生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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786.領主城の馬たち

 俺達がここに着いてからほどなくして、領主様の移動のための準備はどうやら終わったみたいだ。今はバタバタと忙しそうに動き回っている人もいなくなって、辺りにはすこしだけ穏やかな空気が流れている。

 俺はというと視界の端で大人しくブラッシングされている馬たちが、どうしても気になって仕方がない。お世話している人達をすごく信頼しているみたいで、みんなされるがままになっているんだ。

 領主城だから鍛えられているのか、普通に街道で借りれる馬よりも筋肉質というか全体的に強そうな見た目なんだけど、そんな馬たちがどことなく幸せそうにしてるのがたまらなく可愛い。

「アキト、もうちょっと近づいてみる?」
「あ…見てたのバレてた?」

 たまにちらちら見るぐらいでじーっと見ないように気を付けてたつもりなんだけど、どうやらしっかりばれていたらしい。ハルには俺の馬好きはバレてるけど、ちょっと恥ずかしい。

「まあね。それにウマもちょっと気にしてるよ」
「え、そう…かな?」
「アキトが俺と話してる間、何頭かこっちを見てたから」
「えー馬にもバレてたんだ。嫌がってないかな?」
「それはな無いね。アキトのキラキラした目で見られて嫌がるウマなんていないよ」

 そんな風にハルは楽し気に言ってくれるけど、それはどうだろう。

「それで、もうちょっと近づいてみる?」
「んー…いや、やめとく」

 あんな立派な馬を近くで見れるのはもちろん嬉しいんだけどね。今から馬車をひくっていう大事な仕事前なのに、俺が近づいたせいで気を散らさせたくないから。

 そう告げた俺に、ハルはふふと笑ってそれもそうだねと答えてくれた。

「でももうちょっと見てて良いかな」
「この距離なら問題無いよ」

 ハルの言葉に馬の方へと視線を向ければ、お世話をしている人たちも笑みを浮かべて小さく手を振ってくれた。たぶん馬好きの同士だってバレたんじゃない?ってハルが言うから、俺も小さく手を振り返した。

 そんな風にのんびりと過ごしていると、あわただしく領主様が広場へと駆けこんできた。

「遅くなったね。みんな待たせてすまない!」
「いえ、お気になさらず。準備は全て終わっております」
「みんなありがとう」

 領主様はそれぞれに少し申し訳なさそうに声をかけて周りながら、俺とハルの前に歩いてきた。

「ハロルドとアキトくんも、待たせてすまないね」
「いえ、それほど待ってませんよ」

 慌てて手を振って答えた俺の隣で、ハルは笑って答えた。

「アキトは大好きなウマがじっくり見れてご機嫌ですよ」
「ウマ…?」
「はい!立派な体つきで強そうで。それにお世話してる人との信頼関係があって、すごいなーって見てました!」

 不思議そうな領主様に元気に答えれば、ハルと領主様はふはっと楽し気に笑った。ううん、今の笑い方すごく似てたな。



 先に出立していく馬車を見送って、俺達はすぐ目の前にある建物へと入っていった。

 領主城の魔法陣って聞いてたからやっぱり領主城の地下とかにあるのかなーって漠然と思ってたんだけど、どうやらそれは領主城じゃなくてこの建物の地下にあるんだそうだ。まあここも領主城の敷地内ではあるから、ある意味領主城とも言えるのか。

 ちなみに俺達が今いるこの建物は、護衛隊員の人達が拠点として使っている詰所みたいな場所らしい。

 もし魔法陣が悪用されたら大変な事になるからって、直接領主城の建物に出るんじゃなくて一番警備が厚いこの建物に出るようにしてあるんだそうだ。

 ハルによると、辺境領側も壁の内側にある衛兵詰所に魔法陣があるらしいよ。どこもそうやって魔法陣の悪用を防いでいるんだって。

 どこまでも続いているような長い階段を列になって下りていきながら、俺はキョロキョロと視線を動かした。

 洞窟にある冒険者ギルドが設置してる光る線とかは無く、所々にある魔道具の灯りでぼんやりと照らされているだけだ。

 うーん、これは暗い所が無理な人だったら、ちょっと辛いかもしれないな。

 俺はそんな事を考えながら、前を歩くハルの背中を追い続けた。



 階段を下りきった先には、石でできた巨大な扉があった。すっごく重そうだ。これは開けるのが大変そうだななんて考えていると、領主様が一歩前へと足を踏み出した。さっと取り出したペンダントのような物をかざせば、ギギギと音をたてながら扉が開いていく。

 え、その見た目で自動ドアなんだ?やっぱり異世界ってすごいな。
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