生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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625.【ハル視点】レーブンが作る朝食は

「あ、アキト」
「んー何?」
「ちょっと寝過ごしたから…食堂の朝食時間終了まであまり時間が無いみたいなんだけど…」

 本音を言えばニコニコ笑顔のアキトとこのままのんびりと寝過ごしたいけど、気づいてしまったら言わずにはいられなかった。

 アキトがレーブンの作る食事を好きな事も知ってるしね。まあ俺もレーブンの作る料理は好きだけど。

「えっ!まだ間に合うなら食べたい!」

 うん、そう言うと思った。

 慌ててベッドから起きだすなり大急ぎで身支度を整えた俺達は、食堂の朝食時間内にギリギリの所で間に合った。黒鷹亭では料理さえ時間内に受け取ってしまえば、食堂は解放されたままだ。だからギリギリになっても、ゆっくりと食べる事ができるんだよな。

「はーハルのおかげで間に合った…ありがと、ハル」
「どういたしまして」

 向かい合ったアキトからの感謝の言葉に、俺もニコリと笑みを返す。

「「いただきます」」

 声を揃えて食べ始めたレーブンの作った朝食は、とても美味しかった。

 無料で出す朝食はパンと飲み物だけなんて宿も多いんだが、黒鷹亭は違う。相変わらず冒険者や肉体労働の奴らに人気が出そうな、野菜や肉をたっぷり使った朝食だ。有料にしても良いぐらいの質なんだが、そこはレーブンのこだわりなんだろうな。



「「ごちそうさまでした」」

 そう声を揃えた食後の俺達に、ようやく厨房での仕事がひと段落したらしいレーブンがふらりと近づいてきた。

「おはようございます、レーブンさん!」
「おはよう、レーブン」

 俺たちからの朝の挨拶に、レーブンはニッと口の端だけを上げて答えた。

「おう、二人ともおはよう」
「わざわざどうしたんだ?」

 いくら食堂内にいるのはもう数人だけだと言っても、レーブンがこの時間に食堂に顔を出すのはなかなかに珍しい。隣の椅子を勧めながら、俺は口を開いた。

「何か用事があって来たんだろう?」

 俺が勧めた椅子にすぐに腰を下ろしたレーブンは、笑って頷いた。

「今日の夜なんだが、場所はここじゃなくて俺の部屋にするつもりだって、一応先に言っておこうと思ってな」
「レーブンさんの部屋――ですか?」
「ああ、あっちの受付の裏に俺の私室があるんだよ」

 いつ誰が受付に来ても良いようにと、あえてそこに自分の部屋を作ってあるんだとレーブンはそう口にした。

「へぇ…レーブンの私室か」
「そういえば、ハルも入った事は無かったか?」
「ああ、確かに無かったな」

 だいぶ前からの知り合いなのに?と、アキトは少し驚いた様子だ。昔は任務や依頼で必要な事以外は話さないような、一線を引いた関係だったとはさすがに言えないな。アキトがいるから、レーブンとの関係が変わってきてるだけだ。

「俺達は人がいない時を狙って食堂で話してたからね」

 食堂の閉鎖時間に、防音結界の魔道具を使って喋るのが定番だったと教えれば、アキトはなるほどと納得してくれた。

「それで、俺の私室でも問題は無いか?」

 レーブンの確認にすぐに頷いた俺は、もうひとつだけ気になった事を尋ねてみた。

「私室でするのは良いんだが…夜の受付はどうするんだ?」
「ああ、受付は信頼できる冒険者にちゃんと依頼を出してあるからな。今日は宿の事は何も気にしなくて大丈夫だ」
「そうか。それは良かった。それならレーブンも思いっきり酒を楽しめそうだな?」

 揶揄うようにそう口にした俺に、レーブンはすぐに笑って答えた。

「ああ、受付業務なんて挟んでたら、気持ちよく酔えないからなぁ」
「レーブン…本気で飲む気だな?」
「当然だろう。北ノールの酒だぞ?」
「まあそうだな」

 元々酒好きで酒豪なレーブンだから、目の前に珍しい酒があるなら全力で飲むのも当然か。

「あの酒に合いそうな料理を、色々考えてる。楽しみにしててくれ」

 レーブンはそう言いながら、すくっと立ち上がった。

「それじゃあな。今日の夜は、直接俺の部屋まで来てくれ」
「はい、楽しみにしてます!」
「俺も楽しみだよ」

 素直に二人揃って楽しみだと伝えれば、レーブンはふわりと柔らかく笑ってみせた。そんな笑顔も、アキトが来るまでは見た事なかったな。

 貴重な笑顔を目撃した冒険者達は、驚きすぎたのか大きく目を見開いてレーブンを見つめていた。驚くのも無理は無い。気持ちは分かるぞ。

「それじゃあ今日は、食事会のための差し入れを買いに行こうか」

 俺はアキトにそう声をかけた。

「うん、そうだね」
「ついでにしておきたい事とかある?」

 買っておきたいものがあるとか、折角トライプールに帰って来たから食べたいものがあるとか。俺が想定していたのはそういう返事だったんだが、アキトは返事に困って言い淀んだ。

「あ、えーっと…」
「アキトのしたい事、ちゃんと教えて欲しいな」

 どんな内容でも良いから教えて欲しいと笑顔で促せば、アキトは恐る恐るといった様子で口を開いた。

「ハルと伴侶候補になれた事を、俺の口から報告したい人が…いるんだ」

 俺は驚きに目を見張りながら、その言葉を受け止めた。

 俺と伴侶候補になった事を、ではなく俺と伴侶候補になれた事を――か。ほんの少しの言葉の違いだが、意味はだいぶ違うよな。

 そうか、そう表現してくれるのかと理解した瞬間、じわじわと胸の中に温かくて幸せな気持ちが広がってきた。

 自然と緩んでしまう頬は、俺にも制御できなかった。
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