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664.【ハル視点】家庭料理の本
「どうぞ私の事はお気になさらずに、納得が行くまでお二人でご相談ください」
ジェイデンは穏やかな声でそう言うと、そっと目を伏せた。結論が出るまで口は挟まず、ここで待つという意思表示だろう。
それじゃあ遠慮なく相談しようかと、俺は隣に座るアキトへと視線を向けた。
ちょうどアキトも同じタイミングで俺の方を見たらしく、かちりと絡み合った視線にどちらからともなく笑みを浮かべる。
俺はアキトになら、何を知られても良いと思っている。特に隠したいと思う事も無いしな。もちろん俺の買う本についても、隠すつもりは一切無い。
それにもし万が一読んでる本からアキトが俺の事を分析してくれるというなら、むしろ大歓迎だしな。真剣に分析をしているその間は、アキトは俺だけの事をたくさん考えてくれるんだろう。
そんなのただのご褒美だろう。
ただ、俺が良くてもアキトが良いと言うかどうかは別問題だよな。
前回マーゴット商会に来た時は幽霊状態の俺も成り行きで一緒にいたとは言え、これから買う本は知られたくないなんて事もあり得るかもしれない。
ああ、それに隠しておきたくても俺に気を使って言わない可能性も――あるな。アキトは優しいから、伴侶候補には隠しちゃだめだとか考えそうだ。
「アキト、先に俺の意見を言っておくけど、俺は同じ部屋でも全く問題は無いよ。アキトに知られて困る事なんて何も無いしね」
自分の意見をきちんと伝えてから、俺はアキトをじっと見つめながら口を開いた。
「でも、もしアキトが少しでも嫌だと思うなら、別室にして貰って良いんだからね?ここは信用できる店だから、絶対に一緒にいないと危険だなんて事も無いし。だからどちらでも好きな方を選んで?」
信用できる店だから絶対に一緒にいないと危険だなんて事も無いの部分は、目を伏せて待機中のジェイデンにも聞こえていただろう。むしろ聞こえるように、わざと大きめな声で言ったんだから聞いてくれないと困るんだが。
もし別室に案内する事になったら、しっかりとアキトを守ってくれよという軽い牽制だ。ちらりと視線を向ければ、ジェイデンは身じろぎもせずにそこに控えていた。
「ううん、俺もハルと一緒が良いな。俺もハルに隠しておきたい事なんて無いし、ハルの前でもよく本は読んでたから、俺の好みの本はもう知ってるよね」
だから大丈夫と断言してくれたアキトに、俺は笑って頷いた。
「よし、答えは出たね。ジェイデンさん」
「はい」
俺の呼びかけに、ジェイデンはようやくすっと目線を上げた。
「俺達は二人とも同室を選ぶよ」
「同室でお願いします!」
二人揃ってはっきりと意見を伝えれば、ジェイデンはかしこまりましたと微笑んだ。
「アキト様もハル様も同室希望ということですので、このままこの部屋で対応させて頂きますね」
「はい!」
「ああ」
「それでは改めまして、本日はどのような本をお探しでしょうか?」
ちらりと俺に視線を向けたアキトに、お先にどうぞと手だけで応える。アキトはニコッと嬉しそうな笑みを浮かべてから、身体ごとジェイデンに向き直った。
さて、アキトは今回はどんな本を欲しがるんだろうな?
心躍る冒険譚?冒険者向けの植物や素材の図鑑?有名な騎士や英雄の伝記?各地の名物が載っている旅行記?それともクリスとカーディさんのおかげで興味が湧いたらしい魔道具の本とかだろうか?
