生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
762 / 1,561

761.【ハル視点】ルセフの躾

 早くハルとアキトを部屋に案内しろと叱るだけ叱って、ルセフはすぐにまた厨房へと戻っていった。片手に調理器具を持ったままだったし、調理中だったのにこっちの騒ぎが気になって来てくれたんだろうな。

 そのおかげで荒ぶっていたウォルターとファリーマも落ち着いたようだ。

 去っていくルセフの背中をじーっと見送っていたウォルターとファリーマは、ハッと我に返るなり俺達を振り返った。

「ハル、アキト。案内もせずに盛り上がって、悪かったな」
「俺も、騒いで悪かった」
「いや、別に気にしなくて良いぞ。そもそもアキトの浄化魔法がすごすぎるせいだからな」

 正直に言えば、だいぶ前からアキトの浄化魔法を誰かに自慢したかったんだよな。

 どうだ俺の伴侶候補はすごいだろうと自慢したいが、その一方で便利な魔法を使えるんだなと変な奴らに目を付けられるのは絶対に避けたかった。

 その点、ルセフ、ウォルター、ファリーマ、ブレイズの四人は、アキトの浄化魔法を便利だと思っても利用しようとはしないだろう。

 そう信じられる相手だから、アキトの優しさからの提案に反対しなかったんだからな。

 俺が上機嫌で笑っているのを見て、ウォルターとファリーマはさっとアキトに視線を向けた。俺が許してもアキトが許してくれないかもしれないと思ったんだろうな。

 まあ、アキトはよっぽどの事が無いと許さないなんて選択肢はしないんだが。

 俺の予想通り、アキトはコクコクと何度も頷いて答えている。

「二人ともありがとうな。あー…じゃあ案内するな。こっちだ、ついてきてくれ」

 先導するように廊下を歩き出したウォルターの背中を二人揃って追っていると、不意にファリーマの怖かったという言葉が後ろから聞こえてきた。

「えールセフさん、別に怖くはないよね」
「ブレイズは気に入られてるからだろう」
「ウォルター兄ちゃんとファリーマさんも、すっごく気に入られてるよ?」

 自信満々でそう断言したブレイズに、ファリーマは苦笑しつつ答えている。

「あー…うん、ありがとな?」

 そんな平和なブレイズとファリーマのやりとりを流し聞きながら進んでいくと、不意にウォルターがひとつのドアの前で立ち止まった。

「ここだ」

 そう言いながらさっとドアを開いてくれたんだが、部屋の中には大きなソファがひとつと、テーブルと椅子がいくつも並んでいた。出窓になっている窓の所には、小さな木彫りや魔石が無造作に並べられている。

 あの木彫りは幸運を呼ぶと言われている精霊の像だな。実際に分かりやすい効果があるわけではないが、運を気にする冒険者にはそれなりに人気があるものだ。

 辺境領には木彫りを取り扱う店が多いから、アキトが気に入るならああいうのも買ってみても良いかもしれない。

「あー、良かったー間に合ったー!」

 ウォルターはふぅーと息を吐くなり、唐突にそんな事を叫んだ。

 間に合ったって何だ?と思わずアキトと顔を見合わせてしまったが、ウォルターはお前らも適当に座ってくれよと言い置いて、そのまま近くの椅子にどさりと座り込んでしまった。

「おい、ウォルター。お前、ちゃんと説明しろよ」

 俺達が口を開くよりも前に、ファリーマがそう声をかけてくれた。

「悪い…説明頼んだ」
「まったく…」

 苦笑したファリーマは、それでもウォルターの代わりに教えてくれた。

 なんでもあんな風に笑顔で怒ってる時のルセフは、本気で怒る一歩手前の状態なんだそうだ。そしてあのタイミングで本気で怒ったら、まず間違いなくウォルターとファリーマの食事に影響がでるらしい。

「食事はいらないんだな?って言われる事はあっても、実際に無しにされた事はまあ無いんだけどな…」

 前にも二人にそう言っているのは聞いた事があったが、実際にした事は無いのか。少しだけ意外に思っていると、ファリーマは顔を歪めて続けた。

「嫌いなものがいっぱい出てくるんだ」
「「嫌いなもの」」

 予想外な言葉に、思わずアキトと言葉を重ねてしまった。

「ああ、俺は貝類が、ウォルターはスラートが嫌いなんだよ」

 スラ―トはこどもが嫌いな野菜の上位にいつも入る野菜だ。あの苦味が無理だという大人も多い。俺はあの苦味が結構好きなんだが。

「一回、本気で怒らせた時があってな…あの時は手を変え品を変え…全部の料理にスラ―トが入ってたんだよ…」

 あれはすごかったとウォルターは分かりやすく肩を落としているが、それは逆にすごく手間がかかるんじゃないか?しかも言い方的に調理法まで変えられているんだろう?

 もし俺がルセフの立場なら、皿に洗ったスラ―トを積み上げるだろうな。

「まあ、俺とウォルターにしかしないんだけどな」
「あれ?ブレイズは今まで一度もルセフを怒らせた事が無いのか?」

 それはすごいなと思わずそう尋ねると、ブレイズは満面の笑みを浮かべてブンブンと首を振った。なんだ、怒らせた事が無いわけじゃないのか。

「だって俺、食べ物の好き嫌い無いからね!」

 なるほど、そういう事か。

「しかも恐ろしい事に、ちょっとずつ食べれるようになってるんだよ!」

 いや、それは間違いなく良い事だろう。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。