生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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655.黒鷹亭の受付

 なんだか久しぶりにトライプールの大通りを歩く気がするな。道行く人達や並んでいる店をぼんやりと眺めながら、俺はそんな事を考えてた。

 いや、もちろんまったく通ってないってわけじゃないんだけどね。

 ハルが幽霊だった頃はよく大通りを使ってた気がするんだけど、ハルが生身になってからはトライプールでは基本的に裏道や路地を使う事が特に多い気がするんだよね。

 トライプールは俺とハルが拠点にしてる街だから、折角なら細かい道も覚えられるようにとか考えてくれてるのかもしれないな。ハルだから何か理由があるんだと思うけど、わざわざ聞くのもな。

 ぼんやりと考え事をしながら思わずじっと見つめてしまったせいで、ハルはパッと俺の方へと視線を向けた。

「アキト、どうかした?」

 何かあるのかとすこし心配そうなハルの表情に、俺はすぐに明るい笑みを浮かべてブンブンと首を振った。

「ううん、久しぶりにトライプールの大通りを歩いてる気がするなーって思ってただけだよ」
「ああ、確かに大通りを歩くのは久しぶりだな。…へぇ、こうやってみるといくつか店も入れ替わってるんだな」

 ハルは興味深そうに店の並びを観察しながら呟いた。

「え、かわってる?」
「うん、こうやってのんびり歩きながら店を見るなんて久しぶりだから、前に通った時は気づいてなかっただけかもしれないけどね」

 ふふと笑ったハルは、ちなみにあそこにある装飾品の店は、以前は香水を取り扱ってたんだよと教えてくれた。

 そこからは博識なハルが大通りのお店の説明をしてくれるのを興味深く聞きながら、俺は黒鷹亭を目指してのんびりと大通りを歩き続けた。



「おう、おかえり。アキト、ハル」

 夕陽に照らされた黒鷹亭の扉をそっとくぐれば、ちょうど受付にいたレーブンさんがそう声をかけてくれた。

「レーブンさん、ただいま帰りました」
「ただいま」

 挨拶をしながらふと何となく視線を向ければ、レーブンさんの後ろの棚辺りでしゃがみこんで何かを取り出している人がいる事に気が付いた。

 あれ?黒鷹亭の受付スペースの中に、レーブンさん以外の人がいるのなんて初めてみたかもしれない。

 俺とハルの視線に気づいたのか、その長身の男性はすっと立ち上がるとクルリと振り返った。手には木の箱を持ってるからあれを取り出してたんだろうな。

「あ、いらっしゃい」

 ニカッと笑ってみせた男性の顔には、ぼんやりとだが見覚えがあった。

 えーと、たぶんだけど…この人、黒鷹亭の食堂で何度か見かけた人だと思う。とはいってもいつも給仕側じゃなくて食堂利用者の方だったと思うんだけど、なんで受付スペースの中にいるんだろう。

 少しだけ不思議に思ったけど、俺が口を開く前にすぐにレーブンさんが説明してくれた。

「ああ、こいつはルタス。うちに宿泊してる奴なんだが、たまにここの受付を手伝ってもらってるんだ」

 やっぱり宿泊客か。じゃあ食堂でみかけたってのも気のせいじゃなさそうだ。

「ほら、昨日言ってた、今夜の受付をまかせるって依頼を受けてくれる冒険者だよ」

 ああ、なるほど。この人が、レーブンさんがお酒を堪能するために出すって言ってた依頼を受けた冒険者さんか。

「よう、初めまして。俺は前衛、斧使いのルタスだ。よろしくな」
「よろしくお願いします。俺はアキト、後衛で魔法使いの冒険者です」

 ニカッと明るく笑ったルタスさんの自己紹介にそう答えれば、不意にハルが俺の手を引いた。ん?と思った次の瞬間にはハルに肩を抱きこまれていた。え、なんで急に人前で抱きしめられてるの???

「俺はハル。前衛で戦士、あとこのアキトの伴侶候補だ」

 いきなり冷たい声でそう言い放ったハルに俺はびっくりしたけど、ルタスさんは苦笑を浮かべただけだった。

「あーアキトとハルな。ちなみにハル、牽制しなくても俺は既に愛しい伴侶がいるからな?何なら可愛い子どもも二人いる」
「そうなのか…?」
「ああ、嘘だと思うならレーブンさんに聞いてくれ」

 今のって牽制だったんだ。

「おいハル、視線だけで確認するな。本当だよ、俺が保証する」

 レーブンさんが断言すると、ハルはふうと息を吐いた。

「そうか…悪かったな」
「いや、まあ気にするな。気持ちは分かる」

 俺も俺の伴侶に気があるかもって思ったら、とりあえず牽制するからなーとルタスさんは笑って続けた。

 この世界の人って伴侶への愛情が重い人しかいないんだろうか。
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