生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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730.領主城の庭

 背中を向けて歩き出した警備の人達を見送ってから、俺は隣に立っていたハルにぽすりと軽くもたれかかった。体重をかけても少しも揺らがないハルを、上目遣いにちらりと見上げる。

「アキト?」
「あー緊張したー」

 思わずぽつりと小さな声で弱音を口にすれば、ハルは笑いながらすぐに頷いてくれた。

「ああ。まあ慣れないとあの空気は緊張するよね」
「うん、しかも絶対強い人だーって俺でも分かるぐらいだったから余計にね」
「それが分かるようになっただけ、アキトも強くなったって事だよ」

 最初の頃なら分からなかったでしょう?成長したんだよとさらりと褒めてくれたハルは、何でもない事のように続けた。

「ここの警備は、さすがに知り合いが相手でも一切手は抜かないからね」
「…え、さっきの人達、ハルの知り合いなの?」
「うん。まあ知り合いだね」

 ああ、そっか。ハルは騎士として領主城にも来たことがあるだろうから、別に知り合いでもおかしくはないか。

 やりとりを見ててもそんな風には全然見えなかったんだけど、だからこそさすがプロだなと思う。知り合いでも手を抜かないという姿勢には、好感が持てる。

「警備の人もすごいんだね」
「ここの専属だからね」

 感心している俺に、ハルはふふと笑いながら答えた。

「ねえ、アキト。さっき案内が来るまで庭でも見ててって言われたでしょう?」
「うん」
「ここの庭は見る価値があると思うよ。ほら、こっち見てごらん」

 ハルの声と手に促されてくるりと振り返った俺は、視界に飛び込んできた咲き誇る花々に圧倒された。

「うわ―綺麗だね」

 考えるよりも先に声が出た。

「アキトは好きだろなと思ってたんだ」
「うん、好きだ…すごい…」

 語彙力がなくなるぐらい、綺麗に整えられた庭園だった。

 しかも見渡す限りに色とりどりの花が競うようにして咲いているのに、不思議と統一感があって綺麗にまとまってるんだよね。

 これはもしかしたら凄腕の庭師さんとかがいて、しっかり見た目も考えながら大事に育てていたりするのかな。まず庭師って存在に馴染みが無いから、ただのイメージなんだけどさ。

「ここの庭はいつ見ても綺麗だと俺も思うよ」

 ハルは俺の反応に満足そうに笑ってから、目についた花や木々の知識をたくさん教えてくれた。

 あの花の名前は何だよとか、あの花はこの辺りではかなり珍しい花なんだよとかね。

 俺も楽しくなってきてあっちの花は?あの木は?とついつい質問責めにしてしまったけど、ハルは嫌な顔ひとつしなかった。

 さすがに質問しすぎたかなと、我に返ってから反省したよ。

「ごめん、質問責めにしちゃって」
「いや、気にしないで良いよ」
「あまりに綺麗な庭だから夢中になっちゃって」
「楽しかったならそれで良いよ」

 そんな風にハルと話していると、不意に後ろから人の気配を感じた。くるりと振り返れば、少し離れた所に背筋をピンと伸ばして品よく立つ老年の紳士がいた。

 執事と言われてイメージする物語や映画の中の執事さんが、そのまま飛び出してきたんじゃないかと思うようなそんな見た目の紳士だった。絶対モノクルとかが似合いそうな、銀髪の男性さんだ。

「お待たせして申し訳ありません」

 本当に申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした男性に、ハルはすぐに首を振って笑顔で答えた。

「いや、さほど待ってない。それに領主邸の見事な庭を、俺も俺の伴侶候補もしっかりと楽しめたからな」
「ありがとうございます。お二人に楽しんで頂けたのなら何よりです」

 ハルの返事に執事さんは朗らかな笑みを浮かべて、お誉めの言葉に庭師もきっと喜びますとさらりと続けた。

 あー、やっぱりいるんだね、庭師さん。さすが領主邸、すごいなと感心していると、不意にハルが俺の方を見た。

「エルソン、紹介する。俺の伴侶候補アキトだ」

 ハルの手が一瞬だけさっと俺の背中を撫でた。緊張しなくて良いからねと言われた気分だ。

「はじめまして、アキトといいます」
「ご丁寧にありがとうございます。はじめまして、アキト様。私はトライプール領主城の執事長を務めております、エルソンと申します」

 見た目から執事っぽいとは思っていたけど、本当に執事さんだった。執事長のエルソンさんか。

「どうぞよろしくお願いいたします」

 穏やかな声と微笑みを向けられると、緊張感も少しだけ和らいだ気がする。

「こちらこそお願いします」

 ペコリと頭を下げれば、エルソンさんは更に笑みを深めた。

「それではハロルド様、アキト様、こちらへどうぞ。ご案内いたします」



 穏やかな老執事エルソンさんに案内されて辿り着いたのは、城の中でも奥まった位置にある一室の前だった。

 威圧感すら感じる重厚なドア前の廊下には、立派なフルプレートの鎧がいくつも並んでいた。うーん、すごいね。こんなの映画やゲーム以外で初めてみたよ。

 俺がそんなくだらない事を考えている間に、エルソンさんはコンコンと部屋のドアをノックした。

「失礼いたします、旦那様。ハロルド様とアキト様をご案内致しました」
「ああ、入ってくれ」

 エルソンさんが旦那様と呼ぶ人は、きっと領主様――だよね。領主様が怖い人じゃないのは知ってるけど、それでも少しだけ緊張してきた。
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