生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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627.【ハル視点】列に並んで

 黒鷹亭を出てみれば、今日の空には雲一つなかった。文句のつけようのないからりと晴れた晴天だ。

 太陽の光に照らされた明るいトライプールの街中を、アキトと俺は二人並んで歩きだした。

 もちろんどちらからともなく差し出した手は、今日もしっかりと繋がれている。街の外だと危険だから繋げないが、本音を言うならいつでも繋いでいたいぐらいだからな。街中で手を繋がないなんて選択肢は、俺には無い。アキトも同じように思ってくれていると嬉しいんだが。

「あ、アキト、もし良ければ先に菓子を売ってる店に行ってみない?」

 もしどうしてもカルツさんの所に先に行きたいと言うならそれでも良いんだが、あの店は売り切れる事があるからな。そう思って提案すれば、アキトは笑顔で答えてくれた。

「うん、どっちからでも良いよ」
「じゃあこっちだよ」

 ちょうど昼食時だからか、行き交う人の量はやはり多い。ちらりと視線を向けた大通りはすごい人だった。移動するのも嫌になるぐらいの混雑具合だ。こういう時に裏道とか抜け道を知っていて良かったと実感するよな。

「今から行く店は朝早くから開いてるんだけど、売り切れたらすぐに閉店しちゃうんだ」

 裏路地をのんびりと歩きながら目的地であるリコーヴェ菓子店について説明すれば、アキトはへーと興味深そうに話を聞いてくれる。楽しそうに揺らされる繋いだ手が、なんだかすごく幸せだ。

「しかもほとんど毎日完売するんだよ」
「え、すごい人気店!」
「そうなんだ。だから早めに行っておきたいなと思って先にしたいって言ったんだけどね」
「うん、そうだね。売り切れたら大変だ」

 差し入れにしたいのにと少し慌てた顔のアキトに、まだ大丈夫だと思うよとそっと声をかける。

「店の名前はリコーヴェって言うんだけど、あそこの菓子はしっかり甘いものから、甘さ控えめのものまで種類も多いんだ」
「へーそうなんだ。楽しみ」
「焼き菓子なんかもあったから、アキトも気に入るんじゃないかな」

 そんな会話を楽しみながらも店を目指して歩き続ければ、無事に目的地へと辿り着いた。

 こじんまりとした小さな建物の前には、いつも通りの行列がずらりと並んでいる。やっぱり今日も混んでいるみたいだ。

「すごい人だね、ハル!」
「うん、そうだね。でもまあ、これならまだ少ない方かもしれないよ」

 そう口にすれば、アキトは表情だけでこんなに並んでるのに?と驚きを伝えてくる。

 びっくり顔すら可愛いんだから、たまらないな。抱きしめたくなる。

「本当だよ。前に一度、諦めるぐらい並んでた事もあったからね。アキト、とりあえず並ぼうか」
「うん」

 ずらりと並んだ列の最後尾にささっと並べば、あっという間に俺達の後ろにも列ができた。

 前にここに来たのは、俺が幽霊になるよりも前の事だ。だからかなり久しぶりなんだが、相変わらずの混雑っぷりだな。

「よし、今の所、看板は出てないね」

 列に並ぶなり身を乗り出して店の方を確認してみたが、どうやら今日はまだ看板は出ていないみたいだとホッと息を吐く。

「…看板?」

 不思議そうなアキトに、俺は笑って答えた。

「商品が減ってきたら、店の前に看板が出るんだよ。その看板が店の前に出てからは、並んでも何も買えないかもしれないですよという合図なんだ」

 昔は売り切れそうになると店員が出てきて一々説明していたんだが、あまりの忙しさにこの方法に変わったんだと教えれば、アキトは面白そうに笑ってくれた。

「分かりやすくて良いね」
「ああ、そうだろう?」

 アキトにそう説明をしていると、不意に賑やかなやりとりが列の後ろ側から聞こえてきた。

「あ、看板はまだ出てないから大丈夫だ」
「やった!」
「ねえ、もしかして看板ある?」
「いや、今日はまだ無いみたいだ」
「よっしゃ!嫁に土産が買える!」
「俺は明日からの依頼の癒しに買っていくぞ」

 常連なのだろう一団が騒ぐ声に、アキトは楽しそうに笑いながら耳を傾けている。

「あ、そうだ。ちなみに、ハルのお勧めは何?」

 不意に俺を見上げて尋ねてくるアキトに、俺は少し考えてから答えた。

「そうだなーアキト好みなら、季節の木の実入りケーキかな」

 季節ごとに中身の木の実が変わるんだよと耳元で囁けば、アキトは分かりやすくキラキラと目を輝かせた。

 よし、季節の木の実入りケーキは、絶対に買おうと今決めた。

「ハルが好きなのは?」
「俺は…ここだとキャラメルが好きかな」
「キャラメル」

 アキトはきょとんと俺を見あげながら、そう繰り返した。
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