生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
647 / 1,561

646.【ハル視点】異世界の料理

 列が進んでいくにつれて、屋台の中の調理風景も徐々に見えるようになってくる。

 熱した油に豪快に放り込まれた大きな塊肉には、正直に言うと驚いた。カーディさんはうまそうだなと笑っているしアキトは興味深そうに見つめているが、あれは食べ難いんじゃないだろうか?

 揚げたてのあんな大きな塊に齧りつけるか?

 少しだけ不安に思いながらもじっと見つめていると、揚がったばかりの塊肉を店員が器用に切り分けていくのが見えた。ああ、なるほど。食べやすい大きさに切り分けてからベールの葉に載せて、食べる用の串を刺して提供しているのか。

 うん、それなら食べやすそうだ。ちゃんと考えられていて良かったと密かに胸を撫で下ろしてしまった。



 列に並んだまましばらく待つと、ようやく俺達の順番が回ってきた。

「いらっしゃい…ってカーディじゃねぇか」

 黒髪の日焼けした青年は、カーディさんに気づくなりにっこりと笑みを浮かべた。

「よう、今日は友人を連れてきたんだ」
「おお、そいつはありがとよ。兄さん達もいらっしゃい。何人前にする?」

 にっこりと笑みを浮かべた店員は、俺とアキトに向かってそう尋ねた。

「二人前で頼む」

 俺はすぐにそう答えた。行列に並んでいる間に、アキトとはきちんと相談済みだ。ふらいどちきんは美味そうだが、今日はレーブンとローガンとの食事会があるからな。

 もし気に入ったらまた来れば良い。

「カーディは?クリスがいねぇって事は、今日は持ちかえりか?」
「おう、二人分持ちかえりで頼むわ」

 屋台飯というのは基本的に持ちかえって食べるものじゃないのかとすこしだけ不思議に思ったが、店員の手元をのぞけばすぐに納得がいった。

 持ちかえり用は大きめのベールの葉を上手く利用して、くるりと全体が包み込まれているみたいだ。これなら魔導収納鞄が無い人でも持ちかえりやすいな。なかなか面白い事を考える。

 感心しながら見守っていると、カーディさんは受け取った包みをすぐに自分の魔道収納鞄へとしまいこんだ。

「ありがとな。兄さんらも食べて気に入ったら、また来てくれよー」

 人懐こい店員は笑顔でそう言うと、次の客にお待たせと声をかけた。



 受けとったふらいどちきんは、本当に揚げたてらしく湯気が出ていた。アキトはキラキラと目を輝かせているから、元々好きな料理だったりするんだろうか。

「あー…俺はクリスと食べるからここでは食べられないんだが、アキトとハルはすぐに食べるんだよな?」

 俺達を振り返ったカーディさんの質問に、俺はすぐに頷いた。

「ああ、そうだな」
「うん、早く食べたいっ!」
「よし、それじゃあこっち来て」

 歩き出したカーディさんの案内で辿り着いたのは、ずらりと椅子が並んだ一画だった。

 広場の中でも特に奥まった辺りにはこうやって椅子を設置する事も許可されていると聞いた事はあったが、あれは本当だったんだな。ちなみにカーディさんいわく、これはこの屋台だけのためにあるものではなく、何を食べても良い場所だと決まっているらしい。

 並んでいる椅子の造りや種類がバラバラなのは、屋台や近所の人の寄付で集まったものだからなんだそうだ。ごちゃごちゃした雰囲気ではあるが、なんだか楽しい場所だな。

 そっと周りを伺ってみれば、入口近くの屋台飯を持ち込んでいる人もいれば、俺達と同じくふらいどちきんを食べている人もいる。その隣では魔道収納鞄から弁当を取り出している人もいるな。

 へぇ、本当に何を食べていても良いのか。

 これなら入口から少しずつ買い集めてここで食べるなんてのも楽しそうだな。いつかアキトとやってみようかと考えながら、俺はカーディさんの背中を追った。

「ほら、二人ともここ座って」

 ニコニコ笑顔で椅子の前に立ったカーディさんの言葉に従って、アキトと俺は空いている椅子に腰かけた。

「じゃあ遠慮なく」
「ああ!」
「「いただきます!」」

 アキトと俺は二人で声を揃えてから、それぞれ刺さっている串へと手を伸ばした。

 こうして見ると、切り分けていた時よりも大きい気がするな。アキトが嬉しそうに齧りついたのを見て、俺もかなり存在感のある肉に思いっきり齧りついた。

 サクリと軽い音がしたなと思ったら、ぶわりと熱い肉汁と旨味が一気に口内に広がった。揚げたてなんだから当然熱いと分かってはいたんだが、想像以上だった熱さに俺はハフハフと息を逃した。

 ああ、かなり熱いがこれは美味いな。
 
「これがフライドチキンか!これはうまいな!」

 マルックスの肉は元々好きな方だったが、これは今までに食べたことのない料理だ。

「うん、これは美味しいね!」

 俺達の感想を聞いたカーディさんは、嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべた。

「俺のお気に入りの料理が二人にも気に入ってもらえて良かったよ!それじゃあ、俺はそろそろクリスにこれを食べさせてくるわ」

 自分の魔道収納鞄をポンポンと軽く叩いたカーディさんは、アキトと俺に別れを告げると手を振りながら去っていった。早くクリスに食べさせたいんだろうな分かったから、俺達も引き留めずに見送った。

「アキト、これ本当に美味しいね」
「うん、このフライドチキンは、また食べに来たいな」
「ああ、もちろん。また来ようね」

 俺も気に入ったと告げれば、アキトは嬉しそうに笑みを浮かべた。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。