649 / 1,561
648.ハルの道案内
まだ幽霊だった頃に出会ってから、ハルにはたくさん道案内をしてもらった。トライプールはもちろん、依頼で行った街や採取地でも、ハルが道に悩む所なんて一度も見た事がない。
入り組んだ船着き場の裏路地までしっかり把握してるんだから、すごいよね。さすがハルだとずっと思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったな。
「アキト、次の次の角を左に行くよ」
「うん、分かった」
俺だったら閉鎖してるから迂回してって言われたら、とりあえずその路地だけを避けると思うんだよね。
でもハルは違う。
あの路地が閉鎖されたらこっちに迂回する人が多いから、きっとこの道は混雑すると思うから行かない。そこから左に続く道は閉鎖された道に繋がってるから、そこも閉鎖されてるかもしれないから避けよう。
そんな風に俺に説明をしつつ、最善のルートをさらりと決めていくんだ。
ハルの頭の中には、本当にきっちりした地図があるんだな。
いつか俺もハルぐらいのレベルで道を把握できるようになるんだろうか。さすがに無理かもしれないなんて弱音が一瞬だけ浮かんだけど、すぐに消えていった。
ハルだって最初から完璧だったわけじゃない筈だ。
それに、別に詳しい説明なんてしなくても良いのに、その道を選ぶ理由までちゃんと説明してくれてるのはきっと俺のためだよね。
期待してくれてるなら、頑張りたい。
見覚えのある建物や目印になりそうな物がないかとウロウロと視線を彷徨わせながら、路地の中を進んでいく。
「次を右だよ」
ハルの指示に従って道を曲がると、視界の端に気になる建物が飛び込んできた。
あれ、このすっごく重厚感のある建物、見た事がある気がする。
「あれ?ハル、ここってもしかして…前にも来た本のお店?」
そう尋ねれば、ハルはにっこりと嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うん、確かにここは本を取り扱ってるマーゴット商会だよ。それにしてもアキト、一度しか来てない上に看板も見えない位置なのに、よく気づいたね」
さすがアキトだとハルは手放しで褒めてくれるけど、この建物は例え看板が見えなくても忘れられないと思うんだよね。
まるで博物館とか美術館みたいな高級感のある建物なのに、本屋さんっていうギャップもあるからすごく印象深かったし。
「えっと、ありがと」
まあ、この世界ではそれが普通の本屋だって言ってたけど。
あ、もし出来る事なら、俺のいた世界の本屋さんをハルにも見てもらいたいな。無造作に山積みにされた本の平積みとか、この世界とは比べ物にならない本の値段とか、きっと色んなところに驚いてくれるんだろうな。
そんなくだらない想像をしていると、ハルはニッと笑みを浮かべると俺を振り返った。
「まだ時間もあるし、もし良ければ寄っていかない?」
「んー…」
実はあの時に買った本は、もうほとんどが読み終わっちゃったんだよね。旅行記とか楽しすぎて熟読しちゃったし、ハルのお父さんの冒険譚はもう何度も読み直してるぐらいだ。
うん、まだ時間があるなら、新しい本を買いたい。
「うん。新しい本も買いたいし、時間があるなら寄りたいな」
「それじゃあ行こうか」
ハルは俺の手を引いたまま、建物に向かって歩き出した。
ううん、近くで見るとやっぱりちょっと俺は場違いじゃないかなって思っちゃうな。威圧感すら感じる重厚感のある建物なんだよね。
でも前と違ってここの店員さんは優しいって知ってるから、前に来た時よりも気は楽だ。それに今日は生身のハルも一緒だしね。
二人揃って建物に近づいていくと、ドアの近くに待機していた店員さんが今日もすかさずドアを開いてくれた。やっぱり人力の自動ドアなんだな。
「いらっしゃいませ、マーゴット商会へようこそ」
柔らかい笑みを浮かべて迎え入れてくれたのは、偶然にも前に案内してくれたあの年配の店員さんだった。たしかジェイデンさん――だったよね。
知ってる店員さんに会えた事で、更に肩の力が抜けた気がする。
あ、でも俺にとってはたった一人の知ってる店員さんだけど、ジェイデンさんにとっての俺はたくさんいる客の内の一人でしかない筈だ。
そう思って黙ったまま会釈を返した俺に、ジェイデンさんは柔らかく笑いかけてくれた。
「いらっしゃいませ、アキト様、お待ちしておりました。本日のご案内も、私ジェイデンが担当させて頂いてよろしいでしょうか?」
不意打ちでされた名前での呼びかけに、正直に言えばかなりびっくりしてしまった。だってたった一回来ただけなのに?名前まで覚えてるの?びっくりしたけど、次の瞬間にはじわじわと嬉しさが湧いてきた。
「はい、ぜひお願いします」
