生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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717.【ハル視点】街に戻って

 キニーアの森での採取を終えた俺達は、混み合う街道を抜けて領都トライプールに戻った。

「急ぎで納品しなくても良いから、ギルドは今日じゃなくても良いんだけど…」

 依頼を受けていないから面倒なら明日にする事もできるよ?と尋ねてはみたけど、アキトはあっさりと首を振ってこたえた。

「まだ早いし、納品まで終わらせない?」
「ああ、それじゃあそうしようか」

 またアキトと手を繋いで本通りを歩き、俺達は再び冒険者ギルドに戻ってきた。時間的に早いおかげか、冒険者ギルドの中は比較的空いていた。

 ギルド内を移動すれば、そこかしこから『運が良い日』という単語が聞こえてくる。こんなに人が少ないのに、それでもその話で盛り上がっているのか。

「ここでも運が良い日か」
「うん、そうみたいだね」

 耳を澄ませてみてもレーブンの名前は出てこないみたいだから、まあ問題は無いだろう。

 俺達はすぐにギルドの受付へと足を向けた。多忙なメロウは、俺の予想通りもう受付にはいなかった。まあ、アキトは分かりやすくしょんぼりしていたけどな。

 本当にメロウに懐いているんだな。少しだけ面白くないとは思うが、相手がメロウだから気にするだけ無駄か。

 採取してきたものの買取は、無事に他の職員が行ってくれた。

 すこしだけ驚いたのは、俺達が採取に行っている間にアロイの花の採取依頼がちょうど出されたばかりだった事だな。例年ならまだしばらくは咲かない時期だから、依頼を出す奴もそうそういない筈なのに――だ。

「しばらく達成されないと思っていたので、とても助かりました。相場の三割増で買い取らせて頂きますね。早期達成の追加報酬も出しましょう」

 ニコニコ笑顔の職員は上機嫌で手続きを行ってくれたが、アキトはびっくり顔で固まってしまった。

「もしかしたら、今日は本当に『運が良い日』なのかもしれないね」

 信じているわけじゃないが、そう考えるのも面白いかもしれない。揶揄うように笑って続けた俺は、アキトの耳元にそっと唇を寄せた。

「そもそもレーブンの笑顔のおかげだと言うなら、誰よりもアキトの運が良くならないとおかしいからね」

 だって一番笑顔を向けられてるんだからと小声で続ければ、アキトは楽しそうに笑ってくれた。



 買取が全て終わってギルドを出る頃には、『運が良い日』の検証にでかけていた冒険者達が戻って来はじめていた。あんなに空いていた受付にも既に列が出来始めている。俺達は一気に混み合いだした冒険者ギルドを後にして、そのまま街道へと足を勧めた。

「このまま、少し早めの夕飯にしようか?」
「うん、それが良いかも」
「折角だし屋台とかよりもお店に行って食べるのはどう?」

 俺の提案にアキトはすぐに頷いてくれた。

 どこか行きたいお店があるならと歩き回るアキトの表情を伺っていたけれど、特に気になるお店はなかったらしい。どうしようかと悩んでいる様子のアキトに、俺はそっと声をかけた。

「そういえばこの近くに、ライスを使ったお店があるって聞いたんだけど」

 歩きながらも候補のお店を考えていた俺は、さも今思い出したかのようにそう切り出した。予想通り、アキトはそんなお店があるのかと目を輝かせてくれた。

 よし、店は決まったな。

「こっちだよ」
「はーい」

 すぐに辿り着いたお店のライスを使った料理というのは、香辛料を効かせた異国の料理だった。アキトはかなり気にいったらしく、幸せそうに料理を口に運んでいた。

 この店は当たりだな。覚えておこう。

 食事を終えて黒鷹亭の部屋に帰ってきた俺達は、すっかり習慣になったおかえりとただいまを言い合った。

 俺がかけようかと尋ねる間も無く、アキトは部屋に入るなりすぐに二人分の浄化魔法を発動してくれた。

 アキトの魔法の発動は、日々早くなってる気がするな。毎日の浄化魔法の賜物だろうか。今度から尋ねるよりも前に、俺も魔力を練るべきだろうか。

 そんな事を考えながら、俺はアキトにくるりと背中を向けた。

「まず装備外そうか」
「うん、そうだね」

 伴侶候補なんだから別に気にしなくても良いんだろうが、俺は今でも装備を外す時や着替える時はアキトに背中を向けている。無防備なアキトの姿を見て、その気になったら困るからな。

 普段のアキトの着替え方は、昨日の煽られるような脱ぎ方とは違うけどな。つい昨日のアキトの艶やかな服の脱ぎ方を思い出してしまった俺は、ぶんぶんと首を振った。

 駄目だ。駄目だ。思い出すな。自分にそう言い聞かせながら、俺は手早く装備を解除していった。

「アキト、喉乾いてない?何か果実水でも出そうか?」

 そう声をかけたけれど、アキトは何も答えなかった。そういえばさっきから何だか静かだな。

 どうかしたのかと心配になった俺は、そっと背後に立つアキトの方を振り返った。
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