生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
608 / 1,447

607.【ハル視点】別れの挨拶

しおりを挟む
 ウマにまで嫉妬すると告白したのに、アキトは俺の嫉妬深さに嫌悪感を表したりはしなかった。むしろその気持ちは分かるとあっさりと返してくれた。

 その予想外の反応が嬉しくて、気づけば両手をしっかりと繋いでしまっていた。もし邪魔が入らなければ、抱きしめて口付けてしまっていたかもしれない。そのぐらい嬉しかったからな。

 もし人前でそんな事をしたらアキトが恥ずかしがるのは間違いないから、邪魔は入って良かったんだが――。いま、俺達は何故かニヤニヤと笑う周りに冷やかされながら、トライプールまでの道を歩いている。

 まあ冷やかすと言っても、これはアキトのためにも止めに入らないと駄目だと思わない程度の言葉なんだけどな。二人は仲良しだなとか、伴侶候補というよりももう伴侶に見えるとか、そういう事を言ってくるだけだ。

 アキトは照れくさそうに頬を赤く染めているが、嫌そうじゃないから良しとしよう。俺は無言のまま、トライプールの大門を目指してひたすらに歩き続けた。



 トライプールの大門を問題無く通過して、屋台の並ぶ見慣れた広場に入っていく。見慣れない屋台がいくつか増えているなと視線を巡らせながら、俺は広場の隅の方へと移動した。

 この辺りには椅子すらないが、その分いつでも空いている。いまは八人もいるからな。集まって立ち止まっても邪魔にならない場所を選んだ。

 クリスは全員の顔を見回してからおもむろに口を開いた。

「皆さん、お疲れ様でした。何事もなく無事にトライプールまで帰りつけたのは皆さんのおかげです。ありがとうございました」
「そうだな。みんな頼もしかったし、それに楽しかったよ。ありがとな」

 カーディさんもニッと笑ってそう続けた。

「皆で打ち上げもしたかったんですが…さすがに皆さん疲れてると思いますから、またの機会にしましょうか」

 ルセフはクリスの言葉に笑みを返した。

「気づかいありがとうございます」
「まあ、さすがに疲れたよな。初めての速度だったし」
「え、そう?俺はまだまだあのウマに乗って走りたかったぐらいだけどなぁ」
「うわーこれが若さか…」
「えーそんなに言うほど年齢違わなくない?」
「いや、結構違うだろ?」

 わいわいといつもの調子で賑やかに言い合うルセフ達の反応を眺めていると、不意にクリスの視線が不意にこちらを向いた。それで良いか?と聞きたいんだろうな。

「俺達は帰りは馬車の中で楽をさせてもらったからな、ルセフ達の良いようにしてやってくれ」

 それで良いかなとアキトに視線を向ければ、すぐにこくこくと頷きが返ってきた。

「それではそういう事で。あ、冒険者ギルドへの報告はこちらでしておきますので、明日以降には報酬が受け取れると思います」

 ルセフ達はウマでの移動で疲れてるだろうから妥当な所だな。俺達もついて行くかどうかは後で確認すれば良いか。そんな事を考えていると、不意にルセフがぽつりと呟いた。

「…え、そんな事までさせちゃっていいのか?」

 クリスとカーディさんは顔を見合わせてから答える。

「護衛で疲れてるんだから、俺達が報告するのは当然じゃないか?」
「ええ、さすがに疲れ果ててる時なら明日に回させて欲しいとお願いする事もありますが、今日はまだ元気ですからね」
「そうだよな」

 二人は何でそんな事を言われたのかが分からないと言いたげだ。

「あ!もちろんきちんと報告をするかが心配なら、私とカーディの報告に立ち会ってもらっても良いんですが…!」
「ああ、いや、すまない。クリスさんとカーディさんの人柄はもう知ってるし、信用できるからそこは全然問題無いんだが…」
「分かる、その気持ち俺は分かるよ!ルセフ!」

 言い難そうに口ごもったルセフに、ファリーマはいきなり駆け寄ってそう叫んだ。ああ、何かあったんだなと察した俺は何も言わなかったが、アキトは不思議そうに首を傾げた。

「すまんな。最近は駄目な護衛依頼が続いたからさ、毎回俺達が報告も押し付けられてたんだよ」

 ウォルターは苦笑しながら、クリスとカーディさんに向かって声をかけた。

「ああ、そうなんですか…それは、大変でしたね…」

 クリスがルセフの苦労を労っている隣で、カーディさんは心底嫌そうに顔を歪めた。

「いるよなーそういう大事な事をあっさり誰かに押し付けるやつ。しかもそういう奴に限って、別に何か重大な理由があってーとかじゃないんだろ?」

 想像できると続けたカーディさんに、ウォルターは同じくらい嫌そうな顔で答えた。

「ああ、それならさすがに俺達も文句は無いんだがな。この間の奴は酒が飲みたいからって言い放ったぞ…?」
「うわぁ…」

 よほど衝撃的だったのか、アキトも思わずといった様子で声を洩らした。

「もし私の同業者なら、ぜひとも名前を聞きたいですね…」

 ちょっと待て、クリス。何をするつもりだ。慌てた俺とは違って、ウォルターは冷静に答えた。

「あー依頼人の事は詳しくは言えないが、とりあえずあんたらの同業者じゃないからな」
「そうですか」

 ちょっと残念ですと怖い顔で呟いたクリスは、もし同業者なら店に圧力をかけるぐらいはやりそうで怖いな。しかもクリスを止められる唯一の人であるカーディさんも、本当に残念だなと笑っているから余計に怖い。

「…あんたらとの仕事は、俺達も楽しかったよ」

 ウォルターは苦笑しながらも、ぼそりとそう返した。
しおりを挟む
感想 375

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...