生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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772.混み合う食堂

 食べながら寝るというまるでこどもみたいな行動をしてしまったという恥ずかしさよりも、そんなアキトも可愛いと断言される恥ずかしさの方が上回ってしまった。

 一周回って冷静になった俺に向かって、ハルはにっこりと笑いかけてくる。

「どう?落ち着いた?」
「うん…だいぶ落ち着いた」

 まあ、まだ頬は赤いままだとは思うけどね。ハルはまだ赤い俺の頬を物言いたげに指先で優しくそっとなぞると、ふわりと笑みを浮かべた。

 うう、その笑い方はちょっと卑怯だと思う。目を見ているだけでも愛おしそうなのが伝わってくる。

 これは直視してたらもっと真っ赤になるやつだと、俺は慌てて視線を反らした。

 クスクスと笑うハルの声を聞きながら、寝転がることしばし。やっと俺が落ち着いた頃、ハルは笑顔で提案してきた。

「それじゃあまずは身支度してから…レーブンの作った朝食、食べに行こうか?」
「うん、行こう!」

 レーブンさんが作ってくれた朝食嬉しいよねーと元気に返事を返せば、ハルは少しだけ申し訳なさそに眉を下げた。

「そうだね。明日からはまたしばらく、レーブンの料理が食べられなくなる…からね…」

 ああ、そっか。もう明日には俺達はトライプールを出発するんだもんな。当然レーブンさんの料理ともしばらくの間お別れになるのか。

 頭では出発日が近いって理解してたんだけど、改めて言葉にされるとなんだかすこしだけ寂しくなってしまった。

 あーこのままじゃ駄目だな。またハルに心配されてしまうやつだ。俺はにっこりと笑みを浮かべると、さっとベッドから起き上がった。

「よし、それじゃあさっさと身支度しよーお腹空いたよ」
「…ああ、そうだな」

 聡いハルの事だから、俺が誤魔化したのには絶対気づかれたよね。笑顔だってわざとらしかったかもしれない。でも指摘してこないハルの優しさに甘えさせてもらおう。



 浄化魔法を便利に使った身支度を終えてゆっくりと黒鷹亭の階段を下りて行くと、階下からはざわめきが聞こえてきた。

 あれ?何か賑やかだなと考えつつ入口の所から食堂内を覗き込めば、そこは驚くほどの人で賑わっていた。

「わーすっごく混んでる!」

 思わず口からぽろりとこぼれた感想に、ハルは律儀に本当だねと返してくれる。

「そういえば…あんまりこの時間帯に食堂に来た事って無いかも?」

 俺が転がってる時間とか身支度の時間があったとは言え、目を覚ましたのは早朝だったもんな。ここまで早い時間にここにいるのは、もしかしたら初めてかもしれない。

「ああ、この時間は元々結構混んではいるんだけど…それにしてもここまで混むのは珍しいな」

 どこかに空いている席は無いかなとキョロキョロと視線を動かしてみたけど、残念ながら今のところ満席みたいだ。どうやら滅多にない混雑する時間に、運悪く当たってしまったらしい。

「どうする?時間をずらして出直しても良いとは思うんだが…」

 部屋で少し時間を潰そうかと提案してきたハルに頷こうとしたその瞬間、不意に俺達に声がかかった。

「アキト、ハル!」

 俺達の名前を呼びながらぶんぶんと手を振っているのは、昨日もレーブンさんの代わりにカウンターに入ってくれていた、冒険者であり宿泊客のルタスさんだった。

 ハルと二人で顔を見合わせてからそっとテーブルへと近づいていけば、ルタスさんの向かいには長髪の見慣れない男性が座っているのが目に留まった。大きな体を小さくして椅子に座っているのがなんだか可愛らしく見える。

「ルタスさん、おはようございます」
「おはよう」
「ああ、おはよう、二人とも。ここもう空くぞー」
「え、座って良いんですか?」
「おう、昨日は二人のおかげで、俺とこいつもうまい飯が食えたからなー」

 ちょっとしたお礼だと笑ったルタスさんは、あ、こいつ俺の相棒のワルトなとさらりと紹介してくれた。慌てて初めましてと挨拶を交わす俺とハルとワルトさんを、ルタスさんは楽し気に笑いながら見守っていた。

「ルタス、お前なもうちょっと紹介の仕方考えろよ」

 ぶつぶつと文句を言いながらも、ワルトさんはすっと立ち上がって俺達に席を譲ってくれた。

「悪い悪い。それじゃあ二人ともごゆっくりー」
「またな」
「あ、席、ありがとうございます!」
「ああ、またな」

 ぶんぶんと手を振るルタスさんの後ろで、ワルドさんはひらりと控え目に手を振ってくれている。相棒って事は二人で冒険者をやってるんだろうか。

 俺とハルは譲られた椅子に腰を下ろして注文をすると、自然と見つめ合って笑い合った。

「ね、良い人達だったね」
「ああ、ルタスとワルトか。また知り合いが増えたな」
「今度会えたらお礼言わないと、だね!」
「うん、そうだな」

 頼んだ朝食が運ばれてくるまでの間、俺達はトライプールに帰ってきたらしたい事を話し合った。

 トライプールを離れる事が前提にある話なのに、不思議ともう寂しい気持ちは感じなかった。
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