生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
692 / 1,561

691.【ハル視点】レーブンの料理と今日の予定

 早起きしたレーブンが作った今朝の朝食は、料理がしたくてたまらなかったというだけあって、普段とはまた一味違う美味しさだった。

 本人にはあまり言った事は無いが、レーブンの料理は普段から文句なしに美味い。運動量の多い冒険者や旅人向けに肉や魚をたっぷり使ってあるし、さりげなく取り入れられている野菜も種類が豊富だ。

 騎士団の料理を作って欲しい。いっそ騎士団の専属料理人にならないかなんて話もあったぐらいの腕前だからな。まあ、打診された本人は、これからも黒鷹亭を続けたいからと即答で断っていたが。

 それにしても今朝の料理は本当にすごかった。

 レーブンはスープの作り方を変えたなんて言っていたが、他の料理も全てにしっかりと手が加えられていた。以前食べた料理と同じに見えるのに味は全く違うというのには正直すこし戸惑ったが、それも文句なしに美味かった。

 さりげなく付け合わせの野菜にアキトが好きだと言った味付けを取り入れていたのには、少しだけ笑ってしまった。

 アキトは昨日好きだと言った味付けだと気づいているのかいないのか、美味しいと笑顔で口に運んでいた。

 うん、今日もアキトは可愛いな。



 アキトと二人で美味しい美味しいと言い合いながら朝食を完食した俺達は、そのまま食堂を出るとすぐに受付へと向かった。

 カウンターの中に立っていたレーブンは、近づいてくる俺達に気づくなり口を開いた。

「アキト、ハル。今朝の朝食はどうだった?」

 ワクワクした様子で尋ねてきたレーブンに、アキトは元気に笑って答える。

「すっっっっっごく美味しかったです!」
「ああ…今日はいつもとはまた一味違う美味しさだったな」

 アキトの感想に釣られるようにして俺も素直に感想を伝えれば、レーブンは嬉しそうに笑みを浮かべた。その瞬間、またしても背後でどよめきが起きた。

「本当に笑ってる…」
「しかも満面の笑みだよ」
「食事会の翌日でも、今まではあんなに嬉しそうな事ってなかったよな…」
「ハッ!すごいレアなものを見れた…って事は、もしかして今日は採取も普段よりも上手くいくんじゃないか!?」
「よし、依頼を受けにいくぞ!」

 こそこそとひそめた声で喋ってはいるんだが、俺達に聞こえてるという事は間違いなくレーブンにも聞こえてるよな。アキトと揃ってちらりと視線を向けてみたが、レーブンは苦笑するだけで何も言わなかった。

 まあここで怒るような奴じゃないか。

 珍しいものを見たから良い事があるかもという考え方自体は分からないでも無いが、それが滅多に笑わない奴の笑顔ってのはどうなんだろうな。

「ちなみにどれが気に入ったか、教えてくれるか?」

 走り去っていく冒険者達を綺麗に無視して、レーブンは俺達に向かって尋ねた。

「えっと…俺は一番気に入ったのはサラダかな。初めて食べるドレッシングだったけど、濃厚な風味ですごく美味しかったです」

 アキトが答えれば、レーブンは気に入ってくれたかと嬉しそうに笑っている。

「ああ、確かにサラダも美味かったな。ただ俺はやっぱりスープかな」
 
 朝に飲むと元気が出る味だったと俺が続ければ、レーブンは真剣な表情で頷いた。

「お前たちの舌は確かだからな…また味見してくれ」
「それは光栄だな」

 ふふと笑って答えた俺の横で、アキトも笑顔で答えを返した。

「レーブンさんの料理なら、いつでも!」
「ありがとな」

 やる気が湧いてきたよとつぶやいたレーブンは、これから更に料理の改良に励むそうだ。相変わらずの研究熱心だな。この向上心があるからこそ、料理人として一流になれるんだろうか。

「お前らは今日はどうするんだ?」

 このままでかけるのか?と軽く聞かれて、俺達は思わず顔を見合わせた。今日は珍しく何をしようかと相談もせずに部屋を出てきたからな。

「アキトは何かしたいことある?」
「えーっと…ハルが良ければなんだけど…何か依頼受けたいな」

 アキトの予想外の発言に、俺とレーブンはまじまじとアキトを見つめてしまった。

 どこかに行きたいとか、何が食べたいとかが返ってくるかと思っていたのに、まさかの依頼を受けたいと来たか。

 基本的に冒険者は護衛依頼のような大きな依頼が終われば、数日は休みにする事が多い。移動の疲れを抜いて万全な状態で次の依頼に向いたいという奴もいれば、金が入ったから休みにしようという奴もいるから理由は様々なんだが。

「アキト、もうすこし休んでも良いんだぞ?」

 心配そうなレーブンは、アキトの顔をひょいっと覗き込んだ。ちょっと距離が近くないか?咄嗟にそう思ってしまったが、俺は何も言わなかった。レーブンは父親枠だからな。これは仕方ない。

「そうだよ。護衛依頼が終わったばかりなんだし」
「そうなんだけど…駄目?」
「駄目ってわけじゃないんだけど…」

 本当に疲れてない?と重ねて尋ねようとした瞬間、レーブンが口を開いた。

「あーまあ、良い依頼があるかどうかも分からないし、とりあえずギルドに行ってみたらどうだ?」

 レーブンの口にしたそんな提案に、アキトはバッと俺の顔を見た。お願いと言いたげなアキトのその視線に、俺は弱いんだよなぁ。

 うん、そうだな。アキトが行きたいと言うのに否定するのも嫌だし、ギルドに行ってから考えるか。

「難しい依頼とか遠い場所の依頼は受けないけど、それで良い…?」
「うん、約束する!」

 即答で答えてくれたアキトに、俺は苦笑しながらもそっと手を差し出した。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。