生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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694.素材の買取交渉

 護衛依頼の達成報酬の精算が無事に終わると、メロウさんは不意に真剣な表情になって俺達の顔を見た。

「アキトさんとハルさんにお願いしたい事があるんです」

 ぴりっと一気に緊張感の走った空気に、俺はすっと背筋を伸ばした。何か大事な話をするんだなと何となく分かったからだ。ちらりと視線を向ければ、隣のハルも真剣な表情でメロウさんを見かえしている。

「話は聞こう」
「ありがとうございます。これは決して強制というわけではないんですが――」

 張り詰めた空気にごくりと思わず喉が鳴ってしまったのが恥ずかしい。一体何を言われるんだろうと身構えたけれど、メロウさんが続けた言葉は予想外のものだった。

「もしお二人さえ良ければ、今回のファーレスウルフの素材を全て引き取らせてもらえないでしょうか?」

 えーっと?ファーレスウルフって、あのクリスさんとカーディを襲撃しようとしてた犯人たちが襲われてたあの木に擬態してた狼の魔物…だよね?なんでわざわざそんな事を言われたんだろう。

 不思議に思ったけれど、それを尋ねる前にハルが口を開いた。

「はー改めて一体何を言うのかと思ったら、そんな事か…」
「そんな事とはお言葉ですね。大事な事なんですよ」
「大事なのは分かるんだが…アキトがびっくりしてるだろう?」

 そう言ってハルは俺の方へと視線を向けた。ハルにつられるようにしてこちらを向いたメロウさんは、俺の顔を見て申し訳なさそうに表情を歪めた。

「アキトさん、すみません。驚かせてしまいましたね」
「いえ、あの…いつも素材は冒険者ギルドに買い取ってもらうのに、わざわざそんな事を言うのはなんでかなー?とは思いましたが…びっくりしたというよりもただ不思議で」

 だから謝らないでくださいと続ければ、メロウさんは先に説明をすべきでしたねともう一度謝ってから口を開いた。

「ファーレスウルフは木に擬態している事もあって加工しやすい上質な素材なんです。ですから冒険者ギルドではなく、直接職人と取引するという冒険者もいるんですよ」
「え、そうなんですか?」
「うん、あの木に似た質感が家具や防具職人に特に人気なんだよ。ギルドを通さず直接職人に下ろした方が買取額が二倍ぐらいまで高くなる可能性があるから、手間にはなるがそれぞれに売り払うって奴も確かにいるな」

 もちろん面倒だからとか、交渉が苦手だからという理由で、職人に下ろしたりしない単純な奴らもいるんだけどねと、ハルは薄っすらと笑って説明してくれた。

 なるほど。だからメロウさんは冒険者ギルドに売ってくれとわざわざ口にしたのか。

「伝手が無いとうまくいかずに買いたたかれる可能性もありますからね…まあ、ハルさんは伝手なんて山のように持っているでしょうから」

 あなたなら高く売り払う事なんて簡単でしょうと、メロウさんはぼそりと呟いた。

「今回冒険者ギルドで買取りたいと申し出た理由なんですが…」

 気を取り直したメロウさんの説明は続いていく。

「ファーレウスウルフは本来なら群れで動く魔物ですが、今回は単体での出現だったと聞いています」
「ああ、そうだな。ファーレスウルフと戦ってからは警戒して気配探知をずっとしてたが、他にはいなかったと断言できる」
「ハルさんの気配探知は信用できますからね」

 さらりとメロウさんに褒められたハルは、照れくさそうに静かにそっと視線を反らした。やっぱりメロウさん相手だと、ハルの反応がちょっと可愛いんだよなぁ。

「冒険者ギルドとしては、今回の魔物だけが特別だったのか、それとも全てのファーレスウルフが単体で行動するようになっているのか、きちんと調べたいんです」

 まるごと引き取って魔物研究家立ち合いの元で解体したいんだと、メロウさんは続けた。

「…今の話を聞いて、アキトはどう思った?」

 ハルはちらりと俺を見てからそう尋ねた。

「え、俺はギルドに引き取ってもらうで良いと思うよ?ちゃんと調べてもらった方が良いと思うし」
「そうか。俺も同じ意見だ」

 ふわっと柔らかく笑ったハルの表情をじっと見つめてから、メロウさんはふうと肩の力を抜いた。

「ありがとうございます。買取額はできるだけ釣りあげますからね」
「それは別にどうでも良いんだが…最初から調査目的でファーレスウルフの買取をしたいって言えば良かっただろう?」

 俺達相手なら駆け引きなんていらないと知ってるだろうにと、ハルは少しだけ不思議そうに尋ねた。俺もそう思う。

「最初は、そう切り出そうと思ってたんですが…さっきハルさんが言った言葉できちんと説得しないと駄目かと考えなおしたんですよ」
「俺が…何か言ったか?」
「ファーレスウルフの素材をカウンターで出すつもりは無かったと言ったでしょう?」

 ハルはその言葉に、ああと一つ頷いた。

「あれは、ただカウンターでって意味だったんだが。なるほどそう受け取ったのか。最初から、直接解体所に持ち込むつもりだっただけだよ」

 あっさりとそう答えたハルに、メロウさんはがっくりと肩を落とした。
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