生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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756.【ハル視点】メロウに挨拶

 まさかここまで時間が無いとは思っていなかったが、アキトだって慕ってくれている人や、思いやってくれている人達ぐらいには挨拶をしていきたいだろう。

――いくら伴侶候補とはいえ、周りに挨拶もさせずに辺境領に連れていくのもどうかと思うしな。

「出発前にアキトが挨拶しておきたい人がいるならそこを回ろうか」

 そっと顔を覗き込みながら、俺はそう尋ねてみた。

「えー…挨拶したい人…?」

 アキトはぶつぶつと呟きながら考えこんでしまった。

 邪魔をしないように待っていると、不意にアキトが顔をあげた。
 
「決まった?」

 そう尋ねた俺に、アキトはうんとひとつ頷いてくれた。

「えっと、レーブンさんと、ローガンさん。それにブレイズ達とカルツさん…かな。あ、メロウさんも!今はこれぐらいしか思い浮かばないんだけど…」
「うん、妥当だと思うよ。冒険者ギルドにも顔を出して報告はしておくつもりだから、メロウにもその時に声をかけようか」

 そうしようと頷いてくれるアキトに、俺は笑って続けた。 

「長い間トライプールを離れる事になるからね…アキトが行きたい場所があるならそこも寄るよ?」

 そう、今回の旅はどうしても長旅になる。

 魔法陣を使う事で移動時間は短くできても、あまりに不自然な日程で移動をしたら誰にバレるか分からないからだ。

 だから魔法陣を使用して遠方へ移動する際には、その辺りのつじつまが合うようにしっかりと考えて予定を組む。移動時間が短い分は、あちらでの滞在時間を伸ばして調整するのが普通だ。

 まあ、さっと行ってさっと帰ってきて、あとは領主城から一歩も出ずに誤魔化すという方法もあるんだがな。

 両方の方法をきちんと説明してからアキトに判断を委ねたんだが、アキトは迷うそぶりも見せずに辺境領への滞在を伸ばす方を選んでくれた。あれは嬉しかったな。

 辺境領は確かに様々な危険がある土地だが、同時に俺のふるさとでもある。アキトと一緒に行きたい場所も、見せたいものも、食べさせたいものだってたくさんあるんだ。

「他に寄りたい場所は特に無い…かな。あ、ハルこそ騎士団は良いの?」
「ああ、あっちは顔は出さずに手紙で伝えるから大丈夫だよ」

 どうせ相棒は今の時期は任務中でいないだろうしなと、俺はぼそりと呟いた。ちょうど毎年恒例の南への討伐任務についている頃だろう。

「よし、じゃあ順番に回ってみようか」



 最初に向かったのは、現在地から一番近かったという理由で冒険者ギルドだった。

「メロウは…いないな」

 受付カウンター内にはいなくてもカウンターの後方にいる事もあるんだが、どうやら今日は席を外しているようだ。

「いないね。えっと、誰か他の職員さんに伝言を頼む…とか?」
「あー…できなくは無いが…後が怖い」

 お気に入りのアキトを挨拶も無しに危険な辺境領へ連れていったとあっては、まず間違いなく俺に向かって嫌味が飛んでくるだろうからな。アキト本人に当たったりはしないだろうが…。

「すまない。メロウに話しがあるんだが…」

 そう言いながら、俺はさっと職員にギルドカードを差し出した。

 どんなご用ですとかどなたですかとかそういう面倒なやりとりを省くには、これが一番早いからな。ギルドカードを渡してしまえば、相手の職員にこの人が会いたいと言っていると聞きに行ってくれる。あとは相手の職員が会うか会わないかを判断するだけだ。

 ここまでして会わないと言われたなら、それはあくまでもメロウの判断だからな。文句の言いようも無いだろう。

 断ってくれても良いんだぞと思いながら待っていたが、しばらくして職員は戻ってきた。

「こちらへどうぞ。ご案内します」

 職員に案内されたのは、ギルドの昇級試験時に魔道具を使う小部屋だった。室内に足を踏み入れれば、小さな机の上には山のような書類が積み上げられている。見ただけで嫌になるほどの書類の量だ。

「うわーすごい…」
「ちらかしていてすみません」

 書類の山の中からこちらへ顔を出したメロウは、明らかに疲れた顔をしていた。

「何か…あったのか?」
「いえ、すこし書類の問題が発覚しただけですよ」

 詳しくは説明できませんがと苦笑いを浮かべたメロウに、俺もアキトもそれ以上尋ねるのはやめた。

 本当に書類の問題程度なら、わざわざメロウが駆り出される筈が無い。だからきっともっと大きな問題が起きたんだろうなとは分かったが、本人が話すつもりが無いなら何も言えないからな。

「それで、本日は何のご用でしょう?」

 メロウはそう言うと、アキトに向かってふわりと優しい笑みを浮かべた。ご丁寧に俺から視線を反らしてから笑みを浮かべるあたりが、メロウらしいな。まあメロウにあんな笑みを向けられたら、逆に何か裏があるのかと身構える自信があるが。

「あの、俺とハル、領主様と一緒に辺境領に行く事が決まったんです」
「おや、領主様と一緒に…ですか」

 つまり魔法陣で移動するんですねと俺に視線だけが向けられる。メロウは職務上、魔法陣を知っているし使った事があるからな。俺はちいさくコクリと頷いた。

「はいっ!」
「ご丁寧に報告ありがとうございます。お二人なら問題は無いとは思いますが…辺境領の魔物には油断しないでくださいね」

 突然変異種が混ざっていたりする事もありますからと、メロウは真剣な表情でそんな忠告をよこしてきた。

 この街の誰よりも辺境領に慣れているのは自分だとは思うが、これは俺とアキトを本気で心配しているから出てきた言葉だな。そう理解した俺はぐっと背筋を伸ばした。

「はいっ!気をつけます!」
「ああ、分かっている。油断はしない」

 頷いた俺達を見つめて、メロウは満足そうに笑みを浮かべた。

「ではお二人とも、良い旅を。いってらっしゃい」
「いってきます!」
「いってくる」
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