生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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738.【ハル視点】アキトから見た辺境領伯

 大きく目を見開いたまま固まってしまった俺と領主様の反応を不思議そうに見つめると、アキトはゆるりと首を傾げた。

 なんでそんな反応をするんだろう?とか考えているんだろうな。

「…アキト、本当に良いの?俺の両親に会ってくれる?」

 なんとか我に返った俺は、まず確認するようにそう尋ねた。俺はアキトの両親にご挨拶もできないのに?そう思いながらの質問に、アキトは今回もすぐに頷いてくれた。

「うん。ハルのご家族にも直接会ってご挨拶したいなって思ってたから、むしろ嬉しいよ?」

 もしできるならご両親以外の家族――お兄さんとか弟さんとか、皆に会いたいんだけどななんて可愛い事まで呟いている。

 他の家族にも会いたいと言ってくれるのは、正直に言えばかなり助かる。

 アキトを連れて実家に帰ったら、二人の兄も弟もまず間違いなくアキトに会いに来るだろうからな。例えどんな重要な予定が入っていたとしても、アキトのために嬉々として予定を空ける姿が簡単に想像できてしまう。

 それにしても、アキトはこんなにあっさりと俺の両親に会いたいと言ってくれるんだな。尊敬はしているけど会いたくは無いと言われがちな両親なんだがと、思わず苦笑が漏れた。

 まあアキトはあの本を愛読書としている上に、読んだ感想がケイリー・ウェルマールさんって格好良い人だねだったからな。アキトらしいと言えばアキトらしいか。 

「そうか…アキトは両親にも会いたいって言ってくれるんだな」

 そう呟いた俺の後ろから、慌てた様子で心配顔の領主様が顔を出した。いつの間にか領主様も我に返っていたらしい。

「アキト君、私からもいくつか質問をしても良いかい?」
「はい、もちろんです。どうぞ」

 何でしょう?と聞く体勢になったアキトに、領主様はどこか不思議そうにしながらも恐る恐る尋ねた。

「アキト君は、もちろんハロルドの両親を…知ってるんだよな?」
「はい、知ってます」
「辺境領伯夫婦を知ってるのに、会いたいと思う…?ハロルド、アキト君には本当にきちんと説明してるんだろうね?」

 もし何も知らない子を騙すようにして連れていくのなら許さないよと、視線だけで主張し始めた領主様に俺は苦笑を返した。

「ええ、もちろんきちんと説明はしていますよ。それにアキトの愛読書は、あのケイリー・ウェルマールの冒険ですよ?」

 もう何周目かも分からないぐらい、アキトは何度何度もあの本を読み返している。つまり辺境領伯の恐ろしいほどの強さをしっかりと理解している筈だと主張すれば、領主様は信じられないと呟いた。

「ええー…あの本を読んでるのに、よく会いたいと思えたね?…怖いとは思わないのかい?」
「怖いって…誰をですか?」

 アキトは不思議そうにそう尋ねる。

「あの辺境領の最強夫婦を、だよ」

 あの冒険譚の中には後に辺境領伯の伴侶になる人だと言及こそされてはいないが、実は俺の母親の話も少しだけ混ざっている。おそらくアキトはそれには気づいていないんだろうが、母親の戦闘面での暴走っぷりもしっかり載せられているんだよなぁ。

「???怖くは無いですよ、むしろあの強さには憧れます」

 だからこれはおそらく最強夫婦と言うよりも、俺の父である辺境領伯についての感想なんだろうな。

 アキトの答えを聞くなり、俺と領主様はパッと顔を見合わせた。今の聞いた?と言いたげな領主様の視線に、聞きましたがアキトは本気ですよと目くばせを返す。

「あの、もしかして…普通は怖がられるんですか?」

 しばらく考えこんでいたアキトは、不意にそう尋ねた。領主様は苦笑しながら答える。

「ああ、辺境領は魔物も多くかなり過酷な地だからね。そこを長年治め続けている辺境領伯の最強夫婦は、そのあまりの強さから畏怖される存在でもあるんだ」

 しかも君の愛読書だというあの本のせいで、その強さはとにかく広く知られているからねと領主様は続けた。

「領民からは慕われているんだけど、本人を知らずに本だけを読んだ人にはだいたい怖がられるね」
「その怖がるっていうのが、俺にはよく分からないんですけど」

 アキトは信底不思議そうに首を傾げてつぶやいた。

 きっとアキトからすれば、俺の父親は魔物の多い辺境領のどこまでも頼りになる強い領主なんだろうな。

 まだどこか不思議そうな領主様は置いておいて、俺はもう一度だけ確認した。

「えっと…アキト、俺の両親に会うのは嫌じゃないんだよね?」
「うん、むしろ会いたい」
「怖いとは思わないんだよね?」
「うん、憧れの存在かな」
「…ちょっと妬ける…な…」

 憧れの存在なのかと思わずぼそりとそう呟いた俺に、アキトは大慌てでぶんぶんと手を振った。

「あ、でもね、ハルが一番格好良いのは、絶対に変わらないからね!」
「言わせたみたいでごめんね…でもありがとう、アキト」

 そう言ってくれて嬉しいと笑えば、アキトは目を細めてふにゃりと笑ってくれた。その笑顔も可愛いな。

「はあ、アキト君は本当にハロルドにぴったりの相手だったんだな…」
「ええ、そうでしょう?」
「ハロルドのそんな自慢げな顔が見れるとは、思ってもみなかったよ」

 そう言った領主様は、そんな二人に朗報があるよと笑って告げた。
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