生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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728.日常とひとつの手紙

 初の護衛依頼も無事に終わって、領都トライプールを拠点として動きまわる俺とハルの日常が帰ってきた。

 二人で手を繋いで一緒にのんびりと街中を歩いてみたり、冒険者ギルドであれこれと依頼を探して達成してみたり、はたまた美味しいお店を探し歩いてみたりもした。

 前と変わったのは、俺にも知り合いが少しずつ増えてきた事かな。

 元々ハルは知り合いが多い人だから街中を歩くとよく声をかけられてたんだけど、最近は俺にも声をかけてくれる人が増えてきたんだよね。

 よく行くお気に入りの屋台の店主さんとか、毎朝前を通る黒鷹亭近くのお店の人とか、あと黒鷹亭の他の宿泊客の冒険者の人とかもだな。

 運が良い日騒動の後で、ちょこっと喋るようになったんだ。

 とはいっても挨拶を交わしたり世間話をする程度の軽いやりとりなんだけど、笑顔で声をかけてくれるのが嬉しい。

 俺もトライプールの街に段々馴染んできたのかな。

 ああ、それと最近何故か友達にもよく会えてる気がする。会う約束とかをしてないのに、ばったり遭遇したりが結構あるんだよね。

 なかでもよく会ってるのはブレイズ達かな。こないだなんて冒険者ギルドの受付で依頼の達成報告をし終えて振り返ったら、俺達のいた受付ブースの列の後ろに並んでたんだ。

 あの時は皆で笑い合って、そのままギルドの酒場で一緒にご飯を食べた。

 クリスさんとカーディのやってるストファー魔道具店には、あれから何度か訪れた。

 不思議な見た目をした珍しい魔道具から、これって異世界の情報を元に作ったやつ?と聞きたくなるような俺にとっては馴染みのあるものまで、色々あって面白いんだ。

 ちなみにクリスさんはまだ火竜の魔石を使った魔道具の開発を続けてるらしくて、なんだか上の空って感じの状態だった。カーディが甲斐甲斐しく世話を焼いてるのが結構新鮮だったな。

 レーブンさんとローガンさんには、相変わらずすごく気にかけてもらっている。

 そろそろ冒険者ランクをもう一つあげようかなんて話しも出始めていた頃、その知らせは唐突にやってきた。



 窓から爽やかな光が差し込んでいる朝の黒鷹亭。自分たちの部屋のドアの前で、さっきからハルは難しい表情で固まっている。

 ハルの視線は、わざわざ部屋まで訪れたレーブンさんが手渡してくれた淡い緑色の封筒に釘付けだ。

「えっと…ハル…大丈夫?」

 そっと後ろから覗き込んでみれば、ハルは困った顔で笑ってみせた。

「…あーうん、ありがとう。大丈夫だよ」

 口ではそう答えてくれるけど、いつもよりも明らかに元気がない。大丈夫な反応じゃないよね、これ。

「あー…まあそうなるだろうなとは思ってたけどな…」

 レーブンさんは苦笑しながらも、何故か納得した様子でそんなハルの反応を見つめている。

「まだ手紙の中身も見てないのに…?」

 手紙の内容を見てから固まるなら、中身が何か大変な事だったのかなーって心配するんだけどさ。ハルが見てるのって、まだ本当に封筒だけなんだよ。中身を見てないのにこんな反応するの?と俺は一人首を傾げた。

「アキト、それは封筒を見ただけで差出人が分かる手紙なんだよ」

 レーブンさんはそう言って封筒を指差した。

「え、封筒だけで差出人が?」

 ハルの手の中にある封筒をじっと観察してみたけど、署名すらされてない。

「レーブンさん、でも署名もないみたいですけど…」
「ああ、この色自体が署名みたいなものだからな」
「色?」

 綺麗な淡い緑色の封筒には、よくよく見れば端の方に白と黄色の見慣れない花の模様が入っている。

「えっと…綺麗な封筒ですね」

 綺麗な模様の入った、高級そうな紙を使った綺麗な封筒だなーぐらいしか感想が出てこない。レーブンさんは俺の返答に楽しそうに笑ってから続けた。

「これはトライプールの領主しか使えない封筒なんだ」
「え、そうなんですか?」

 領主しか使えない封筒とかあるんだ。まじまじと封筒を見つめていると、レーブンさんは苦笑しながらハルに声をかけた。

「おい、ハル。いい加減にアキトに説明してやれよ」

 ハルはハッとした顔で俺とレーブンさんを交互に見つめた。

「ごめんね、アキト。レーブン、ありがとう」
「ああ、俺も不意打ちで出して悪かったな」
「いや、人がいない場所を狙って渡してくれたんだろ」

 そうか、そのために朝から部屋まで来てくれたのか。 

「まあな…後は二人で部屋で話すと良い」

 レーブンさんはそう言うとすぐに部屋から出て行った。
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