731 / 1,561
730.領主城の庭
背中を向けて歩き出した警備の人達を見送ってから、俺は隣に立っていたハルにぽすりと軽くもたれかかった。体重をかけても少しも揺らがないハルを、上目遣いにちらりと見上げる。
「アキト?」
「あー緊張したー」
思わずぽつりと小さな声で弱音を口にすれば、ハルは笑いながらすぐに頷いてくれた。
「ああ。まあ慣れないとあの空気は緊張するよね」
「うん、しかも絶対強い人だーって俺でも分かるぐらいだったから余計にね」
「それが分かるようになっただけ、アキトも強くなったって事だよ」
最初の頃なら分からなかったでしょう?成長したんだよとさらりと褒めてくれたハルは、何でもない事のように続けた。
「ここの警備は、さすがに知り合いが相手でも一切手は抜かないからね」
「…え、さっきの人達、ハルの知り合いなの?」
「うん。まあ知り合いだね」
ああ、そっか。ハルは騎士として領主城にも来たことがあるだろうから、別に知り合いでもおかしくはないか。
やりとりを見ててもそんな風には全然見えなかったんだけど、だからこそさすがプロだなと思う。知り合いでも手を抜かないという姿勢には、好感が持てる。
「警備の人もすごいんだね」
「ここの専属だからね」
感心している俺に、ハルはふふと笑いながら答えた。
「ねえ、アキト。さっき案内が来るまで庭でも見ててって言われたでしょう?」
「うん」
「ここの庭は見る価値があると思うよ。ほら、こっち見てごらん」
ハルの声と手に促されてくるりと振り返った俺は、視界に飛び込んできた咲き誇る花々に圧倒された。
「うわ―綺麗だね」
考えるよりも先に声が出た。
「アキトは好きだろなと思ってたんだ」
「うん、好きだ…すごい…」
語彙力がなくなるぐらい、綺麗に整えられた庭園だった。
しかも見渡す限りに色とりどりの花が競うようにして咲いているのに、不思議と統一感があって綺麗にまとまってるんだよね。
これはもしかしたら凄腕の庭師さんとかがいて、しっかり見た目も考えながら大事に育てていたりするのかな。まず庭師って存在に馴染みが無いから、ただのイメージなんだけどさ。
「ここの庭はいつ見ても綺麗だと俺も思うよ」
ハルは俺の反応に満足そうに笑ってから、目についた花や木々の知識をたくさん教えてくれた。
あの花の名前は何だよとか、あの花はこの辺りではかなり珍しい花なんだよとかね。
俺も楽しくなってきてあっちの花は?あの木は?とついつい質問責めにしてしまったけど、ハルは嫌な顔ひとつしなかった。
さすがに質問しすぎたかなと、我に返ってから反省したよ。
「ごめん、質問責めにしちゃって」
「いや、気にしないで良いよ」
「あまりに綺麗な庭だから夢中になっちゃって」
「楽しかったならそれで良いよ」
そんな風にハルと話していると、不意に後ろから人の気配を感じた。くるりと振り返れば、少し離れた所に背筋をピンと伸ばして品よく立つ老年の紳士がいた。
執事と言われてイメージする物語や映画の中の執事さんが、そのまま飛び出してきたんじゃないかと思うようなそんな見た目の紳士だった。絶対モノクルとかが似合いそうな、銀髪の男性さんだ。
「お待たせして申し訳ありません」
本当に申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした男性に、ハルはすぐに首を振って笑顔で答えた。
「いや、さほど待ってない。それに領主邸の見事な庭を、俺も俺の伴侶候補もしっかりと楽しめたからな」
「ありがとうございます。お二人に楽しんで頂けたのなら何よりです」
ハルの返事に執事さんは朗らかな笑みを浮かべて、お誉めの言葉に庭師もきっと喜びますとさらりと続けた。
あー、やっぱりいるんだね、庭師さん。さすが領主邸、すごいなと感心していると、不意にハルが俺の方を見た。
「エルソン、紹介する。俺の伴侶候補アキトだ」
ハルの手が一瞬だけさっと俺の背中を撫でた。緊張しなくて良いからねと言われた気分だ。
「はじめまして、アキトといいます」
「ご丁寧にありがとうございます。はじめまして、アキト様。私はトライプール領主城の執事長を務めております、エルソンと申します」
見た目から執事っぽいとは思っていたけど、本当に執事さんだった。執事長のエルソンさんか。
「どうぞよろしくお願いいたします」
穏やかな声と微笑みを向けられると、緊張感も少しだけ和らいだ気がする。
「こちらこそお願いします」
ペコリと頭を下げれば、エルソンさんは更に笑みを深めた。
「それではハロルド様、アキト様、こちらへどうぞ。ご案内いたします」
穏やかな老執事エルソンさんに案内されて辿り着いたのは、城の中でも奥まった位置にある一室の前だった。
威圧感すら感じる重厚なドア前の廊下には、立派なフルプレートの鎧がいくつも並んでいた。うーん、すごいね。こんなの映画やゲーム以外で初めてみたよ。
俺がそんなくだらない事を考えている間に、エルソンさんはコンコンと部屋のドアをノックした。
「失礼いたします、旦那様。ハロルド様とアキト様をご案内致しました」
「ああ、入ってくれ」
エルソンさんが旦那様と呼ぶ人は、きっと領主様――だよね。領主様が怖い人じゃないのは知ってるけど、それでも少しだけ緊張してきた。
