621 / 1,561
620.噂の元は
「黙っているのも、何だか騙すようで嫌だなと思ったんですが…突然こんな話をしてすみません」
そう申し訳なさそうに続けたカルツさんに、俺は一体どこで知ったんだろうとただただ不思議に思っていた。
こういう時に察しの良いハルなら説明してくれるかなとちらりと視線を向けてみたけど、珍しくも視線は全く合わなかった。ハルは何も言わずに黙り込んだまま、強張った顔でカルツさんを見つめていた。
「なあ、カルツさん。その情報をいつ、どこで、どんな奴から聞いたのか…聞いても良いか?」
不意に口を開いて質問したハルの声が、あまりに冷えきっていて驚いてしまった。こんなハルの声は、今まで一度も聞いた事は無いと思う。表情も明らかに強張っているし、纏う空気までピリピリしてるように感じる。
「ええ、もちろんです。実は昨日、冒険者らしき方々が話しているのを聞いたんです」
「冒険者らしき奴ら…そいつらの見た目や特徴は説明できるか?」
警戒心を露わにしたハルの質問に、カルツさんは慌てた様子で手を振った。
「あの、そんなに警戒する必要はありませんよ」
「警戒する必要が無い…とは?」
ハルのいっそ睨むような視線にも怯まずに、カルツさんは答えた。
「ええ。紛らわしい言い方をしてしまいましたね…おそらくあの方々は、お二人のお知り合いなのだと思います」
「…知り合いだと判断した理由は何だ?」
疑うように尋ねられても、カルツさんの穏やかな笑みは少しも揺らがなかった。
「まさかハルとアキトが伴侶候補になるとはなと一人が口にしたら、別に意外でも無いだろうと他の人達が笑っていたから…ですね」
あれは間違いなく、話題の人達に対しての親しみのこもった声色でしたとカルツさんは続けた。
「元商人の目を信じて頂けるなら、決して警戒するような開いてでは無かったんです」
「そう…か…」
そう呟くなり黙って何事かを考えこんでいたハルは、ハッと何かに気づいた様子で視線をあげた。
「あーすまない、カルツさん。思い当る奴らが浮かんだよ…もしかしてそいつらは四人組だったか?」
「ええ、確かに四人組でしたよ」
ハルはその答えを聞くなり、ふうーっと思いっきり息を吐いた。
「なるほど、ルセフ達か」
「ええ、確かにそんなお名前でしたね。後はウォルさんと、ブレイさん、あとファリーアさん…でしたか」
「ウォルターに、ブレイズ、それにファリーマだな」
律儀にみんなの名前の訂正をしているハルは、もう普段通りの柔らかい笑顔を浮かべている。
「つまり…ルセフさん達がこの近くを通りかかったって事?」
「ああ、そうみたいだな。まあよくよく考えてみれば、黒酒を売ってるラルトの酒屋っていうのは、ちょうどこの近くにあるんだ…だから不思議って訳でも無い」
「えっと…黒酒を売ってるお酒屋さんって、ルセフさん達と連絡を取れるって言ってたあの?」
ブレイズがそんな事を教えてくれたなと思いだしながら口にすれば、ハルは笑って頷いた。
「ああそうだ。つまりあいつらはこの近くに住んでるって事になる。自分たちの家の近くで普通に世間話として俺達の事を喋っていたのを、たまたまカルツさんが聞いたんだろう」
へーこの近くに住んでるのか。
「そういう事か」
「カルツさん、焦らせてすまなかった」
勝手に警戒して質問責めにしてしまった事を、ハルはすぐに丁寧に謝罪した。
「お気になさらず」
カルツさんもそう言うと、あっさりとハルの謝罪を受け入れてくれた。うん、やっぱりカルツさんも癒し系だよな。あの優しい声で話かけられると、それだけで空気も和む気がする。
「それにしても、ハルさん…何か、ありましたか?」
「何か…とは?」
「元々アキトさんに関しては過保護でしたが、あんな風に誰かに噂されていたってだけでピリピリしたりしない人だったでしょう?」
すこし不思議そうにそう尋ねてきたカルツさんに、ハルは苦笑を浮かべた。
「最近、色々あってな…しばらくは警戒を怠れないんだ」
それだけを答えたハルに、カルツさんはそれ以上は何も聞かなかった。ただにっこりと笑うと、話したいと思ったらいつでも聞きますからねと声をかけてくれた。
こういう気づかいが、カルツさんの大人の余裕だな。
