生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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784.出発の日

 今日はいよいよ辺境領へと出発する日だ。

 こどもの頃から遠足や楽しい遊び予定の前日には、興奮しすぎてよく眠れない事が多かった。そんな俺だからもしかしたら眠れないかもなとちょっとだけ不安だったけど、どうやら余計な心配だったみたいだ。

 窓から入ってくる太陽の光で自然と目を覚ました俺は、ちいさくあくびを洩らしながらむくりと起き上がった。

 部屋の中はすっかり明るくなってるけど、別に俺が寝坊したとかじゃない。

 遠距離移動のためには早起きして早朝から動くというのが鉄則だけど、今回は領主様が一緒だから特別なんだって。出発はお昼過ぎだって聞いてたから、こんな時間までのんびりできて俺としてはありがたいけどね。

 あれ、でもハルがいないな。どこにいったんだろうと寝ぼけた頭でぼんやりと考えていると、不意にガチャリとドアが開いた。

「あ、アキト、起きてた?」
「うん、おはようハル」
「おはようアキト」

 寝てる間に帰ってくるつもりだったのにと苦笑しながら、ハルは手にもっていたカゴを持ちかえて俺に見せてくれた。

「今日の出発はゆっくりだって言ったら、レーブンが用意してくれたんだ」

 もしかしてとワクワクしながら覗き込んでみれば、カゴの中にはたっぷり具材の挟まった分厚いサンドイッチがいくつも並んでいた。俺の好きなマルックスのサンドもあるし、ハルの好きなステーキのサンドもあるみたいだ。

 栄養バランスを考えてなのか、サラダやグリル野菜、スープまで添えられている。朝昼兼用になるように考えて、ボリュームたっぷりに作ってくれたんだろうな。

「わー美味しそう!」
「そろそろ食堂は閉まる時間帯だから、部屋でゆっくり食べろって言ってたよ」
「嬉しいなー後でお礼言わないと」
「うん、そうしよう」

 せっかくならレーブンさんも一緒に食べて欲しかったけど、今の時間帯も黒鷹亭は忙しいから仕方ないよね。

 辺境領でも絶対にレーブンさんへのお土産を探そうとこっそり決意しながら、俺はレーブンさんの気持ちのこもったご飯を美味しくいただいた。



 しっかりと用意を終えて階下へ下りていくと、受付にはレーブンさんの姿があった。

「おはよう、アキト」
「おはようございます」
「レーブン、これ。ありがとう」

 ハルがそっと差し出したカゴをちらりと見て、レーブンさんはよしよしちゃんと食べたなと笑みを浮かべた。

「どれもすっごく美味しかったです!」

 ありがとうございましたと勢い込んで告げれば、レーブンさんはくすぐったそうに笑って手を振った。

「気にすんな。俺がお前らに食わせたかっただけだ」
「本当に美味かったよ」
「ハルがそう言うのは珍しいな」

 悪くねぇなと楽し気に笑っていたレーブンさんは、不意に表情を曇らせた。

「…俺は心配だよ」
「なあ、レーブン、何がそんなに心配なんだ?」

 ハルは不思議そうにそう尋ねた。

「辺境領は確かにすごく安全な場所ってわけじゃないが、最近はスタンピードも起きてないし危険度は下がってるぞ」
「ああ、それは知ってる」
「全ての魔物に勝てるとまでは言えないが、アキトと俺なら負けない事はできるだろう」

 俺とアキトは戦闘面での相性も良いからなとハルは続けたけれど、レーブンさんはそういう事じゃないんだと首を振った。

「アキトの事は俺が全力で守るし、アキトだって俺を守ってくれるから大丈夫だ」

 ハルはさらりとそう続けた。俺がハルを守ろうとすることも、当たり前に受け入れてくれているのが嬉しい。

「いや、そういう意味じゃねぇよ」
「じゃあ俺の両親との顔合わせの方が心配なのか?」

 まさかなと言いたげに続けたハルに、レーブンさんはすぐに頷いた。

「ああ」
「アキトは…きっと気に入られるよ」

 ハルはそう言ってくれてるけど、レーブンさんは心配してくれてるって事だよね。うまくいかなかったらとか、俺が拒絶されないかなとか考えてくれてるんだろうか。

 そう思ったけど、レーブンさんの心配の方向性は俺が思っているものとは全く違うものだった。

「そんな事は俺だって分かってるんだよ」
「え?」
「は?」

 ハルと二人で顔を見合わせてから、首を傾げてしまった。

「むしろ俺が気にしてるのは、気に入られすぎちまう可能性の方だ!」
「気に入られすぎる?」
「可能性?」

 気に入ってもらえるのって、良い事じゃない?

「こんなに性格も良くて、可愛げもあって、素直で人たらしなアキトだぞ?あの最強夫婦にも気に入られるに決まってるだろう!」

 えっと、ちょっと褒めすぎじゃないかな。いやレーブンさんがそう思ってくれてるんだって思えば、それはまあ嬉しいんだけどね。

 でもそこまで言われたら褒められすぎて恥ずかしい。頬を赤く染めて視線を向ければ、ハルは重々しく頷いて同意を返していた。うわーなんだか余計に恥ずかしい。

「あの…」
「ハル、絶対にアキトをトライプールに連れて帰ってこいよ。このまま辺境領に住めとか言われたら俺とローガンの名前を使って良い」

 それでも無理なら、領主とかけあって直接乗り込むからなとまで言われてしまった。これって本気で言ってる…よね?

 焦る俺の隣で、ハルは良い笑顔で頷いた。

「まかせてくれ、レーブン。絶対にアキトと一緒に帰ってくるからな」

 えっと…その心配は、いらないんじゃないかな。
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