「それでは、お連れ様もご一緒にこちらへどうぞ」
入り組んだ船着き場の裏路地までしっかり把握してるんだから、すごいよね。さすがハルだとずっと思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったな。
「アキト、次の次の角を左に行くよ」
「うん、分かった」
俺だったら閉鎖してるから迂回してって言われたら、とりあえずその路地だけを避けると思うんだよね。
でもハルは違う。
あの路地が閉鎖されたらこっちに迂回する人が多いから、きっとこの道は混雑すると思うから行かない。そこから左に続く道は閉鎖された道に繋がってるから、そこも閉鎖されてるかもしれないから避けよう。
そんな風に俺に説明をしつつ、最善のルートをさらりと決めていくんだ。
ハルの頭の中には、本当にきっちりした地図があるんだな。
いつか俺もハルぐらいのレベルで道を把握できるようになるんだろうか。さすがに無理かもしれないなんて弱音が一瞬だけ浮かんだけど、すぐに消えていった。
ハルだって最初から完璧だったわけじゃない筈だ。
それに、別に詳しい説明なんてしなくても良いのに、その道を選ぶ理由までちゃんと説明してくれてるのはきっと俺のためだよね。
期待してくれてるなら、頑張りたい。
見覚えのある建物や目印になりそうな物がないかとウロウロと視線を彷徨わせながら、路地の中を進んでいく。
「次を右だよ」
ハルの指示に従って道を曲がると、視界の端に気になる建物が飛び込んできた。
あれ、このすっごく重厚感のある建物、見た事がある気がする。
「あれ?ハル、ここってもしかして…前にも来た本のお店?」
そう尋ねれば、ハルはにっこりと嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うん、確かにここは本を取り扱ってるマーゴット商会だよ。それにしてもアキト、一度しか来てない上に看板も見えない位置なのに、よく気づいたね」
さすがアキトだとハルは手放しで褒めてくれるけど、この建物は例え看板が見えなくても忘れられないと思うんだよね。
まるで博物館とか美術館みたいな高級感のある建物なのに、本屋さんっていうギャップもあるからすごく印象深かったし。
「えっと、ありがと」
まあ、この世界ではそれが普通の本屋だって言ってたけど。
あ、もし出来る事なら、俺のいた世界の本屋さんをハルにも見てもらいたいな。無造作に山積みにされた本の平積みとか、この世界とは比べ物にならない本の値段とか、きっと色んなところに驚いてくれるんだろうな。
そんなくだらない想像をしていると、ハルはニッと笑みを浮かべると俺を振り返った。
「まだ時間もあるし、もし良ければ寄っていかない?」
「んー…」
実はあの時に買った本は、もうほとんどが読み終わっちゃったんだよね。旅行記とか楽しすぎて熟読しちゃったし、ハルのお父さんの冒険譚はもう何度も読み直してるぐらいだ。
うん、まだ時間があるなら、新しい本を買いたい。
「うん。新しい本も買いたいし、時間があるなら寄りたいな」
「それじゃあ行こうか」
ハルは俺の手を引いたまま、建物に向かって歩き出した。
ううん、近くで見るとやっぱりちょっと俺は場違いじゃないかなって思っちゃうな。威圧感すら感じる重厚感のある建物なんだよね。
でも前と違ってここの店員さんは優しいって知ってるから、前に来た時よりも気は楽だ。それに今日は生身のハルも一緒だしね。
二人揃って建物に近づいていくと、ドアの近くに待機していた店員さんが今日もすかさずドアを開いてくれた。やっぱり人力の自動ドアなんだな。
「いらっしゃいませ、マーゴット商会へようこそ」
柔らかい笑みを浮かべて迎え入れてくれたのは、偶然にも前に案内してくれたあの年配の店員さんだった。たしかジェイデンさん――だったよね。
知ってる店員さんに会えた事で、更に肩の力が抜けた気がする。
あ、でも俺にとってはたった一人の知ってる店員さんだけど、ジェイデンさんにとっての俺はたくさんいる客の内の一人でしかない筈だ。
そう思って黙ったまま会釈を返した俺に、ジェイデンさんは柔らかく笑いかけてくれた。
「いらっしゃいませ、アキト様、お待ちしておりました。本日のご案内も、私ジェイデンが担当させて頂いてよろしいでしょうか?」
不意打ちでされた名前での呼びかけに、正直に言えばかなりびっくりしてしまった。だってたった一回来ただけなのに?名前まで覚えてるの?びっくりしたけど、次の瞬間にはじわじわと嬉しさが湧いてきた。
「はい、ぜひお願いします」
「それでは、お連れ様もご一緒にこちらへどうぞ」
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。