?そうだなー俺はやっぱり酒を飲みながらマルックスのステーキかなー」
「あ、それも良いねー俺は何か果物が食べたいなー」
「あの新しくできてた店はどうだ?一番街のさ」
「あー良いねー」

 ブレイズとファリーマは、どうやら遠い目をして現実逃避中のようだ。気持ちは分かる。

「あのーどうかしました?」
「あーそれがな…ウマを見るなりこの人達が集まってきちゃって…」
「ああ、待ってくれ、俺から説明するよ」
「ハル?」
「皆、良いか?」

 俺が視線を向ければ、ルセフ達はむしろ助かるよと即答した。この反応の理由が分からなかったんだろうな。クリスとカーディさんも問題ないとすぐに笑って頷いてくれたし、何なら職員達もやっと説明してくれる奴が来たかと期待の眼差しで俺を見つめてくる。

「魔力を吸収してるのは事実だが、これは故意に渡したってわけじゃないんだ。俺達は途中の停留場で魔法の実験をしたんだが、気づいたらウマが吸収してたみたいでな…俺達も驚いたよ」
「実験っていうのは?」
「ちょっと複雑な構造の…新しい魔法をな。もちろんウマに危険な実験ではないよ」
「それは分かるさ、もしそうなら、あんたらが無傷でここにいるわけがない」

 まあそうだよな。もし危険と判断されれば、ウマ達が大人しく俺達を連れてくるわけがない。よほどの事がなければ命までは取らないだろうが、無傷でここまで運んでもらえている時点でウマの許しは得ているって事になる。

「しかし一頭ならともかく四頭とはなぁ…」
「めったに無い事だ」
「ああ…」

 こそこそと話し合う職員達を綺麗に無視して、俺はこの馬車乗り場の代表である男に尋ねた。

「他に聞きたい事がなければ、そろそろ行って良いかな?彼も言ってただろうけど、依頼中だからね」
「ああ、引き留めてすまんな…もう一つだけ良いか?その実験は何人でやったんだ?」
「四人だな」

 俺はそう言うなり、さりげなく全員に視線を巡らせた。視線だけで黙っていてくれと伝えれば、全員が視線だけで頷いてくれた。察しがよくて助かる。

「ああ、なるほど、それでか…」
「自然と漏れた魔力を吸収したなら、捧げられた魔力とは条件が違うのかもな」
「それにしてもすごいな」
「魔力に満ちていると更に美しい…」

 良かった。この流れなら、後はウマに見惚れている間に終わりそうだ。俺はうっとりしている職員達にそっと尋ねる。

「一応確認しておきたいんだが、ウマに無理やり魔力を与える事はできないんだから、問題は無いんだよな?」
「ああ、差し出しても拒否されるのがオチだからな、やるだけなら誰も咎めねぇよ」
「それは良かった」

 一応の確認ではあったが、代表がそう断言したなら問題は何も無い。

「こいつらはしばらく絶好調だろうから、こちらから謝礼を出したいぐらいなんだが」
「そう言ってるが、どうする?クリス?」

 依頼人が交渉してくれと視線を向ければ、クリスはにっこりと笑って答えた。

「いえいえ、私たちも彼らのおかげで助かりましたから、お気持ちだけで結構ですよ」
「そうかい?」
「ええ、またひいきにさせてもらいますね」

 にっこりと笑ったクリスに丁寧に礼を述べてから、職員達はすぐにウマを眺める仕事へと戻っていった。本当にウマが好きだな、こいつらは。
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