生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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688.【ハル視点】予想外の展開に

 俺はいま、自分たちの宿泊している黒鷹亭の部屋の中で、一人呆然と立ち尽くしている。

 あの後、起きていた三人ですこしだけ飲み食いをして待ってみたけれど、それでもアキトが起きる気配は無かった。思った以上にぐっすりと眠っているらしいアキトに、レーブンとローガンは優しい目をしながら口を開いた。

「この様子じゃ、アキトはすぐには起きなさそうだな」
「ああ幸せそうに眠ってるからなぁ。もう良い時間だし、今日はもう終わりにするか?」

 満足するぐらい飲めたしなと笑うレーブンに、ローガンはすぐに頷いた。

「おう、それが良いな」
「あー…ハロルド、またお前らを俺達の食事会に誘っても良いか?」
「ああ、もちろん。アキトもすごく楽しそうだったし、俺も…楽しかったしな」

 またお前らしくないなんて揶揄われるかと思いながらも俺の本音を伝えれば、二人はただ嬉しそうに笑って頷いてくれた。

「そこの来客用寝室を使っても良…」

 おそらく使っても良いんだぞと言おうとしたのだろうレーブンは、そこで言葉を止めて俺を見た。

「お前は部屋に戻る方を選ぶよなぁ」
「ああ、正解だな」

 あっさりと答えてアキトを起こさないようにそっと恋人抱きで抱き上げれば、二人はニヤニヤと笑いながらも笑顔で手を振ってきた。

「おやすみ」
「ハロルドもゆっくり寝ろよ。おやすみ」
「ああ、二人もおやすみ。今日はありがとな」
「おう、どういたしまして」
「次はもっと美味いもの作ってやるからな!」
「楽しみにしてる」

 にこりと笑みを返した俺は二人に背を向けると、そのままレーブンの私室を後にした。

 途中で受付にいたルタスさんにアキトを抱き上げている姿を目撃されたりもしたが、微笑まし気な笑みを向けられただけだったから目礼で通過した。

 ―――そう、そこまでは何の問題も無かったんだ。



 問題が起こったのは、俺達の部屋に戻ってからだった。

 そっとベッドにアキトを下ろす。そのままアキトと自分に浄化魔法をかけると、俺はすぐに部屋の扉へと足を向けたんだ。さすがにアキトを抱き上げたままだと、起こさずに鍵までかけることは出来なかったからな。

 しっかりと戸締りを終え防音結界が発動したのを確認してからくるりと振り返れば、俺の目に飛び込んできたのはベッドに座り込んだアキトの姿だった。

「アキト、目が覚めたのか?」

 さっきまであんなに幸せそうに眠っていたのに、今は眠そうな目をこすりながらパチパチと瞬きを繰り返している。なるべくそっと移動したつもりだったんだが、まさか部屋に着くなり起こしてしまうとは。もっとゆっくりと動くべきだったか?

 内心で反省をしながらもひそめた声でそう声をかれば、アキトは不意にふわりと笑みを浮かべた。

 うん、とりあえずあれだけ飲んでも体調は悪くないみたいだなと安心した次の瞬間、アキトは何故か急に服を脱ぎ始めたんだ。

 俺はその予想外過ぎる行動に、無様にも固まってしまった。

 もしこれがただ普通に服を脱いだだけだったなら、眠る前に着替えたかったのかな?などとのんきに考えていられただろう。立ち尽くすほどの衝撃を受けたりせずに、アキトの寝巻を用意するぐらいの事はできたと思う。

 だが、今のこれは明らかに普段のアキトの行動とは違っていたんだ。

 酔いのせいで蒸気した頬をしたアキトは、潤んだ瞳でじっと俺の目を見つめながら、胸元のリボンタイをシュルリと解いた。そのままゆっくりと下がっていった指先がプツリプツリと上着のボタンを一つずつ外していく。

 この辺りで、俺はこれはもしかしたら現実じゃなくて俺の見ている夢なんじゃないかと疑い始めた。

 立ち尽くす俺の気持ちも知らずにアキトは全てのボタンを外し終えると、今度は自分の手のひらで撫でるようにして胸元を開いていく。

 なんだこの恐ろしい程の色気は。目の前にいるのはいったい誰だ?いや、目の前にいるのは間違いなくアキトだと頭では分かっている。分かっているんだが、それでも理解が追いつかない。

 アキトはこんな風に色気を漂わせながら服を脱いだりしないはずだ。脱がされるのですら照れるアキトが、こんな誘惑めいた事をするわけがない。

 いや、でも確かに目の前にいるのはアキトで。

 ぐるぐると回る思考に、段々と意味が分からなくなってくる。

 ああ、俺も酔ってるのかもしれないな。いつもよりも思考がまとまらない。

 恐る恐る視線を向けたアキトの上半身には、もう開ききって何の役にも立たない衣服が申し訳程度にひっかかっているだけだ。

「アキト…?」
「はる、こっちきて…?」

 寂しいと言いたげな表情を浮かべたアキトにそんな事を言われて、俺が抗えるわけがない。固まっていた足を無理やり動かしてベッドの方へとすこしずつ近づいていけば、アキトはベッドに座ってと動きだけで伝えてくる。

 言われるがままにベッドの上に座り込めば、アキトは満足そうにニッコリと笑みを浮かべた。こどものような笑顔が可愛いなと思った次の瞬間、アキトは一転して艶やかな笑みを浮かべてみせる。

 翻弄される俺に構わずに、アキトはゆっくりと口を開いた。

「なあ、したもみたい?」

 あからさまに挑発するような言葉と同時に、わざとなのか無意識なのかは分からないが、アキトはペロリと唇を舌先で舐めた。

 俺は思わずゴクリとつばを飲んだ。

 見たくないかと聞かれたらそれはもちろん見たいんだが、酔っ払い相手にそんな事を言うのはどうなんだ。葛藤している俺の胸元を、アキトの指先がゆっくりとなぞった。

「へんじは?」

 聞いてるのかと言いながら、アキトはぐいっと顔を近づけると少しの躊躇も無く俺の唇にくらいついてきた。ただの口づけでは無い、むさぼりつくすような勢いだった。

 おれの理性はそこであっさりと限界を迎えた。

 すぐに襲い掛かってしまわないようにとぎゅっと目を閉じてから、俺は考えを巡らせる。

 酔っているとはいえ伴侶候補にここまで誘惑されて、抱かない方がおかしいんじゃないか?無理はさせないようにしないといけないが…なんて考え始めていた時だった。

「ふふ、ねえ、はる」
「…アキト?」
「おやすみ」

 は?聞き間違いじゃなければ、いまおやすみって言ったか?そう思って慌てて目を開けば、そこにはひっかかった程度の服をまとったアキトがベッドに崩れ落ちてスースーと寝息を立てていた。

「うそだろ…」

 全力で煽るだけ煽って、ここで寝てしまうのか。
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