生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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692.噂話と冒険者ギルド

 手を繋いだまま黒鷹亭を出た俺とハルは、そのまま冒険者ギルドを目指して歩き出した。

 特に急いでいるわけじゃないからとあえて大通りを選んでのんびりと歩いていれば、不意に背後から楽し気な声が聞こえてきた。

「なあ、レーブンさんの笑顔を見たらレアな素材が手に入るかもって話、聞いたか?」
「え、そうなのか?」
「それ聞いたけど、本当なのか?初めて聞いたぞ」

 明らかに疑っている人もいるみたいだけど、本当かどうか確かめにいこうと騒ぐ人にこのままだと押し切られそうだ。

 ちらりと視線を向けてみれば、ハルもうっすらと笑みを浮かべている。これだけ大きな声で話してたら、当然聞こえてるよね。

「あ、待ってくれ。そういえば俺、さっき満面の笑みを見たぞ!」

 思い出したと言いたげに一人が叫べば、他の人達も一気にテンションが上がった。

「何!?すごいじゃないか!」
「満面の笑みはすごいな。さっき今日の朝食めっちゃうまかったって言ったら、ふわって笑みを見せてくれたけど、うっすらだったからなー」
「え…待ってくれ」
「俺が見た満面の笑みは他の奴に向けた笑顔だったから、もしかしてお前の方がすごいんじゃないか?」
「レーブンさんがお前に向けた笑顔なんだもんな。やっぱり急いで依頼受けに行こうぜ!」

 そんな会話をしながら、冒険者達は俺達の横を通り過ぎて駆け出していった。

「アキト。あれ、放っておいても良いと思う?」

 すこし呆れ顔でその冒険者達の背中を見送ったハルは、心配そうに俺の方へと視線を向けて尋ねた。優しいハルはあのゲン担ぎが上手くいかなくてレーブンさんに文句が言ったら、とか心配してるんだろうな。

「俺は良いと思うよ。皆本気じゃなくてただのお遊びだと思うし、レーブンさん相手に文句を言う人もいないでしょ?」
「まあ、うん。確かにレーブン相手に文句は言わない…いや、言えないか」

 ハルはそう言うとニヤリと笑みを浮かべた。レーブンさんが戦ってる所は見た事が無いけど、ハルがここまで楽し気に言うって事は本当に強い人なんだろうな。俺にとってはどこまでも優しい人だけど。

「あとさ、これをきっかけに、皆がレーブンさんの笑顔に慣れてくれたら良いよね」
「あー…うん、そうだな」

 レーブンさんはあんなに優しい人なのに、誤解されてるのってちょっと寂しいからな。苦笑まじりではあったけどハルも同意してくれたから、同じ考えみたいだ。

 何組かの冒険者達に追い抜かれながらも大通りを進んでいけば、冒険者ギルドの建物が遠くに見えてきた。

「ここも、なんだかすごく久しぶりな気がするね」
「ああ、護衛依頼に行く前にも来たからそれほど時間は経ってない筈なんだが、不思議と久しぶりに感じるな」

 ハルと話しながら歩いてきたせいか、本当にあっと言う間に冒険者ギルドの前まで辿り着いた気がする。

 すっかり見慣れた重厚なドアを開けて中へと足を進めれば、酒場には既に酒を楽しんでいる人もたくさんいてなにやら盛り上がっていた。まだ朝なのにと思う気持ちもあるけど、これでこそトライプールの冒険者ギルドだよねとも思うんだよなぁ。

 最初に来た時はこの賑やかさに怯んだのにな。俺もすっかりトライプールの冒険者ギルドに慣れたものだ。

 賑やかな酒場には用が無いからと奥へと進めば、受付カウンターはそれなりに空いていた。混雑する時間は抜けたのかな。

 ハルと二人手を繋いだままゆっくりと受付カウンダ―へと近づいていけば、一番端のブースにメロウさんの姿があるのに気がついた。

「あ、メロウさんがいる」
「…本当だな」

 いそいそと近づいていけば、俺達に気づいてくれたメロウさんはすっと立ち上がると、優しい笑みを浮かべて迎え入れてくれた。

「アキトさん、ハルさん。おはようございます」
「おはようございます、メロウさん」
「ああ、おはよう」
「護衛依頼、お疲れ様でした。依頼人から報告は受けています。色々あったようですが、達成ありがとうございます」
「いえ」

 丁寧に頭を下げながらの言葉に、俺は慌てて首を振った。メロウさんはすっと顔を上げるなりふわりと優しく笑ってから、今度は何故かくるりと背中を向けた。

 護衛依頼の達成処理をしてもらうべきかな?それとも採取してきた素材を提出するべきか?そんな事を考えていた俺はメロウさんの予想外の行動にびっくりして、何も言わずに背中をじっと見つめた。

 あーもしかして受付に用事があってカウンターの中にいただけなのかな。俺達が近づいてきたから対応してくれただけなのかもしれない。残念ではあるけど忙しい人なんだから、無理に対応してくれとも言えないよね。

 そう思って大人しく見送ろうとしたけれど、メロウさんは不意にいつも通り柔らかな笑みを浮かべて俺達の方を振り返った。

「こちらに部屋を用意しておりますので、どうぞついてきてください」
「え…?」
「は?何で急に?」

 びっくりしすぎて言葉が出なかった俺とは違って、ハルはどこまでも冷静だった。率直にメロウさんに理由を尋ねたけど、メロウさんは笑って手招きをするだけだった。

 メロウさんが言うなら移動しようかとハルの手を引いて、俺達はすぐに受付を後にする事になった。
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