そう申し訳なさそうに続けたカルツさんに、俺は一体どこで知ったんだろうとただただ不思議に思っていた。
こういう時に察しの良いハルなら説明してくれるかなとちらりと視線を向けてみたけど、珍しくも視線は全く合わなかった。ハルは何も言わずに黙り込んだまま、強張った顔でカルツさんを見つめていた。
「なあ、カルツさん。その情報をいつ、どこで、どんな奴から聞いたのか…聞いても良いか?」
不意に口を開いて質問したハルの声が、あまりに冷えきっていて驚いてしまった。こんなハルの声は、今まで一度も聞いた事は無いと思う。表情も明らかに強張っているし、纏う空気までピリピリしてるように感じる。
「ええ、もちろんです。実は昨日、冒険者らしき方々が話しているのを聞いたんです」
「冒険者らしき奴ら…そいつらの見た目や特徴は説明できるか?」
警戒心を露わにしたハルの質問に、カルツさんは慌てた様子で手を振った。
「あの、そんなに警戒する必要はありませんよ」
「警戒する必要が無い…とは?」
ハルのいっそ睨むような視線にも怯まずに、カルツさんは答えた。
「ええ。紛らわしい言い方をしてしまいましたね…おそらくあの方々は、お二人のお知り合いなのだと思います」
「…知り合いだと判断した理由は何だ?」
疑うように尋ねられても、カルツさんの穏やかな笑みは少しも揺らがなかった。
「まさかハルとアキトが伴侶候補になるとはなと一人が口にしたら、別に意外でも無いだろうと他の人達が笑っていたから…ですね」
あれは間違いなく、話題の人達に対しての親しみのこもった声色でしたとカルツさんは続けた。
「元商人の目を信じて頂けるなら、決して警戒するような開いてでは無かったんです」
「そう…か…」
そう呟くなり黙って何事かを考えこんでいたハルは、ハッと何かに気づいた様子で視線をあげた。
「あーすまない、カルツさん。思い当る奴らが浮かんだよ…もしかしてそいつらは四人組だったか?」
「ええ、確かに四人組でしたよ」
ハルはその答えを聞くなり、ふうーっと思いっきり息を吐いた。
「なるほど、ルセフ達か」
「ええ、確かにそんなお名前でしたね。後はウォルさんと、ブレイさん、あとファリーアさん…でしたか」
「ウォルターに、ブレイズ、それにファリーマだな」
律儀にみんなの名前の訂正をしているハルは、もう普段通りの柔らかい笑顔を浮かべている。
「つまり…ルセフさん達がこの近くを通りかかったって事?」
「ああ、そうみたいだな。まあよくよく考えてみれば、黒酒を売ってるラルトの酒屋っていうのは、ちょうどこの近くにあるんだ…だから不思議って訳でも無い」
「えっと…黒酒を売ってるお酒屋さんって、ルセフさん達と連絡を取れるって言ってたあの?」
ブレイズがそんな事を教えてくれたなと思いだしながら口にすれば、ハルは笑って頷いた。
「ああそうだ。つまりあいつらはこの近くに住んでるって事になる。自分たちの家の近くで普通に世間話として俺達の事を喋っていたのを、たまたまカルツさんが聞いたんだろう」
へーこの近くに住んでるのか。
「そういう事か」
「カルツさん、焦らせてすまなかった」
勝手に警戒して質問責めにしてしまった事を、ハルはすぐに丁寧に謝罪した。
「お気になさらず」
カルツさんもそう言うと、あっさりとハルの謝罪を受け入れてくれた。うん、やっぱりカルツさんも癒し系だよな。あの優しい声で話かけられると、それだけで空気も和む気がする。
「それにしても、ハルさん…何か、ありましたか?」
「何か…とは?」
「元々アキトさんに関しては過保護でしたが、あんな風に誰かに噂されていたってだけでピリピリしたりしない人だったでしょう?」
すこし不思議そうにそう尋ねてきたカルツさんに、ハルは苦笑を浮かべた。
「最近、色々あってな…しばらくは警戒を怠れないんだ」
それだけを答えたハルに、カルツさんはそれ以上は何も聞かなかった。ただにっこりと笑うと、話したいと思ったらいつでも聞きますからねと声をかけてくれた。
こういう気づかいが、カルツさんの大人の余裕だな。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。