「アキト?」
「あー緊張したー」
思わずぽつりと小さな声で弱音を口にすれば、ハルは笑いながらすぐに頷いてくれた。
「ああ。まあ慣れないとあの空気は緊張するよね」
「うん、しかも絶対強い人だーって俺でも分かるぐらいだったから余計にね」
「それが分かるようになっただけ、アキトも強くなったって事だよ」
最初の頃なら分からなかったでしょう?成長したんだよとさらりと褒めてくれたハルは、何でもない事のように続けた。
「ここの警備は、さすがに知り合いが相手でも一切手は抜かないからね」
「…え、さっきの人達、ハルの知り合いなの?」
「うん。まあ知り合いだね」
ああ、そっか。ハルは騎士として領主城にも来たことがあるだろうから、別に知り合いでもおかしくはないか。
やりとりを見ててもそんな風には全然見えなかったんだけど、だからこそさすがプロだなと思う。知り合いでも手を抜かないという姿勢には、好感が持てる。
「警備の人もすごいんだね」
「ここの専属だからね」
感心している俺に、ハルはふふと笑いながら答えた。
「ねえ、アキト。さっき案内が来るまで庭でも見ててって言われたでしょう?」
「うん」
「ここの庭は見る価値があると思うよ。ほら、こっち見てごらん」
ハルの声と手に促されてくるりと振り返った俺は、視界に飛び込んできた咲き誇る花々に圧倒された。
「うわ―綺麗だね」
考えるよりも先に声が出た。
「アキトは好きだろなと思ってたんだ」
「うん、好きだ…すごい…」
語彙力がなくなるぐらい、綺麗に整えられた庭園だった。
しかも見渡す限りに色とりどりの花が競うようにして咲いているのに、不思議と統一感があって綺麗にまとまってるんだよね。
これはもしかしたら凄腕の庭師さんとかがいて、しっかり見た目も考えながら大事に育てていたりするのかな。まず庭師って存在に馴染みが無いから、ただのイメージなんだけどさ。
「ここの庭はいつ見ても綺麗だと俺も思うよ」
ハルは俺の反応に満足そうに笑ってから、目についた花や木々の知識をたくさん教えてくれた。
あの花の名前は何だよとか、あの花はこの辺りではかなり珍しい花なんだよとかね。
俺も楽しくなってきてあっちの花は?あの木は?とついつい質問責めにしてしまったけど、ハルは嫌な顔ひとつしなかった。
さすがに質問しすぎたかなと、我に返ってから反省したよ。
「ごめん、質問責めにしちゃって」
「いや、気にしないで良いよ」
「あまりに綺麗な庭だから夢中になっちゃって」
「楽しかったならそれで良いよ」
そんな風にハルと話していると、不意に後ろから人の気配を感じた。くるりと振り返れば、少し離れた所に背筋をピンと伸ばして品よく立つ老年の紳士がいた。
執事と言われてイメージする物語や映画の中の執事さんが、そのまま飛び出してきたんじゃないかと思うようなそんな見た目の紳士だった。絶対モノクルとかが似合いそうな、銀髪の男性さんだ。
「お待たせして申し訳ありません」
本当に申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした男性に、ハルはすぐに首を振って笑顔で答えた。
「いや、さほど待ってない。それに領主邸の見事な庭を、俺も俺の伴侶候補もしっかりと楽しめたからな」
「ありがとうございます。お二人に楽しんで頂けたのなら何よりです」
ハルの返事に執事さんは朗らかな笑みを浮かべて、お誉めの言葉に庭師もきっと喜びますとさらりと続けた。
あー、やっぱりいるんだね、庭師さん。さすが領主邸、すごいなと感心していると、不意にハルが俺の方を見た。
「エルソン、紹介する。俺の伴侶候補アキトだ」
ハルの手が一瞬だけさっと俺の背中を撫でた。緊張しなくて良いからねと言われた気分だ。
「はじめまして、アキトといいます」
「ご丁寧にありがとうございます。はじめまして、アキト様。私はトライプール領主城の執事長を務めております、エルソンと申します」
見た目から執事っぽいとは思っていたけど、本当に執事さんだった。執事長のエルソンさんか。
「どうぞよろしくお願いいたします」
穏やかな声と微笑みを向けられると、緊張感も少しだけ和らいだ気がする。
「こちらこそお願いします」
ペコリと頭を下げれば、エルソンさんは更に笑みを深めた。
「それではハロルド様、アキト様、こちらへどうぞ。ご案内いたします」
穏やかな老執事エルソンさんに案内されて辿り着いたのは、城の中でも奥まった位置にある一室の前だった。
威圧感すら感じる重厚なドア前の廊下には、立派なフルプレートの鎧がいくつも並んでいた。うーん、すごいね。こんなの映画やゲーム以外で初めてみたよ。
俺がそんなくだらない事を考えている間に、エルソンさんはコンコンと部屋のドアをノックした。
「失礼いたします、旦那様。ハロルド様とアキト様をご案内致しました」
「ああ、入ってくれ」
エルソンさんが旦那様と呼ぶ人は、きっと領主様――だよね。領主様が怖い人じゃないのは知ってるけど、それでも少しだけ緊張してきた。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。