生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
652 / 1,561

651.セスミアの旅行記

「もし他にもご希望の本があれば、お聞かせくださいね」

 いつの間にか取り出したこぶりな手帳に魔道具のペンでさらさらと記入しながら、ジェイデンさんは俺の方へちらりと視線を向けた。うーん、明らかに仕事ができる頼れる人って感じだな。あと執事っぽい。

 えっと、他って言うと…。あ、一冊だけ思いついたな。

「あの、前に買わせてもらった旅行記、まるでそこを旅してる気分になれてすごく楽しかったんです。もしああいう雰囲気の本が、他にもあれば…ぜひ欲しいです」

 セスミアの旅行記って名前だから最初はセスミアさんって人が書いた本だと思ってたから、まさかのセスとミアっていう姉弟が書いた本だっって知った時はびっくりしたなぁ。

 でもこれがね、読めば読むほど楽しい本だったんだ。

 本の中で説明されてる場所はほとんどが行った事が無い場所だったけど、風景から食べ物までしっかりと文章や絵で説明されてるから、本当にそこを旅してる気分になれるんだよ。

 実際に行ってみたいなーって思った場所もいくつかできたんだ。いつかハルと一緒に行けたら良いなと密かに考えてる。

 あと、たまーに混ざる姉弟らしいエピソードも面白かったな。文章を読んでるだけでも本当に仲が良いんだなって伝わってくるぐらい仲良しなのに、美味しかった料理の最後の一口を奪い合って真剣勝負してたりするんだよ。

 まあ真剣勝負って言っても、勝負の内容はカードゲームとかコイントスとかあくまで平和なものなんだけどね。だからこそ、そんなゲームに真剣に取り組む二人の鬼気迫るやり取りが、面白くてたまらなかった。

 まさか旅行記を読んで、あんなに笑うとは思わなかったよ。

 あ、あとトライプールについての説明があったのも地味に嬉しかったな。あ、ここ知ってる!って場所が本の中に出てくると、不思議と嬉しいもんだよね。

「なるほど。気に入って頂けたようで幸いです」

 あれはジェイデンさんがお勧めしてくれてなかったら、きっと出会えてない本だ。

「はい、あれは本当にお気に入りの本です、ありがとうございました」
「いえ、とんでもない」

 ふわりと笑ったジェイデンさんは、手帳をパラパラとめくりながら口を開いた。

「アキト様にお買い求め頂いたのは、セスミアの旅行記で間違いないでしょうか?」
「はい」

 もしかしたらその手帳に、誰が何を買ったかまで書かれてるのかな。いやでも例えメモがあっても、たくさんのお客さんの情報がその一冊に書いてあったら、そのページに辿り着くのも難しそうな気がするな。

「それならちょうど、セスミア旅行記の続編が入荷しておりますがいかがでしょうか?」
「え、本当ですか?」

 いや、こんなに頼れる店員さんが、こんなタイミングで嘘を吐くわけないよね。絶対ないって分かってるのに、咄嗟に口から出ちゃったんだよ。

 ジェイデンさんは慌てる俺に呆れるでもなく、すぐに穏やかな笑顔で頷いてくれた。ううん、優しい。

「ではこちらもお持ちしますね」
「はい、お願いします!」

 他には何かありますかと聞いてくれたけど、とりあえずはそのぐらいかな。持ってきてくれる料理本も、何冊気に入るか分からないからね。

「とりあえずそれでお願いします」
「かしこまりました」

 ジェイデンさんは手帳をちらりと見てから、今度はハルに視線を向けた。

「ハル様」
「なんだ?」
「もし私が担当をさせて頂いてもよろしければ、ハル様にも本をお持ち致しますが…いかがでしょうか?」

 ハルは少しだけ考えてから、笑顔で頷いた。

「ああ、じゃあ頼もうかな」
「ハル様はどういった本がご入用でしょうか?」
「そうだな…最新の魔物研究の本の中から、信頼に足ると思うものを何冊か頼めるか」
「私の主観でよろしいでしょうか?」
「ああ、まかせる」

 へぇ、魔物研究の本か。そんなのもあるんだね。しかも最新のって事は、他にもいっぱい種類があるって事だよね。さすが異世界だな。

 そんな事を考えながら何げなくハルの方を見れば、もし興味があればアキトも読んでみてねと柔らかい笑みが降ってきた。

 う、隣合わせでソファに腰かけているせいで、全く回避できなかった。

 この至近距離で浴びるハルの王子様笑顔に、頬が熱くなっていく。

「アキト、どうかしたの?」

 不思議そうなハルに、俺は視線を反らしながら答えた。

「何でもない」

 ハルの顔が格好良すぎるせいですとは言えなかった。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。