生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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668.【ハル視点】選ばれた本は

 さすがに二人とも全て買うと即決するとまでは思っていなかったのか、ジェイデンは少しだけ驚いた様子だったが、すぐに気を取り直して口を開いた。

「それではこちらをご覧ください」

 そう言いながらジェイデンがそっと取り出したのは、ふち取りの模様の入った二枚の紙だった。紙には流れるような綺麗な文字で今回の本の値段がきっちりと記されている。

 前もこうだったなと言いたげに紙を見つめているアキトに、俺はこっそりと耳元で囁いた。

「マーゴット商会がこうやって紙に書くのは、とある事件から設定されたまだ比較的新しい決まりなんだよ」
「え?」
「最初に店員が口にした値段と実際に支払った値段が食い違っていて、わざと損をさせられた!これは詐欺行為じゃないかーって騒いだ人がいたんだ」
「そうなの?」
「ああ。厳密な調査の結果、嘘を吐いてたのはその騒いだ客の方だったんだけどね」

 最終的には店員と店側には何も問題は無いと証明することができたが、それまでの手続きがあまりに大変だったから、この紙は証拠としてしっかりと保存されるんだと教えれば、アキトはさっきよりも興味深そうに紙を覗き込んだ。

・寒い北国の温かい料理 1万5000グル
・簡単に作れる南国料理の料理について 1万6000グル
・素材の旨味を引き出す魚料理 1万5000グル
・手軽で美味しい家庭料理集 2万グル
・続 セスミアの旅行手記 9万グル

「アキト様の本は全部合わせて15万6000グルですね」

 料理の作り方の本を買った事は一度も無いから相場も知らないが、それにしても安いな。

「じゃあこれでお願いします」

 アキトは魔道収納鞄から取り出したギルドカードを差し出すと、そのまますぐに支払いを済ませた。

 正直に言えば、本の代金も俺が払いたいんだけどな。こういう時に払わせてくれと主張しても、アキトは絶対に払わせてくれない。それを知っているから、こうして黙って見守るぐらいしかできないんだよな。

「ハル様の本の代金はこちらです。ご確認ください」

 そう言って俺の前に差し出された紙には、上下巻合わせて70万グルの値段が書かれていた。

 という事は一冊35万グルか。――こっちも想像していたよりもかなり安いな。

 内容からしてどちらか一冊だけでも、100万グルはくだらないかと思ったんだが…どうやらロサダール氏は本当に儲けは気にしていないらしい。

「ああ、俺もこれで頼む」

 取り出したギルドカードをジェイデンに差し出せば、あっという間に会計は終わった。

 すぐにトレイごと差し出された本を、俺とアキトは一冊ずつ自分の鞄の中にしまいこんだ。

 たまたま寄っただけにしては、良い買い物ができた。これもジェイデンのおかげだな。

 彼には色々な分野の本を選んでもらう事になったが、どの分野の本にも詳しかった。きちんと知識量を増やしていくタイプの店員なんだろう。

 それにアキトに対する態度も、好感を抱いた客の域を変に逸脱してはいない。

 俺はジェイデンをじっと見つめながら尋ねた。

「ジェイデンさん。できれば次回からも、アキトと俺の担当に指名したいんだが…」

 どうだろうかと尋ねるよりも前に、ジェイデンは誇らし気な笑みを浮かべて答えた。

「ええ、これからもよろしくお願いいたします。ハル様、アキト様」
「こちらこそよろしく」
「お願いします」



 深々と頭を下げて礼をしたジェイデンに見送られて、俺たちは荘厳な細工の施された正面の扉を通ってマーゴット商会を後にした。

 良い本が買えたからかどことなく嬉しそうなアキトと手を繋いだまま、俺はゆっくりと歩き出した。

「あ、ハル、ここから先はどうやって帰るの?」

 もしかしてまた裏道通る?と見上げて尋ねてきたアキトに、俺はゆるりと首を振った。

「そうだな…ここからは大通りを進もうか」
「大通りで良いの?」

 アキトがちらりと視線を向けた大通りには、まだかなり人が多い。

「だいぶ混みあってるみたいだけど本当に?」

 そんな心配そうな質問が飛んできた。

「ああ、大通りで帰ろう」
「うん、分かった」

 俺はアキトの手を引きながら、ゆっくりと歩きだした。
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