生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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622.ハルの全力

「どうしてそこまでピリピリしてるんだろうと不思議には思っていましたが…そんな事情でしたら心配になるのも無理は無いですね…」

 事情を聞いたカルツさんはそう言うと、ちらりとハルに視線を向けた。

「しかしまだアキトさんだと決まったわけでは無いんですよね?」
「ああ、もちろん他にも召喚された異世界人がいるのかもしれないとも思うんだ。だが…同時にもしアキトの事だったらどうしようとどうしても頭を過るんだ」

 ハルはまるで途方にくれた迷子のような表情で、ぽつりとそう呟いた。

 苦しそうな声と表情なのに、すこしだけ嬉しいと思ってしまった俺は悪い奴だな。

 だってそれだけ俺の事を大事に想ってくれてるんだって事でもあるからね。そんな所でハルの愛情を実感してしまった俺は、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 ハル、ごめんなさい。でも、ありがとう。あと愁い顔も格好良いです。

「あの、ハルさん、いくつか質問をしても良いでしょうが?」
「ああ、なんだ?」

 結界もあるしあなたの質問になら何でも答えるぞと、ハルはあっさりとそう返した。カルツさんの事は、やっぱりハルも特別視してるのかな。もしそうだったらちょっと嬉しい。

「嫌な想像になりますが…もし、もし万が一にも、アキトさんを取り戻そうとその国の人がやって来たとしたら、ハルさんはその時はどうしますか?」
「全力で抗う」

 俺はハルの答えに驚いて固まってしまった。コンマ何秒レベルの、一瞬の躊躇も無い即答だったからだ。しかもハルはまるで戦闘中のような威圧感すら放っている。

 もしこの威圧感を放ったのがハルじゃなかったら、恐怖を感じていたかもしれない。そう思うほどの迫力だった。

 そんなハルの反応は予想通りだったのか、カルツさんは少しも驚かなかった。それどころか冷静な声で、更に質問を重ねた。

「その場合のハルさんの思う全力というと…具体的にはどうなりますか?」
「そうだな…まず家族に頭を下げてでも辺境領伯の力は使うだろうな。他国でもそれなりに有名だからどこが相手でも圧力ぐらいはかけられるだろう」

 ハルはそう言って指折り数え始めた。

「ああ、それに王国間の問題になるならちょうどトライプール騎士団の管轄だから巻き込めるな」

 少なくともトライプール領主と団長は絶対に味方になるぞと、ハルはもう一本指を曲げながらさらりと続けた。

「それに俺の友人や知人達にも声をかけないとな。幸い冒険者から騎士に衛兵まで、知り合いは多いからな。アキトのためならって奴も何人も思い浮かぶし…」

 そんな人いるかな?それにしてもハルはそこまでして俺を守ってくれるつもりなのか。嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちだ。

「それは…本当に全力ですね?」
「ああ、俺が持つ権力だろうと人脈だろうと、全てを使って、何がなんでもアキトを守る覚悟だ。もしどうしても抗えない相手なら、何もかも捨ててアキトについていくよ」
「ええ、ハルさんはそういう人ですよね」

 カルツさんはそう言うとふわりと満面の笑みを浮かべた。なんでこのタイミングで笑ったんだろう。戸惑う俺とハルをじっと見つめて、カルツさんはふふと声を上げて笑いだした。

「私は今の質問の答えで、心配はいらないんだなと思いましたよ」
「…なぜ?」
「例えその異世界人がアキトさんだったとしても、ハルさんが全力を出すなら何の問題もなく守り通せるだろうなと思ったからですよ」

 そもそもあのハロルド様が権力や人脈まで駆使して守ると言っているのに、心配をするなんて失礼でしょうとカルツさんはさらりと続けた。

「俺もそう思う」

 ハルは絶対に守ってくれると思う。

「それに、もしもの時は俺も戦うからね!」

 異世界人だからと連れていかれてハルと引き離されるぐらいなら、俺も人に対して魔法ぐらい放てると思うんだ。命まで取らなくても足止めできれば良いんだし。

「そうか…うん、そうだな」

 アキトの強さも信じてるよと頷いたハルは、何だかすっきりした顔をしていた。

「いつものハルさんに戻りましたね」
「ああ、ありがとう。胸が軽くなった気がするよ。カルツさん、あなたに話して良かった」
「光栄です」

 ふふと笑ったカルツさんは、とはいえ情報は大事ですからと、何か気になる噂話を聞いたら伝えましょうと約束してくれた。

 そんな事考えた事も無かったけど、よくよく考えたら幽霊って基本的には他の人には見えないんだし、情報を集めるのにぴったりだよね。凄腕のスパイになれそうだ。
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