生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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654.本の値段と常識と

「それではこちらをご覧ください」

 そう声をあげて仕切りなおしたジェイデンさんが差し出したのは、高級そうな二枚の紙だった。ふち取りの模様が付いたその紙には、流れるような綺麗な文字で今回の本の値段がきっちりと記されていた。

 前回もそうだったから『マーゴット商会では本の値段は紙に記してやりとりするんだなー』ぐらいにしか思ってなかったんだけど、こっそりと耳元で説明してくれたハルによるとこれはとある事件から設定されたまだ比較的新しい決まりらしい。

 なんでも最初に店員が口にした値段と実際に支払った値段が食い違っていて、わざと損をさせられた!これは詐欺行為じゃないかーって騒いだ人がいたんだって。

 この世界にも詐欺ってあるんだな。

 厳密な調査の結果、まあ嘘を吐いてたのは、その騒いだ客の方だったらしいんだけどね。なんでバレないと思ったんだろう。かなり不思議だ。

 最終的には店員さんと店側に問題は無いと照明することができたけど、それがあまりに大変だったらしく、それからはこの紙は証拠としてしっかりと保存されるらしい。

 へぇ、ちゃんと保存されてるのか。だから俺が前に買った本もすぐに分かったのかもしれないな。

 そんな事をのんびりと考えながら、俺はジェイデンさんの差し出してくれた紙をそっと覗き込んだ。

・寒い北国の温かい料理 1万5000グル
・簡単に作れる南国料理の料理について 1万6000グル
・素材の旨味を引き出す魚料理 1万5000グル
・手軽で美味しい家庭料理集 2万グル
・続 セスミアの旅行手記 9万グル

「アキト様の本は全部合わせて15万6000グルですね」

 へぇ、この世界の料理の本って意外と安いんだな。一瞬だけそう思ってしまった事に自分でも驚いた。明らかに元の世界じゃ考えられないぐらい高額なのに、違和感を覚えなかったんだよなぁ。

 俺もだいぶこの世界に慣れてきたみたいだ。

 魔道収納鞄から取り出したギルドカードを差し出し、俺はそのまますぐに支払いを済ませた。

 あ、ちなみにハルが買ってた魔物研究の本は、上下巻を合わせてなんと70万グルだった。つまり一冊だけでも35万グルか。

 うーん、分厚さからして料理本とは全く違うわけだしね。

 それに長年かけて魔物の研究を続けた結果、ようやく分かった新情報なんかも含んでいるっていうからこの値段も仕方ないのかな。

 俺だと気軽に買うにはちょっと怯むぐらいの値段だったけど、ハルはあっさりとジェイデンさんにギルドカードを差し出してたよ。

 ちなみにこういう魔物研究の本は、見かけた時に買っておかないと売り切れたりするんだって。今度ぜひハルに見せて貰おう。

 お勧めされたあの魔物研究の本の内容が期待以上だったからと、ハルはどうやらジェイデンさんを気に入ったらしい。

 できれば次回からも、アキトと俺の担当に指名したいんだがとわざわざ声をかけてた。ジェイデンさんは誇らし気に微笑みながら、すぐにこくりと頷いてくれた。

「ええ、これからもよろしくお願いいたします。ハル様、アキト様」
「こちらこそよろしく」
「お願いします」



 深々と頭を下げて礼をしたジェイデンさんに見送られて、俺たちは荘厳な細工の施された正面の扉を通ってマーゴット商会を後にした。

 今日買った本はいつから読み始めようかなと少しだけワクワクしながら、俺はハルと手を繋いだままゆっくりと歩き出した。

「ハル、ここから先はどうやって帰るの?」

 今いるのは大通りであって、路地や抜け道じゃない。でももしかしたらもう一回路地を通るって可能性もあるよね。そう思って尋ねてみれば、ハルはゆるりと首を振った。

「そうだな…ここからは大通りを進もうか」
「大通りで良いの?」

 ちらりと視線を向けた大通りはまだかなり人が多い。だいぶ混みあってるみたいだけど本当に?とついつい質問を重ねてしまった。

「ああ、大通りで帰ろう」
「うん、分かった」

 ハルは嬉しそうに俺の手を引きながら、ゆっくりと歩きだした。
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