色々な分野の本を次々と思い浮かべてみたけれど、残念ながら俺の予想は全て外れてしまった。
「えっと、簡単に作る事ができる家庭料理の本のお勧めって…あったりしますか?」
アキトの言葉に、俺は静かに目を見張った。
まさかここで料理の本が出てくるとは、想像もしていなかった。それも簡単に作る事ができる、家庭料理の本とは。
今度お互いに手料理を振る舞おうと約束をしているんだが、もしかしてこれは俺に作る料理のために…という事なんだろうか。これは自惚れじゃないだろう。
異世界出身のアキトにとっては、この世界の食材も調味料も馴染みが無いものが多いだろう。だから本当に簡単な、焼いただけの肉とかでも良かったんだがな。
それでも喜べる自信があるが、アキトは俺に家庭料理を振る舞おうとわざわざ本を探してくれているのか。
じわじわと嬉しさが湧いてくる。
「家庭料理の本…ですか」
「あの、なければ良いんですけど」
「いくつか候補はございますが…食というのはその方の好みにもよりますから…これがお勧めと言いきれないんです」
申し訳なさそうにそう告げたジェイデンに、アキトはなるほどと大きく頷いた。
「もしよろしければ人気の本を数冊お持ちしますので、ご自身で目を通してお選びいただけますか?」
「じゃあそれでお願いします」
嬉しそうに笑ったアキトに、ジェイデンも安堵の息を洩らした。
ジェイデンは穏やかな声でそう言うと、そっと目を伏せた。結論が出るまで口は挟まず、ここで待つという意思表示だろう。
それじゃあ遠慮なく相談しようかと、俺は隣に座るアキトへと視線を向けた。
ちょうどアキトも同じタイミングで俺の方を見たらしく、かちりと絡み合った視線にどちらからともなく笑みを浮かべる。
俺はアキトになら、何を知られても良いと思っている。特に隠したいと思う事も無いしな。もちろん俺の買う本についても、隠すつもりは一切無い。
それにもし万が一読んでる本からアキトが俺の事を分析してくれるというなら、むしろ大歓迎だしな。真剣に分析をしているその間は、アキトは俺だけの事をたくさん考えてくれるんだろう。
そんなのただのご褒美だろう。
ただ、俺が良くてもアキトが良いと言うかどうかは別問題だよな。
前回マーゴット商会に来た時は幽霊状態の俺も成り行きで一緒にいたとは言え、これから買う本は知られたくないなんて事もあり得るかもしれない。
ああ、それに隠しておきたくても俺に気を使って言わない可能性も――あるな。アキトは優しいから、伴侶候補には隠しちゃだめだとか考えそうだ。
「アキト、先に俺の意見を言っておくけど、俺は同じ部屋でも全く問題は無いよ。アキトに知られて困る事なんて何も無いしね」
自分の意見をきちんと伝えてから、俺はアキトをじっと見つめながら口を開いた。
「でも、もしアキトが少しでも嫌だと思うなら、別室にして貰って良いんだからね?ここは信用できる店だから、絶対に一緒にいないと危険だなんて事も無いし。だからどちらでも好きな方を選んで?」
信用できる店だから絶対に一緒にいないと危険だなんて事も無いの部分は、目を伏せて待機中のジェイデンにも聞こえていただろう。むしろ聞こえるように、わざと大きめな声で言ったんだから聞いてくれないと困るんだが。
もし別室に案内する事になったら、しっかりとアキトを守ってくれよという軽い牽制だ。ちらりと視線を向ければ、ジェイデンは身じろぎもせずにそこに控えていた。
「ううん、俺もハルと一緒が良いな。俺もハルに隠しておきたい事なんて無いし、ハルの前でもよく本は読んでたから、俺の好みの本はもう知ってるよね」
だから大丈夫と断言してくれたアキトに、俺は笑って頷いた。
「よし、答えは出たね。ジェイデンさん」
「はい」
俺の呼びかけに、ジェイデンはようやくすっと目線を上げた。
「俺達は二人とも同室を選ぶよ」
「同室でお願いします!」
二人揃ってはっきりと意見を伝えれば、ジェイデンはかしこまりましたと微笑んだ。
「アキト様もハル様も同室希望ということですので、このままこの部屋で対応させて頂きますね」
「はい!」
「ああ」
「それでは改めまして、本日はどのような本をお探しでしょうか?」
ちらりと俺に視線を向けたアキトに、お先にどうぞと手だけで応える。アキトはニコッと嬉しそうな笑みを浮かべてから、身体ごとジェイデンに向き直った。
さて、アキトは今回はどんな本を欲しがるんだろうな?
心躍る冒険譚?冒険者向けの植物や素材の図鑑?有名な騎士や英雄の伝記?各地の名物が載っている旅行記?それともクリスとカーディさんのおかげで興味が湧いたらしい魔道具の本とかだろうか?
色々な分野の本を次々と思い浮かべてみたけれど、残念ながら俺の予想は全て外れてしまった。
「えっと、簡単に作る事ができる家庭料理の本のお勧めって…あったりしますか?」
アキトの言葉に、俺は静かに目を見張った。
まさかここで料理の本が出てくるとは、想像もしていなかった。それも簡単に作る事ができる、家庭料理の本とは。
今度お互いに手料理を振る舞おうと約束をしているんだが、もしかしてこれは俺に作る料理のために…という事なんだろうか。これは自惚れじゃないだろう。
異世界出身のアキトにとっては、この世界の食材も調味料も馴染みが無いものが多いだろう。だから本当に簡単な、焼いただけの肉とかでも良かったんだがな。
それでも喜べる自信があるが、アキトは俺に家庭料理を振る舞おうとわざわざ本を探してくれているのか。
じわじわと嬉しさが湧いてくる。
「家庭料理の本…ですか」
「あの、なければ良いんですけど」
「いくつか候補はございますが…食というのはその方の好みにもよりますから…これがお勧めと言いきれないんです」
申し訳なさそうにそう告げたジェイデンに、アキトはなるほどと大きく頷いた。
「もしよろしければ人気の本を数冊お持ちしますので、ご自身で目を通してお選びいただけますか?」
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