生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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609.【ハル視点】連絡手段と黒酒

 例えきっちりと日程まで決まらなくても、ルセフ達と一緒に依頼を受けられるかもしれないというだけでアキトは嬉しいらしい。

 キラキラと目を輝かせるアキトに、同じくらい嬉しそうなブレイズがすぐにくっつきにいった。

 その瞬間ルセフとウォルターとファリーマが、ちらりと俺の表情を伺ったのが分かった。ブレイズは確かに距離感こそ近いが、そこに他意は無い。ただ仲の良い友人に懐いているだけと分かってるから問題は無い。

 すこし心配そうな視線に、俺はゆるりと首を振った。あからさまにホッとした表情なんだが、俺はどれだけ嫉妬深いと思われているんだろうな。

「一緒に依頼かーブレイズ、楽しみだね!」
「うん、俺もすっごい楽しみ!次はどんな依頼かな?」
「うーん、どんな依頼だろうね?」
「調査依頼は滅多に来ないから、違う依頼かなぁ…」
「違う依頼も楽しそうだよね!」
「あー確かに、アキトとハルさんも一緒なら、どんな依頼でも楽しそう」

 アキトとブレイズがニコニコと笑いながら話し合っている姿を視界の端に見つめながら、俺はそっとルセフに近づいた。

「ルセフ、もし良い依頼が見つからないなら、いっそ大型の討伐依頼とかでも良いと思わないか?」
「ああ!うん、そういう手もあったな!」
「大型の討伐依頼も滅多に出ないものではあるから、すぐにとは行かないだろうが…せめて俺達との連絡の取り方だけでも決めておきたいと思ってな」
「は?連絡の取り方…?」

 冒険者稼業の奴を相手に連絡を取るというのは、なかなかに難しい事だ。

 手紙のやりとり自体は転移魔法陣を応用して都市間で頻繁に行われているが、冒険者は職業柄どうしても移動が多いからな。騎士団なら人を覚えて移動する鳥などを飼いならしているが、あれはよほどの状況でなければ使えない。

 即座に連絡を取るのはさすがに難しいが、仲介してくれる人さえいれば連絡を取る手間はかなり省くことができる。 

「ああ、あんなに楽しみにしているアキトとブレイズのためにも、実現させないと駄目だと思わないか?」
「あーあんなに目をキラキラさせられたら…な」

 ルセフも納得してくれたようだし、ウォルターとファリーマも無言で頷いている。

「俺達の方は長期でトライプールから出る時は、メロウかレーブンのどちらかには必ず伝えるようにしてる。二人にはルセフ達には聞かれたら情報を教えるように頼んでおくよ」
「ああ、すれ違いの手間を減らすための仲介か」

 すぐにそう察してくれたルセフは、少し悩みながらも口を開いた。

「それなら、こっちは借りてる家の裏に黒酒を売ってる店があるんだが…知ってるか?」
「黒酒って事は…ラルトか…フレートか?」

 黒酒というのは、名前の通りに真っ黒な酒だ。初めて見た人には身体に悪そうだとか、飲むのが怖いと恐れられたりする酒だが、その見ために反してさっぱりとした味だ。もしかしたらアキトも好きかもしれないな。覚えておこう。

 その黒酒を取り扱っている店と言われて思い浮かべる事ができるのは、その二店舗ぐらいだ。もしかして他にもあるんだろうかと考えながら尋ねれば、ルセフは感心した様子で笑って答えた。

「やっぱり知ってたか。ラルトの方だ」
「そうか、あの辺りに住んでるのか」
「というか、ラルトの店主が家主なんだよ。こっちも話しは通しておくから、店まで来てくれたら伝言でも手紙でも受け取ってもらえるようになるよ」

 ラルトの店主が仲介してくれるのか。

「ブレイズとアキトの期待を裏切らないためにも、実現させような」
「ああ、当然だな」

 もうすこし詳細を詰めておくべきかと思ったが、不意にウォルターが口を開いた。

「あー…あのさ、悪ぃんだけど」
「ウォルター?」
「そろそろ眠気が限界なんだけど…俺だけ、先に帰っても良いか?」
「あ、ひきとめて悪かった。今日はこれで解散にしようか」
「すまん。このままだと立ったまま寝そうでな」
「いや、気にしないでくれ」

 俺達は自然と手を振って別れた。



 トライプールの街並みは、やっぱり落ち着く。そう思いながら隣を歩くアキトを見れば、嬉しそうな笑顔が返ってきた。

「帰ってきたね」
「ああ、帰ってきたな」

 噛み締めるようにそう返してから、俺はアキトの手をそっと握った。

 まだ早い時間帯のせいか、子どもたちの笑い声や鳥の鳴き声が遠くからかすかに聞こえてくる。そんな和やかな雰囲気を堪能しながら、俺はアキトと繋いだ手を揺らしつつゆっくりと道を歩いて行った。



 飾り気の無い見慣れた黒鷹亭の看板が見えてくる。アキトに出会う前の俺にとっては特に思い入れの無い場所だったんだが、今は違う。パァァッと明るくなったアキトの表情の変化を楽しみながら、俺は木製のドアへと近づいた。

 俺が手を伸ばすよりも先に、アキトはドアをそっと開いた。受付カウンターにはうつむいて作業をしているレーブンの姿が見えた。

「いらっしゃ…おう、おかえり。アキト、ハル」

 入ってきたのが俺達だと気づいたレーブンは、口角を少しだけ上げておかえりと口にした。レーブンの笑顔は常連でも二度見するぐらいには珍しい筈なんだが、アキトと一緒にいると笑顔じゃない方が珍しいんだよな。

「ただいま帰りました、レーブンさん!」
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